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2台分のガレージが欲しくなる フィアット・ヌォーヴァ500 EV ロンドンの中心で体験(2)

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2台分のガレージが欲しくなる フィアット・ヌォーヴァ500 EV ロンドンの中心で体験(2)

電動化とのネガティブではない競争関係

バッテリーEVのメリットに、クラシックカー・ディーラーを営むピーター氏は疑問を投げかける。電気自動車へ積極的に乗り換えるより、現在のクルマを大切に走らせた方が、ライフサイクル全体でのCO2排出量は減るだろうと、彼は考えている。

【画像】電動化はクラシックカーを救う? フィアット・ヌォーヴァ500 EV オリジナルの500と600 現行の500eと600eも 全145枚

多くのクラシックカーを電動化するのにも、駆動用バッテリーを作る必要がある。しかし、貴重なクルマは年間の走行距離が短い。ガソリンを燃やす量も限定的で、変換作業で発生するCO2を電動走行で回収するには、相当な時間が必要になるだろう。

一方、ロンドン中心部などのウルトラ・ローエミッションゾーンでは、古いクルマに対する規制免除も行われている。「数年後には、電動化されたクラシックとエンジンを維持したクラシックとの間で、ネガティブではない競争関係が生まれるかもしれません」

少なくとも今のところ、エレクトロモッドの需要はさほど大きくなく、不要になったバッテリーが再利用されている。空気のクリーンさも重視される都市部では、有効性は間違いない。

ピーターとお別れし、東のウェストミンスターへ。政府機関が立ち並ぶ静かな通りを、フィアット・ヌォーヴァ500 EVが進む。車内は狭く、クラッチペダルを踏まずに左足を浮かしているのは、案外疲れる。

ウェストミンスター橋へ続く通りは、いつもどおり渋滞中。ブレーキペダルを緩めて、数m進んでを繰り返す。通りすがりの観光客が、小さなイタリア車とビッグベンとのツーショットを撮影していく。

エレクトロモッドはクラシックカーと相性が良い

巨大な二階建てバスの隣では、気持ちが引き締まる。だが、混雑した交差点では小さなボディの扱いやすさが光る。目指すゴールは、英国で初めてクラシックカーの電動化を手掛けた、ロンドン・エレクトリック・カーズ社。ウォータールー駅の目の前にある。

創業者のマシュー・クイッター氏はエレクトロモッドのプロだが、課題の存在も理解している。「弊社をスタートさせた時の目標は、手頃な価格でEVへのコンバージョンを実行することでした」

「でも、それは大きな間違いでした。下を見て競争しても、メリットはありません。2万ポンド以下を考えていましたが、チャンスはなかったようです」

エレクトロモッドには、技術と時間が必要になる。初めてのモデルでは、設計・開発が特に重要だと認める。「モーリス・マイナー・トラベラーへ、日産リーフのパワートレインを積んだことがありました」。と、初期の失敗例を振り返る。

「最高出力は2倍、トルクは4倍以上に増えましたが、車重は350kgも増えたんです。シャシーとサスペンション、ブレーキも、すべて問題だらけ。ヘッドライトを交換するのに、バッテリーパックを外す必要もありました。すべて作り直しましたよ」

自身もクラシックカー・ファンであるマシューは、エレクトロモッドは割かれる予算や情熱の面で、クラシックカーと相性が良いとも考えている。「見た目は好きでも、信頼性や排気ガスを懸念する、新しいユーザー層が増え始めています」

信頼性を高め、性能を向上させる手段の1つ

前例がないモデルのエレクトロモッドには、10万ポンド(約1810万円)は必要になるようだ。ミニやランドローバーなど、既に経験があるモデルなら、3万ポンド(約543万円)台で可能らしい。

最近は、車検の規制も厳しくなっているという。「エレクトロモッドでは、シャシーやモノコックを一切変更しないよう、注意しています。古いナンバープレートが無効になり、年式などが不詳のQナンバーで再登録することになるんです」

「かつては、クラシックカーの冒涜だという人が殆どでした」。とマシューは苦笑いする。「オリジナルの状態へ戻せるよう配慮しています。また、丁寧なレストアを経て電動化されることが殆どですよ」

彼は、クラシックカーの信頼性を高め、性能を向上させる手段の1つに過ぎないとも話す。「受け止め方次第です。ステアリングホイールを交換しただけで、否定するマニアもいますからね」

ウォータールー駅を背にし、西のモートレイクへ戻る。南の環状線をチョイスしたが、ここでは乗り心地が試される。車重が増えたおかげで、本来の跳ねるような挙動は鎮められている。

サスペンションのストロークは短く、タイヤは小さい。荒れた路面を受け入れる能力は、基本的に高くない。マンホールやアスファルトの剥がれた穴では、背骨が痛くなるような振動が生じる。幅の狭いボディを活かし、避けるのが得策だ。

EVも収まる2台分のガレージが必要

数時間運転する内に、エレクトロモッドによる新鮮さは薄れてしまった。扱いやすく、静かで、気兼ねなく乗れるヌォーヴァ500だということへ意識が変化していく。

オリジナルの空冷2気筒エンジンは、多くのオーナーにとって悩みのタネになりがち。ヌォーヴァ500は、エレクトロモッドのベースとして理想的なモデルに思える。

日常的な走行距離の短さを考えると、都市部での利用が中心のコンパクトカーは特に理に適っている。ロンドンの西から東への往復で消費した駆動用バッテリーの容量は、25%程。撮影のために、だいぶウロウロしたのだが。

もし、自身のガレージに停まる唯一のクラシックカーが電動化されていたら、刺激的で歴史的な自動車を運転するという、欲求を満たすことはないだろう。しかし、市民に愛されてきた古い量産車なら、エコな移動手段として普段使いしたいと思える。

ガソリン価格は更に上昇し、給油できるスタンドの数は減っていくはず。それでも筆者の理想としては、ガソリンエンジンを積んだクラシックカーを、ガレージに収めておきたい。その横には、日常の足としてバッテリーEVも並べたい。

つまり、2台分のガレージが必要になりそうだ。まず解決すべきは、これかもしれない。

撮影:ジャック・ハリソン
協力:クラシック・クローム社、ピーター・ブラッドフィールド社、ロンドン・エレクトリック・カーズ社

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