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ラジコン、ここまで進んでいた 英LMP12に潜入 緻密さ、まるでF1?

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ラジコン、ここまで進んでいた 英LMP12に潜入 緻密さ、まるでF1?

もくじ

ー ハミルトンも心掴まれたLMP12
ー 最先端をいく電気技術の結晶
ー 緻密な調整 気温が物言うことも
ー イギリス自動車産業の未来は明るい
ー 番外編 LMP12にかかるレース費用

スロットカー60年の進化 大人も楽しめる理由は スケーレックストリック社訪問

ハミルトンも心掴まれたLMP12

イギリス1/12スケール・ラジコン(RC)カー選手権、LMP12。その第6戦第2レグ会場、ニューカッスル近郊のロード・ローソン・オブ・ビーミッシュ・アカデミー体育館へやって来た。

出迎えるのは壊れた自動販売機と、主催者バーニー・エクレストン……もとい、ピーター・ウィントン。年齢を聞くと、一瞬おどろくかもしれないが、そんなに歳ではない。

でもここで笑ってはいられなかった。

わたしがオンボロ車で乗り入れた駐車場には、BMW X5 M50d、ゴルフR、メルセデスAMG C63といったそうそうたるクルマが並んでいたのだ。わたしと違ってお金に困らない方々らしい。

アカデミーのプレイルームに設けられた「ガレージ」を覗けば、彼らがレースをしに来たことは明らかだ。電圧計、ハンダごて、電動ドライバー、プライヤー、絶縁テープ、鮮やかなプラスチックボディ、そして飲みかけのファンタなんかで埋まった机のまわりにいるのは、70人ほどの男たち(女性は1、2名だけだ)。年齢層は幅広いが30代が多そうだ。

明るい黄色のウエスで愛車のボディを丹念に拭く者、配線の接続を一心にチェックする者。部屋の隅では年かさの男たちが、マシンがスライドしやすいようにと、3台の小型旋盤でタイヤのゴムを削りとっている。

F1チャンピオンのルイス・ハミルトンも、RCカーが輝かしい経歴の始まりだった。6歳の時に父親アンソニーからマシンをもらい、レースを教わった。そして早くも翌年のBRCA国内選手権で2位に入るのだ。

驚いたことに億万長者の今となっても、かつてのライバルを応援するより自ら参加する方が好きだという。

無理もない。ヨーロッパLMPで14度、そして世界タイトルに5度も輝いたデイブ・スパシェットという人物がいるのだ。レース歴は36年、RCカー選手権の草分けLMPが1976年に始まって間もない頃から走り続けている。

話を聞いてみよう。

最先端をいく電気技術の結晶

そのスパシェットは謙虚にいう。「勝つ秘訣などないんです」

クルマを裏返しにして手に乗せ、仕上げの調整をしながら続ける。「クルマの力を最大限に引き出し、コースでのマシンの挙動に操縦スタイルを合わせていくという感じですかね」

もってまわった言い方に聞こえるかもしれない。だがスパシェットをはじめとするレーサーたちが操る現代のRCカーは、実は最先端をいく電気技術の結晶なのだ。

例をあげると、
・回生ブレーキ
・プログラムで回転数に応じて周波数/タイミングを変えられるモーター
・スピードコントローラー(主にECU)とモーターの温度を70℃以下に保つためのヒートシンク
・ジオメトリー調整式のサスペンション

動力源は携帯電話やノートパソコンと同じリチウムイオン電池。RCカーには1個で十分だ。

もうひとり。ここにいるマーク・スティレスは、レースへの情熱を日々の仕事にも活かしている。

BRCAで何度も勝利をものにしたマーク・スティレスは、ルノー・スポールF1チームの機械設計技師だ。もっとも、皆さんがこれを読んでいる頃には、ライバルだったルイス・ハミルトンがいるメルセデスに移っているはずだが。

話を聞いてみよう。

緻密な調整 気温が物言うことも

「ハミルトンとは歳も、生まれも近いんです。何度かレースで争って一度は勝ったこともありますが、彼は目標がはっきりしていましたし、何事にも動じませんでしたね」

スティレスは学生時代にRCカークラブに入部してレースの虜になった。自動車工学への興味も膨らむ一方で、ついにはオックスフォード・ブルックス大学で機械工学の学位を修めるまでになった。そして2009年にF1の世界へ身を投じることになる。

「F1と同じで、LMP12はとても緻密で技術的なクラスですね。パワートレインだけではなく、サスペンションもとても複雑です」

「リアサスペンションは車軸式で、ロールとバウンドの調整ができます。求めるグリップの強さに合わせてボールデフの推力荷重を調整します。フロントサスペンションは左右独立のスライディングキングピン式で、ホイールアライメントを自由に調整できます」

タイヤの選択と準備が大事なのもF1さながらだ。今日はけっこう暖かいので、タイヤのゴムは柔らかくなる。レース前には、認定品の軟化剤をタイヤに塗り込む光景がみられる。

F1と違うのは、毎回コースレイアウトが異なること。例えば去年このロード・ローソン・オブ・ビーミッシュ・アカデミーで走ったからといって、今年有利になるわけではないのだ。

とはいえ路面の素材(毛玉の出ないニードルパンチ)自体は変わらないから、例えばスティレスに次回タムワースでのレースについて尋ねると「あそこは去年行ったので、カーペットの状態もよくわかっています」という答えが返ってくるわけだ。

さて、わたしが走る番だ。その前にマシンは車検にかけられた。

イギリス自動車産業の未来は明るい

バッテリー電圧上限4.209V、車重上限730g、最低地上高3mm以上。車検は合格だ。

コース幅は約2m、コーナーは11カ所。最速ラップは約11秒だから、1コーナー1秒の計算だ。積み上げたベンチに上り、5人の「レーサー」に混じってコースを見下ろす。手にしたコントローラーは左のスティックがパワー、右のが向きの調節だ。

オフィシャルのカウントダウンが始まった……スタート!

あっという間にはるか先を行く一団、さっそく壁に突っ込むわたし。ひっくり返ったマシンを世話人が親切にも持ち上げて元の位置に戻してくれるたびに、優に1周以上ラップされてしまう。ついに恥をしのんでリタイアしてしまった。

それにしても、RCカーのレースとはやっかいだ。いかにも素人の意見かもしれないけれど、常にスティックの上に親指を置いて左右を意識するのがポイントというのはわかる。ただマシンの向きによって自分から見た左右とマシンの左右が変わってくるので、簡単にはいかない。

とはいえ病みつきになるのはわかるし、事務局がいうようにクルマと工学が好きな若者にとっては成功への出発点にもなる。スティレスがその証だ。

イギリスだけでもクラブは220、競技人口は1万人いるという。今日のように、80km/hで疾走するマシンの音が会場に響きわたる限り、イギリス自動車産業の未来は安心できそうだ。

番外編 LMP12にかかるレース費用

■ボディシェル 20ポンド(3000円)
■シャシーキット 200ポンド(3万円)
■モーター 90ポンド(1万3500円)
■バッテリーパック 50ポンド(7500円) 1シーズンに4本必要。安価な中古品あり
■タイヤ 15ポンド(2240円)/セット コンパウンド別に3セット必要。トップ選手は1シーズンに30セット消費する
■スペアパーツ 50ポンド(7500円)/シーズン

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