6月15~16日、フランス・ル・マンのサルト・サーキットでWEC世界耐久選手権第4戦/第92回ル・マン24時間レースの決勝が行われ、悪天候による長時間のセーフティカー導入などにより終盤まで接戦が続いた争いを、フェラーリAFコルセの50号車フェラーリ499P (アントニオ・フォコ/ミゲル・モリーナ/ニクラス・ニールセン)が制した。
クラス最後尾グリッドからレースをスタートしたトヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッド(ホセ・マリア・ロペス/小林可夢偉/ニック・デ・フリース)が、わずか14.221秒差で2位に入った。
【暫定結果】2024年WEC第4戦/第92回ル・マン24時間 決勝
最高峰ハイパーカークラスに9つのマニュファクチャラーを集め、GTカテゴリーがLMGTEからLMGT3へと変更、WECのシリーズ戦では廃止されたLMP2クラスがこのル・マンでのみは復活するなど、従来とは異なる注目点が散りばめられていた2024年のル・マン。予選ハイパーポールでは6号車ポルシェ963がポールポジションを獲得し下馬評どおりの速さを示したが、いざ決勝が始まると、予選で後方に沈んだトヨタGR010ハイブリッドが復調、そして前年の100周年大会を制したフェラーリ499P勢が速さを発揮するなど、戦前の予想とはやや異なる展開ともなった。
また、現地時刻15日16時にドライコンディションでスタートしたレースは、夕方、深夜、明け方、フィニッシュ前と幾度も降雨に見舞われたことで、コンディションに合わせたタイヤ選択や、安全確保のために導入される“スローゾーン”なども勝負の流れを左右しただけでなく、たびたび導入されたセーフティカーによって各車のギャップが詰まったこともあり、終盤まで先の読めない接戦が続くこととなった。
序盤は83号車フェラーリ499P(AFコルセ)がレースをリードしたが、夜に入って15号車BMW Mハイブリッド V8との接触によりペナルティを受け、後退。代わって8号車トヨタGR010ハイブリッドが首位に立った。
朝方の長時間のセーフティカー先導走行を経て、残り8時間程度でレースが再開。上位勢のギャップがリセットされたことで、日曜の昼に入っても数秒差でポジションを争う、スプリントレースさながらの激戦が展開された。
朝までは6号車ポルシェも上位争いに加わっていたが、その後路面が乾き始めるとふたたびフェラーリ勢が速さを取り戻し、終盤に向けてはトヨタ勢とフェラーリ勢が首位争いを繰り広げた。このなかではスローパンクチャーや接触、ピットでのロスなどがあったが、最後の1時間は2番手7号車トヨタの約35秒前を走る首位50号車フェラーリが、燃料補給のためのピットストップを行うかどうかが焦点に。
しかし50号車をドライブするニールセンはフィニッシュラインまで燃料補給なしに逃げ切ることに成功し、フェラーリにとって2023年大会からの連覇を決めた。2位は7号車トヨタ、3位には51号車フェラーリ499Pが入った。
LMP2クラスは、ユナイテッド・オートスポーツ22号車オレカ07・ギブソン(オリバー・ジャービス/ビジョイ・ガーグ/ノーラン・シーゲル)がクラス優勝。LMGT3では、マンタイEMAの91号車ポルシェ911 GT3 R LMGT3(ヤセル・シャヒン/モーリス・シューリング/リヒャルト・リエツ)が栄光を手にしている。
■ル・マン24時間レース“101周年大会”決勝終盤の詳報
レース終盤の18時間目に、インディアナポリスで発生した27号車アストンマーティン・バンテージAMR GT3(ハート・オブ・レーシングチーム)の横転クラッシュによって導入されたセーフティカーラン(SC)は19時間目の30分を過ぎた頃に解除された。
ターニングポイントのひとつとなったこのSCランの最中、AFコルセ勢は83号車と50号車フェラーリ499Pをいち早くピットインさせトラック上の有利なポジションを確保した。残り時間は5時間26分、SC中のピット作業により2号車キャデラックVシリーズ.R(キャデラック・レーシング)がトップに浮上し2番手以下の5号車ポルシェ963(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)、83号車フェラーリ、50号車フェラーリ、7号車トヨタGR010ハイブリッド(TOYOTA GAZOO Racing)、6号車ポルシェ963(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)、8号車トヨタGR010ハイブリッド(TOYOTA GAZOO Racing)までの上位7台が僅差でリスタートを迎える。
このハイパーカー上位勢が激しいバトルを繰り広げるなか、インディアナポリスで311号車キャデラックVシリーズ.R(ウェーレン・キャデラック・レーシング)が激しいクラッシュを喫する。しかしアクション・エクスプレス・レーシングが運営する赤いキャデラックはボディカウルだけでなく、足回りにもダメージを負いながら自走でピットに戻った。
先のSCからの再開後に8号車トヨタが6号車ポルシェをかわして6番手に順位上げた直後、姉妹車で小林可夢偉がステアリングを握る7号車トヨタのペースが鈍り8号車と6号車に相次いで攻略される。可夢偉のマシンは何かしらのトラブルを抱えているようで明らかにペースが悪い。
19時間目の終盤、311号車キャデラックが撒いたデブリの除去やタイヤバリアの修復のため、ミュルサンヌからポルシェカーブにかけてスローゾーン(SZ)が導入される。このタイミングで首位を走る2号車キャデラックがピットに入り多少の恩恵を受けた。ステイアウトを選択した2番手以下のグループではアントニオ・フォコがドライブする50号車フェラーリが、先行する5号車ポルシェをかわしてトップ立った。
20時間目を目前にポルシェ5号車がピットイン。そこから約20分後、50号車以下83号車フェラーリ、8号車トヨタ、6号車ポルシェ、7号車トヨタまでの5台が同時にピットインし、これら全車が2号車キャデラックと5号車ポルシェの間でコースに復帰した。総合首位に戻った2号車とフェラーリ50号車とのギャップは10秒に拡がった一方、19時間目にペースを失った可夢偉の7号車が息を吹き返し、5番手を走る6号車ポルシェに勝負を挑んでいく。
その7号車はスタートから19時間40分が経ったところで緊急ピットイン。左フロントタイヤのパンクだった。これで7号車トヨタは2号車キャデラックとほぼ同じピットシークエンスとなる。2台の差は約5秒だ。
長らく83号車フェラーリにプレッシャーをかけ続けていた8号車トヨタのブエミが、フルコースイエロー(FCY)の解除直後にロバート・シュワルツマンをかわし50号車と83号車のフェラーリ勢の間に食い込む。直後、上位集団のなかで8号車トヨタが動きライバルに先んじてピット作業を行っていく。ピットアウト後は2号車キャデラックの後ろ、姉妹車7号車トヨタの前に戻った。翌周にフェラーリ勢と6号車ポルシェがピットに入るが、ともにタイヤ交換を行った499Pのうち、黄色いマシンの83号車が電気系とみられるトラブルで動き出せず。ドライバーはマシンを降りクルマはガレージに収められてしまった。
21時間目、トヨタの2台が順位を入れ替えタイヤがフレッシュな7号車が青いキャデラックをキャッチしに行く。しかしル・マン初参戦のアレックス・パロウ駆る2号車のペースも良く可夢偉の接近を許さない。6号車ポルシェはこの時間帯のピット作業で51号車フェラーリを逆転。フェラーリAFコルセは、シャワー(雨)予報があるにもかかわらずソフトからミディアムタイヤにスイッチした。この直後、可夢偉からホセ-マリア・ロペスにドライバー交代をしたばかりの7号車トヨタが左フロントタイヤのスローパンクチャーでふたたび緊急ピットインを強いられる。
チェッカーまで残り2時間半。姉妹車51号車とともに技術的違反に戒告の裁定が下った50号車フェラーリが、見た目でも事実上でも総合トップに立ち、8号車トヨタが6.5秒差でこれを追うかたちとなる。19時間目以降、見た目上のトップを走っていた2号車キャデラックは51号車フェラーリに次ぐ4番手となっている。
スタートから21時間45分過ぎ、ふたたび路面を濡らす雨がサルト・サーキットに襲来する。トップ3がステイアウトを選択するなか、ちょうどルーティンのタイミングに当たった2号車キャデラックがウエットタイヤを履いてコースに戻る。翌周、6号車ポルシェを除く上位陣が続々とピットインするが、8号車トヨタは右フロントタイヤの交換に手間取りタイムロス。50号車フェラーリはアンセーフリリースをとられそうなタイミングでファストレーンに出てしまう。しかしいずれも大きな影響はなかった。2号車キャデラックから2周引っ張った6号車ポルシェも結局レインタイヤに履き替えた。
ピットアウト後、2番手で戻った8号車トヨタと3番手の51号車フェラーリがミュルサンヌで軽く接触した結果、ブレンドン・ハートレー駆るGR010ハイブリッドがスピンを喫し6番手に順位を下げる。雨が断続的に降り続くなか、ロペスの7号車トヨタが51号車フェラーリをデイトナ・シケインでかわして2番手に。直後、右側のドアが閉まりきっていなかった50号車フェラーリが、レースコントロールから「きちんと閉めるように」との指示を受けて緊急ピットインを余儀なくされたことで、残り1時間40分の段階でトヨタの7号車が総合トップに立つ。ロペスは代役参戦にもかかわらずその後も好ペースで後続を引き離していく。
7号車トヨタに対し14秒のビハインドとなった51号車フェラーリには、8号車トヨタとの接触に非があるとしてピット作業に5秒を加算するペナルティが課された。しかし2番手のポジションは変わらず。3番手に6号車ポルシェが上がってきている。
いよいよ残り1時間。50号車フェラーリが見た目上の首位に立っているが、通常の給油に加えてスプラッシュが必要だと思われる。これが正しければ33秒後方の2番手につける7号車トヨタが実質の首位だ。そのトヨタがダンロップシケインで単独スピンを喫しタイムを失う。これにより上位の2台のギャップは50秒となった。残り50分となったところでニクラス・ニールセンのフェラーリ50号車がピットイン。これで7号車が首位に戻り、51号車フェラーリに姉妹車50号車が続くトップ3オーダーに。首位とのタイム差は19秒と22秒だ。
チェッカーまで42分。300周目の終わりに7号車トヨタと51号車フェラーリが、同じタイミングで最後のピットに入った。50号車と7号車のギャップは約34秒に縮まったが、ピットアウト直後のロペスのペースが上がらなかったため、その後42秒に拡がる。
スタートから23時間32分過ぎ、ダンロップシケイン付近で86号車フェラーリ296 GT3(GRレーシング)がストップしたためゾーン1でSZが導入されるが、すぐに解除されたため、燃料を節約したい50号車フェラーリは恩恵を受けられず。一方、コース上にはふたたび強い雨が降りはじめ、このタイミングで8号車トヨタがピットイン。これにより51号車フェラーリと6号車ポルシェが総合3番手と4番手に浮上。これ以降、表彰台を懸けた戦いが繰り広げられる。
残り10分となってエネルギー量がギリギリの50号車フェラーリと、ハイペースで飛ばす7号車トヨタのタイム差は27秒に。3番手争いは1.9秒の接戦だ。国際映像に表示される“バーチャルエナジータンク”の残量が「9パーセント」と表示されるなか50号車がファイナルラップに突入。祈るフェラーリ、逆転を信じるトヨタの両陣営が見守るなか、ニールセン駆る50号車499Pが最後の13.626kmを走りきり、今季2024年もフェラーリのマシンがトップチェッカーを受けた。エネルギー残量は2パーセントだった。
ロペスが最終スティントを担当したトヨタ7号車は14.221秒追い上げ及ばずの総合2位。同3位に前年のウイナーである51号車499Pが入り、フェラーリAFコルセがワン・スリー・フィニッシュを達成した。今大会のポールシッターとなった6号車ポルシェは総合4位、トヨタ8号車が同5位となっている。
LMP2クラスは10号車オレカ07(ベクター・スポーツ)とディフェンディングチャンピオンの34号車オレカ(インターユーロポル・コンペティション)が熱戦を繰り広げるなか、裏のシークエンスで22号車オレカ07(ユナイテッド・オートスポーツ)と宮田莉朋組37号車オレカ07(クール・レーシング)も長くバトルを展開。21時間目には宮田の搭乗中にクラストップに立った。
しかしクール・レーシングはレース終盤にかけて噛み合わず。コース上でのストップののち、ピット作業を強いられるなどして順位を落とすことに。最終的にはクラス12位でのフィニッシュとなった。優勝はユナイテッド・オートスポーツの22号車オレカ07(オリバー・ジャービス/ビジョイ・ガーグ/ノーラン・シーゲル組)。2位に連覇を狙ったインターユーロポルの34号車オレカ07、表彰台最後のひと枠は28号車オレカ07を走らせるIDECスポールが獲得した。
LMGT3クラスは“強豪”マンタイの一角であるマンタイEMAの91号車ポルシェ911 GT3 R(ヤセル・シャヒン/モーリス・シューリング/リヒャルト・リエツ組)が優勝。このクルマは中盤以降、一貫してクラス上位につけレース終盤は首位を堅持していた。
クラス2位は前戦スパで全滅の憂き目にあったチームWRTの31号車BMW M4 GT3。3位には姉妹車44号車とのスリー・フォーとなったプロトン・コンペティションの88号車フォード・マスタングGT3が入っている。
日本勢は、最後のル・マンを明言している星野敏が乗り込んだ777号車アストンマーティン・バンテージAMR GT3(Dステーション・レーシング)が9位入賞。5番手走行中にボンネット浮きあがるトラブルに見舞われた木村武史組87号車レクサスRC F GT3(アコーディスASPチーム)が10位となり、小泉洋史組82号車シボレー・コルベットZ06 GT3.R(TFスポーツ)が11位で続いた。佐藤万璃音と濱口弘の95号車マクラーレン720S GT3エボ(ユナイテッド・オートスポーツ)は残念ながらリタイアとなっている。
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