BMWの大型5ドアハッチバックモデル「623d グランツーリスモ」。日本では見る機会の少ない“グランツーリスモ”の魅力とは?
日本導入の意味
6シリーズ グランツーリスモ(以下GTと略)は、BMWラインナップきっての“希少車”だ。BMWが2018年に全世界で生産した約213万台のうち、6シリーズの占める割合はクーペ、カブリオレ、グランクーペを含めても1%程度にすぎない。日本における6シリーズGTの販売規模は、年間1000台に満たないだろう。
基本構成が5シリーズと共通するとはいえ、日本にひとつの車種を持ってくるとなれば、商品企画をして役所の認証を取って、取扱説明書や販促素材の現地化を図って……という数々のプロセスとコストが必要になる。
私のインポーター勤務の経験から言うと、それでも日本でちゃんと販売される理由は、「ひょっとしたら妙に好評で、売れてしまうかも」なんて淡い期待からではない。
Sho Tamuraもし導入を見送れば「販売機会の損失。アウディにはA7スポーツバックがあってポルシェにはパナメーラがあるのに、なんで6シリーズGTは日本に入らないんだ」と、全国各地のディーラー経営者から非難される可能性が高い。販売拡大を巡って日々ディーラーと暗闘を繰り広げているインポーターとしては、突っ込まれるネタを自ら提供することは避けたいはずだ。
ぐっと身近になったラインナップ
現行5シリーズ セダンのG30、5シリーズ ツーリングのG31と隣り合わせたG32という開発コードが示すとおり、6シリーズGTのパワートレインやシャシーは5シリーズをもとにする。
ただし、丸みを帯びたルーフラインとファストバック スタイル、5シリーズより95mm長く、7シリーズと並ぶ3070mmのホイールベースを持つボディは、独自のデザインだ。
Sho Tamura2017年10月に発売された「640i xドライブGT」は、現行7シリーズと同様、4輪をすべてエアスプリングで吊ったサスペンションが特徴で、文字通り5シリーズと7シリーズの中間に位置する構成だった。6気筒ガソリンエンジンと4WDシステムの組み合わせもあって、車両本体価格は1081万円に及んでいた。
2018年8月に導入されたガソリン車の「630i GT」、昨年7月に導入されたディーゼル車の“623d GT”は、ともに4気筒エンジンによる後輪駆動で、サスペンションもフロントがコイルスプリング、リアがエアスプリングという5シリーズ ツーリングと同じ構成を選んだ。640i xドライブGTはカタログから落ち、新ラインナップの価格は846~919万円とぐっと身近になった。
デザインの妙
全長5105✕全幅1900✕全高1540mmというサイズの623d GTを外から眺めていると、「大きなクルマだなぁ」とは思っても、“背が高いクルマ”と、すぐには気づかないかもしれない。だからそれだけに、いざドアを開けて乗り込んでみると、ドライバーズシートが明らかに普通のBMW製セダンより高い位置にあって見晴らしがよく、それでいてヘッドクリアランスも十分確保されていることに驚くだろう。これぞデザインの妙だ。
Sho Tamuraダッシュボードこそ5シリーズと共通のデザインであるが、ドアはサッシュレス化されていてドアトリムにも専用のものを使用する。筆者(身長172cm)がポジションを合わせた運転席の後ろの席に座ってみると、ひざ前には28cmもの余裕があり、ラゲッジルーム容量も610~1800リッターと、5シリーズ ツーリングを上まわる。
これほどゆったりした空間を確保していながら、車重は640i xドライブGTに比べ150kg軽い1860kgに抑えられているのが623d GTの美点で、最高出力190ps/最大トルク400Nmの2.0リッター直列4気筒ディーゼルターボでもよく走る。箱根ターンパイクの上りでもパーフェクトと言ったら嘘になるが、日本の高速道路では十分な動力性能だ。
全長5.1mのサイズをほとんど意識させない軽快さ
フル エアサスペンションに比べれば簡素化されているものの、623d GTの足まわりは3m超のホイールベースを活かし、優しくゆったりしつつも目線の安定した挙動を示す。
Sho Tamura目地段差でやや強めの反応を返すのは、ランフラット タイヤゆえだろう。7シリーズの、いかにも分厚くてでかいプラットフォームに乗せられた感触とは違う解放感が、これはこれで心地よい。
後席にも乗せてもらったところ、スペースは十分だし乗り心地は悪くないのだが、フロントシートが衝撃吸収に優れていることもあり、前席の快適さには及ばなかった。
ハンドリングは、4輪を操舵する「インテグレーテッド アクティブ ステアリング」の設定が変わるせいか、コンフォートモードにおける繊細さとスポーツモードのどっしりとした安定感が対照的にすら思える。前者では操舵のあと一拍置いてボディが動き出し、ステアリングを戻したあとも一拍置いて収まるのに対し、後者では終始一発で挙動が決まるので安心感が高い。
そんなスポーツモードを利したワインディングロードでの足取りは、さすがに3シリーズに比肩するとまでは言わないが、全長5.1mのサイズをほとんど意識させないほどに軽快だ。絶対的に重いとはいえ前後重量配分は46:53(車検証上の値)と良好ゆえ、ノーズはドライバーの意図したとおりに反応する。
8段ATと巧みに協調するディーゼルユニットは、ガスペダルの開度に合わせて常に適切なトルクを、目の詰んだ抑制のきいたサウンドとともに生み出す。低回転域から充実したパワー、静粛性、そして滑らかさといった点で、ディーゼル エンジンであることがまったくネガティブ要素になっていない。
Sho Tamura安心して手に入れられる“希少性”
623d GTにはこれまで紹介したとおり、ハードウェアの面で合理的な選択理由が存在するわけであるが、希少性の高いモデルを、充実したセールス ネットワークから手に入れられる数少ない選択肢、という側面も実はある。
人が持っていない希少車が欲しいとなると、基本的には小規模なメーカー/インポーターから探すことになる。しかしいざメインテナンスの段になるとディーラーが遠くて不便だったり、旅行の折に心細かったりする。その点BMWであれば、ほぼすべての都道府県をディーラー網がカバーしていて、サービスのキャパシティも心配ない。
6シリーズGTは、かなりオリジナリティの高いフォルムを持ちながら、極端にきらびやかに見えないのもまた好ましい。
“あくまでクルマは道具、けれどスマートに自己主張も示しておきたい”という高級車ユーザーが考慮するのに値するモデルとして、マークしておきたい。
文・田中誠司 写真・田村翔
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みんなのコメント
てっきり1世代で終わると思ってたんだが
黒歴史を塗り重ねるとはぶっ飛んでる
でも、パクりではない。