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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【番外編:サーキットの狼ミーティング】

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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【番外編:サーキットの狼ミーティング】

満員御礼となった「池沢早人師 トーク&サーキットの狼ミーティング」

1975年から1979年にかけて週刊少年ジャンプで連載された『サーキットの狼』は爆発的ヒットを記録し社会現象に発展した。それは今大注目されている漫画『鬼滅の刃』が引き起こしているブームに勝るとも劣らぬほど、と言えばその規模がわかるだろうか。

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【番外編:サーキットの狼ミーティング】

その内容は主人公である“風吹裕矢”がロータス ヨーロッパを駆り、公道グランプリを経てプロレーサーへと成長していくストーリーだが、作中にはフェラーリ 512BB、ランボルギーニ ミウラ/カウンタック、ポルシェ 911、トヨタ 2000GTなど世界を代表するスーパーカーが登場し読者たちを熱狂させた。

『サーキットの狼』はトヨタ博物館にも収蔵

また、同作品をきっかけとして週末ごとに開催された「スーパーカーショー」にはカメラを携えた子供たちが大挙して押しかけ、日本中にスーパーカーブームという社会現象を巻き起こしたのである。

同作品は日本における自動車漫画のパイオニアであり、『サーキットの狼』が築いた「クルマが主役となったバトルストーリー」はその後、『イニシャルD』や『湾岸ミッドナイト』などの人気作品へと受け継がれている。

大人気の『サーキットの狼』にも連載休止の危機があった?

そんな名作の誕生から45年、生みの親である池沢早人師先生を招いたトークショー「池沢早人師 トーク&サーキットの狼ミーティング」が、愛知県長久手市にあるトヨタ博物館で開催された。会場である文化館1階ホールには池沢先生の話を聞くために定員200名を優に超える約300名のファンが詰めかけ、急遽増設された椅子でも間に合わず立ち見が出るほどの大盛況。これには主催者であるトヨタ博物館の関係者も「これほど盛り上がったトークショーは久しぶりです」と驚きを隠せない様子であった。

トークショーでは『サーキットの狼』の誕生秘話や裏話、先生のクルマ遍歴が語られた。その中にはファンも知らないような裏話も数多く、驚かされたのは大人気を誇った同作品も連載から10話目くらいで打ち切りの話があったということだ。

週刊少年ジャンプはアンケートによって人気ランキングが付けられるが、10話目までのアンケートで人気が中盤だった『サーキットの狼』は「あと3回で終了」と宣告されていた。しかし宣告の直後、翌週のアンケートで人気投票1位を獲得。その瞬間、編集部から「休載の話は無しでお願いします」と態度が急変したという。池沢先生は「あのアンケートで1位を獲っていなかったらスーパーカーブームはなかったと思う」と語った。

同作品の人気が高まっていくことを実感したのは、週末に友人たちと箱根や伊豆の峠に向かうために東名高速道を走っていると、週を追うごとに橋の上にクルマを見るために集まる子供たちの姿が増えていったことだという。「筆が速く、机に向かっている時間よりもクルマで走り回っている時間の方が長かった漫画家だから肌で感じることができた」と池沢先生は笑う。

70台を超える愛車遍歴の中でも思い出深いトヨタ 2000GT

池沢先生の愛車遍歴は、初めて手に入れたトヨタ コロナから現在のポルシェ 911まで含めて70台を超えるというが、その中で最も思い出に残るクルマがトヨタ 2000GT。地元の商店街で見かけて“ひと目惚れ”をした先生は手に入れることを決めたそうだが、購入を考えた時には新車の販売はすでに終了しており、2年落ちの中古車の後期型モデルを250万円で購入。

しかし、エンジンが不調で最高速が百数十km/hしか出ず、品川のトヨタディーラーでメンテナンスを施してもらうと絶好調に復調。復調に歓喜した池沢先生はUターン時に道路のキャッツアイでオイルパンを割ってしまうトラブルに見舞われたそうだが、その逸話は『サーキットの狼』作中で“早瀬佐近”がトラックから落ちてきた丸太に激突しオイルパンを壊してしまうネタとして使われた。

トヨタ 2000GTは自分の愛車としての思い入れが強く作中に登場させることを決意。しかし、主人公を含めて既に配役が決まっていたこともあり「憎めないヒール役」として“隼人ピーターソン”を作り上げ、ハーフという設定で国際色を強く打ち出した。作中では「YOUたちは日本人なのになぜ外車に乗っているんだ」という台詞を使い、日本の自動車メーカーを鼓舞したのだという。

トークショーでファンの質問に応えるサプライズ!

会場では詰め掛けたファンとの交流が行われ、ファンの質問に応えるサプライズも披露された。ここではQ&Aを抜粋してご紹介しよう。

Q:今『サーキットの狼』を連載していたら、登場人物はどんなクルマに乗せますか?

池沢先生:主人公はロータス エリーゼか新型のアルピーヌ A110に乗せたいね。A110は今、欲しいクルマだしとても気になるクルマ。試乗したけどスタイリングもハンドリングも素晴らしかったからね。

Q:レースで星野一義さんとコンビを組んだことがありましたが、どんな印象でしたか?

池沢先生:1977年にTSサニーでデビューした時、辻本レーシングでコンビを組ませてもらったんだよね。星野さんとコンビを組んだのは最初にして最後になったけど本当に凄い人だった。その耐久レースでは同じ車両でラップタイムが2秒近く違った。星野さんがトップカテゴリーで日本一速い男と呼ばれだした頃だったね。このときはマイナートラブルがあって、最終的にはクラス3位でレースを終えた。

Q:若者のクルマ離れを止めるにはどうすれば良いとお考えですか?

池沢先生:『サーキットの狼』では免許を持っていなかった子供たちが読者となり、目を輝かせてクルマに興味を持ってくれた。だから、天下のトヨタさんがアニメ番組を作って子供たちを育てて欲しいよね。クルマを憧れの存在として感じさせる、近未来のスポーツカーが活躍する漫画やアニメーションを作って放映すれば、未来のユーザーを育てられる。その時はボクにも声をかけてください(笑)。既に構想はボクの頭の中にあるし、スーパーカーの次にくるクルマの呼び名も考えてあるよ。

Q:先生がクルマに乗る時にしている習慣はありますか?

池沢先生:クルマに乗る時には必ず暖気運転をする。エンジンが暖まるまでの時間も楽しみのひとつだからね。最近は「優しい運転」も心掛けている習慣かな。少し前に横断歩道を通過したときのことだけど、右手の反対車線側から渡ろうとしている母子がいて、ボクは既に横断歩道に差し掛かっていたから何気なく通過したら、反則切符を切られてしまった。それからは心を入れ替えて道を譲ることにしたんだけど、道を譲ると渡ってくる人が挨拶をしてくれたり、にっこりと笑ってくれる。それが嬉しくてね。最近は「人に優しい運転」がボクの習慣。

Q:JGTCにカウンタックで出場した時の苦労話を教えてください。

池沢先生:実はレースで使っていたカウンタック LP5000 QVは、ディーラーが新車を搬送している際にダメージを負わせてしまった個体を提供してもらってベースにしていたんだけど、JGTCにエントリーしていながらもほとんどノーマル状態に少し手を入れた程度で走っていた。クラッチなんて1シーズン交換しなかったからね。

スタートの時も気を使ってレーシングスタートはしなかった。カウンタックはトラブルに泣かされて、ワンシーズンで2戦くらいしか完走できなかったのかな。でも、その苦労がレースに興味が無かったランボルギーニ社を動かしてレース用のディアブロに繋がり、今のスーパートロフェオに繋がっているんだと思う。カウンタックの次に乗ったディアブロは速さよりも音が良くて、長谷見さんもピットまで見に来てくれた。レースでは真っすぐ走らなくてマッチのフェラーリ F40にブチ抜かれちゃったけどね(笑)。

Q:今後、新連載の予定はありますか?

池沢先生:GENROQ Webで愛車遍歴の連載企画を持っているけど、残念ながら今は漫画を描いていない。今書きたいと思っているのは小説だね。5年くらい前に出版した初の小説『三流レーサー』は、レーサーの脇阪寿一さんが気に入ってくれて二度もインスタで紹介してくれた。その他に知り合いのレースクイーンも何人か紹介してくれたのは嬉しかったね。でも残念ながら再版はかからなかった・・・。スーパーGTのファンには是非読んでもらいたいから、いつか文庫本で出したい。その他の小説作品も電子書籍で出版が始まっているし、今後はテレビドラマになるようなものも書いてみたいね。

池沢早人師先生の“神対応”にファンは大興奮!

時間が続く限りファンの質問に答え続けた池沢先生。その後にはサイン会も行われ、1枚1枚丁寧に“風吹裕矢”の顔とサインを書き続けた。その“神対応“ともいうべきファンサービスが先生の人柄を物語っていた。世界のトヨタを驚かせた集客力と共に連載から40年以上の時を経ても色褪せることのない『サーキットの狼』が持つ絶大な人気は稀有な存在だといえるだろう。

トークショーを終えた池沢先生は「サーキットの狼ミーティング」の会場となったP1駐車場へと足を向けた。今回のイベントを開催するにあたり、同作品に登場するスーパーカーをwebで募集。“風吹裕矢”が駆ったロータス ヨーロッパを実車として再現したモデルや、ランボルギーニ ミウラ/カウンタック、ポルシェ 911、フェラーリ 308/328、トヨタ 2000GTなど、広大な駐車場を舞台に集結した47台のスーパーカーを前に池沢先生との交流が図られたのである。その詳細は次回の連載で報告したい。

REPORT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

PHOTO/降旗俊明(Toshiaki FURIHATA)

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