トヨタ自動車では、国内のモータースポーツの1カテゴリーであるスーパー耐久シリーズに液体水素エンジンを搭載したGRカローラで参戦しているが、この場で鍛えている水素エンジンの技術を将来の実用化に向けて商用のハイエースに搭載。2023年11月に開催されたS耐最終戦の場でオーストラリアで走行実証を行うことを公表した。そして今回、2024年S耐最終戦の場で進化版となる水素エンジンとトヨタハイブリッドシステム(THS)を融合させ航続距離と走行性能を高めた実証実験車両をメディアに公開。試乗する機会に恵まれたので、そのインプレッションをお届けしよう。
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●文:山本シンヤ ●写真:トヨタ自動車株式会社/月刊自家用車WEB編集部
水素エンジンとトヨタハイブリッドシステムの融合で、ガチで滑らかな走りを披露!
―― 右が水素エンジンを搭載したハイエース。左が今回初公開された水素エンジンとトヨタハイブリッドシステムを搭載したハイエース。水素エンジンハイエースは、2023年10月23日よりオーストラリアメルボルン近郊で実証実験を開始。建設会社や警備会社の運行による走行実証を行っている。
現在スーパー耐久の場を活用して水素エンジンの開発が行なわれているが、開発の現場はサーキットだけではなく、並行して実用化に向けたトライも進められている。
―― 2024年スーパー耐久シリーズに参戦し、水素の可能性を探っているトヨタ自動車。参戦車両は液体水素を燃料とした水素エンジンを搭載するGRカローラ「#32 ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept」。
その1つがオーストラリアの公道でグローバルハイエース(300系)を用いて、商用利用としての実用性、運転操作性、耐久性などを進めて、実用化に向けたテストである。ちなみにグローバルハイエースに搭載される水素エンジンは、S耐を戦う水素GRカローラ用の直列3気筒直噴ターボではなく、V6-3.5L直噴ツインターボ(120kW)がベースとなっている。
―― ハイエース(300系豪州仕様)をベースに、水素エンジン搭載仕様に変更した昨年公表車両に対し、トヨタハイブリッドシステムを搭載。エンジンはレクサスLXに搭載されているV35A型3.5LV6ツインターボエンジンをベースに改造している。
実際に使った人からのフィードバックは「動力性能は十分なレベルにあるも、現状200kmの航続距離はもう少し欲しい」と。水素タンクを増やせば航続距離を伸ばせるが、商用だと積載重量や乗車定員を犠牲にはできません。そこで生まれたアイデアがハイブリッドだった。具体的には水素エンジン(120kW)の後ろにFR系のマルチステージハイブリッド(THS+4速ATのシステム、モーター出力:132kW)をドッキング。これにより航続距離は25%アップの250km、走行性能は加速応答25%アップだそうだ。
今回、このテスト車両(何と1か月前に完成したばかり)に特別に試乗させてもらった。
―― 水素エンジンのみの場合と異なり、ハイブリッドシステムとの融合で、滑らかな加速感を実現している。商用車というイメージとは違う滑らかな加速を実現していた。
まずは比較用の水素エンジン仕様のグローバルハイエースに試乗。出力は十分だがアクセルを踏んだ時の応答性の悪さと初期のターボ車のような唐突なトルク特性が気になった。
水素エンジンは燃焼が速いのでレスポンスが良いはずだが、このエンジンはリンバーン燃焼を実現すべく、たくさんの空気を取り込むための大型タービンを使用。そのため、アクセルを踏んでから空気をシリンダーに押し込むまでの“間”が大きく、それが上記のような印象に繋がっているのだ。
もちろん全域でトロいガソリン/ディーゼルのハイエースと比べれば、絶対的な動力性能としては不満はないが、このドッカンな特性は乗員だと“クルマ酔い”、荷物だと“荷崩れ”の原因となり、商用としては厳しい所があるのも否めない。
―― 水素エンジンとトヨタハイブリッドシステムを搭載した豪州向け300系ハイエース。
続いて、水素エンジン+THSに乗り換える。外観は水素エンジン車に対しての違いはステッカーのみだが、運転席に座わるとシフトは電子シフト化、メーターはフル液晶化されている。ちなみに水素エンジン仕様にはあった助手席は外されバッテリーを搭載。そのため乗車定員は水素エンジン仕様よりも1名少ない11名(=積載性も若干犠牲になっている)となっている。
先ほどと同じように走らせてみると、アクセルを踏み込むと間髪いれずに「スッ」とクルマが動き始める。つまり、水素エンジンの過給が立ち上げるまでの間をモーターアシストでカバー。その結果、全域で段付きの無いスムーズな加速を実現している。これはアクセル全開のようなシーンより、一般走行に近い過渡領域のほうが効果てきめんだと感じた。
―― 水素エンジンとトヨタハイブリッドシステム搭載のハイエースは、助手席スペースにHEV電池を搭載している。
ちなみにモーター出力はTHSのシステム出力を単純にそのまま上乗せではなく、実際は約30kWくらい。それ以上のパフォーマンスを求めるとバッテリー出力を高める必要があるそうだが、商用で考えればこれで十分だろう。マルチステージハイブリッドはラバーバンドを抑えたリズミカルな変速が魅力だが、商用だとそれが逆にギクシャク感を生んでしまい、むしろ商用には普通のTHSのほうが相性はよさそうに感じた。
このトルクの段付きが少ないシームレスな特性は加速時の前後方向の揺れの少なさにも効いており、結果としてクルマとしての走りの質も高められている。モーターアシストによる燃費向上は言うまでもないが、筆者はそれに加えてドラビリ向上により無駄にアクセルを踏ませない走りがしやすくなったことも相まって、実用燃費は更に上がると予想する。
もちろん増えたとは言っても、250kmの航続距離で十分かと言われると、「まだまだ」と言わざるを得ないが、トヨタが長年培ってきたハイブリッド技術を組み合わせることで水素エンジンの可能性をよりアシストし、実用化に向けた階段をホップ・ステップくらいはできたような気がしている。
―― 水素エンジンとトヨタハイブリッドシステムの組み合わせで、水素エンジン単体よりも航続距離が約200kmから約250kmへと増加。加速タイムも25%アップしている。
トヨタは「水素エンジンの乗用車を出したい」と言う強い想いを持って開発を進めているようだが、乗用に近い所で実験を進めるもメインストリームは大型トラックだ。水素タンクを搭載するスペースは乗用車より豊富なため航続距離問題も解決しやすい。
とは言え、筆者は小型車に適するガソリンエンジンと大型車に適するディーゼルエンジンが共存しているように、水素パワートレインも適材適所で使えるシステムが複数あっていいと思っている。効率はFCEVのほうが優れるが、高速走行となると水素エンジンの強みが光る。そもそも「水素を使う」が増えない限り普及はなかなか進まない。卵が先か鶏が先のような話だが、間違いなく言えるのはどちらも全力投球する必要があると言う事。
―― 水素エンジン+トヨタハイブリッドシステム搭載ハイエースの試乗会で説明を行ったトヨタ自動車副社長/CJPT社長の中嶋裕樹氏(左)とトヨタ自動車株式会社CVカンパニー 太田博文チーフエンジニア(右)。
そんな水素エンジンハイブリッドは2025年年春にオーストラリアでの実証実験をスタートさせる。リアルワールドで実際の使い勝手や問題点を確認しながら様々な課題を拾い出し、それを次の開発に活かしていくそうだ。
●水素エンジン+HEV ハイエース諸元(今回公表車両)
・全長×全幅×全高:5915×1950×2280mm
・車両総重量:3820kg
・乗車定員:11名(助手席取り外し、HEV電池搭載【1名減】)
・エンジン最高出力:120kW
・モーター最高出力:132kW
・航続距離:約250km(走行条件による)
・走行性能(加速タイム):水素エンジンハイエースに対し25%アップ
●水素エンジンハイエース主要諸元(昨年公表車両)
・全長×全幅×全高:5915×1950×2280mm
・車両総重量:3820kg
・乗車定員:12名
・エンジン最高出力:120kW
・航続距離:約200km(走行条件による)
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