整備が終わったのは本番当日の朝3時だった
1966年10月1日午前10時。TOYOTA 2000GTのプロトタイプである280A/I型の試作1号車をベースにしたスピードトライアルカーがゆっくりとピットを離れた。茨城県・谷田部の自動車高速試験場の高速周回路で78時間走り続けるスピードトライアルが始まった。ドライバーは、細谷四方洋、田村三夫、福沢幸雄、津々見友彦、鮒子田寛の5名。
トヨタ2000GT試作1号車の数奇な運命 「第三幕・スピードトライアル事前テスト」【TOYOTA 2000GT物語Vol.3】
直前のテストでは、潤滑系を大幅に見直したエンジン対策により、トラブルなしに10000kmを走破。ようやく重大なトラブルは克服できた。しかし、本番前日になってクラッチの故障が発覚。急ぎ部品倉庫からクラッチを取り寄せ、交換作業が終わったのは本番当日の午前3時のことだった。
スピードトライアルではレースでの常識は通用しなかった。血気盛んな若いドライバーたちは「オーバルコースを走るということで、運転席に座ってアクセルを全開にしていればいいのだから、楽な仕事だ」と思っていたというが、実際にはサーキットで競争するレースとは全く異質の、マシンにもドライバーにも過酷な挑戦だった。
1スティントが2時間30分で5人のドライバーが交代で運転した。ストレートでは250km/h近くの速度で走り、ラップタイムの基準は1分32秒だったという。その平均速度はおよそ215km/h。決められた速度を保つために「6450rpmで走れ」など、ピットから無線で50rpm刻みの指示が飛ぶ。
高速周回路は2本の直線を2つのバンクで結ぶため、それぞれの直線では風向きが変わる。さらにバンクは入口と中間、出口で走行抵抗が異なる。回転を合わせるためにミリ単位のアクセルコトンロールが要求された。
レースならばアクセルのオン・オフがあり、ストレート区間での休息は可能。しかし、スピードトライアルではそんな余裕は微塵たりともない。常にアクセルコントロールに神経をすり減らさねばならなかったのだ。
夜間走行のスティントでは睡魔とも戦わなくてはならなかった。さらに、コースサイドからキツネや山鳥、キジなどがコース内に侵入してくるので、それにぶつからないよう気をつける必要もあったという。
日章旗が振り下ろされ、長いスピードトライアルが始まった。この時点では、まだ台風の影響は感じられない。クラッチをいたわるため、スタートやピットアウトはゆっくりとクラッチミートして発進した。雨のストレートでハイドロプレーニング発生!
「普通のレースでは、コーナーで頑張ってもストレートでリラックスして休めます。それに前のクルマを抜く楽しみもある。コーナリングではスロットルコントロールが必要ですが、それ以外はアクセル全開ですから神経を使わずに走れます。だから耐久レースでも疲れませんでした。
ところがスピードトライアルでは風向きで空気抵抗が微妙に変わるし、バンクでも勾配で走行抵抗が変わるので、微妙なアクセルコントロールを2時間半の間ずっとやっていなくてはならない。さらにドライバーの意地として、毎ラップ同じタイムで走りたい。
コンマ以下まで合わせていきたいからひたすら集中ですよ。交代でクルマから降りたら足が棒のようになり、本当につらかった。もう一度トライアルの話が来ても、できればやりたくないと思いましたね」と、ドライバーのひとりだった津々見友彦は後に語っている。
2日目になると、台風28号の接近によって天候が急変した。朝から降り出した雨と風が強まったのだ。ヘビーウエットの路面がドライバーを悩ませた。
「谷田部の高速周回路はハイドロプレーニングがひどかったですね。コンクリート舗装のつなぎ目がアスファルトで盛り上がっていて、その5~6mの間に水が溜まって小さなプールができる。ストレートはそれの連続なんです。
当時は晴れでも雨でも同じタイヤですし、台風による横風も吹いて結構怖かった。水たまりのない45度バンクに入ると、ほっとしました」。5人のドライバーの中で最年少、弱冠20歳だった鮒子田寛も当時の強烈な印象を覚えていた。
そして、2日目の夜、最大のピンチがTOYOTA 2000GTトライアルカーを襲った。(続く)
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