2024年F1第14戦ベルギーGP。レース後半、ジョージ・ラッセルは1ストップ作戦を提案し、順調に順位を上げていた。しかし終盤になるとそこへチームメイトのルイス・ハミルトンが追いつき、さらには漁夫の利を狙ったオスカー・ピアストリも迫った。ベルギーGP後半を無線とともに振り返る。
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【F1第14戦無線レビュー(1)】直線スピードに不満が募った中団勢「衝撃的なくらい遅い!」「ストレートスピードがジョーク」
決勝レースは中盤を迎え、20周目にはルイス・ハミルトン(メルセデス)が一時首位に立った。中団グループでは、ダニエル・リカルド(RB)、アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)がポイント獲得を狙う展開。一方5レースぶりに予選Q1落ちを喫していたニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)は、レースでもペース不足に苦しみ、15、16番手から上がれずにいた。
20周目
ギャリー・ギャノン:ここでミディアムに戻って、最後まで行けそうか? あくまで選択肢のひとつだけど。
ヒュルケンベルグ:もちろん行けるよ。他に何がある?
このピットインでさらに順位を落としたヒュルケンベルグは、17位完走に終わった。
上位勢も同じ20周目にカルロス・サインツ(フェラーリ)、25周目にシャルル・ルクレール(フェラーリ)、26周目にハミルトンが次々に2回目のタイヤ交換に向かった。するとこの時点で3番手につけていたジョージ・ラッセル(メルセデス)が、チームにこんな提案をした。
26周目
ラッセル:1ストップをやってみよう。
タイヤの持ちは想定よりいいとはいえ、路面温度は依然として40度以上と高い。しかもラッセルは10周目という早いタイミングでタイヤ交換しており、たとえハードタイヤでも残り34周を走り切るのはかなりのチャレンジのはずだった。
27周目にトップに立ったオスカー・ピアストリ(マクラーレン)の周回ペースのよさに、担当エンジニアのトム・スタラードも興奮を隠せない。
28周目
スタラード(→ピアストリ):いい感じだ、オスカー。レッツゴー!
スタラード:1周前は最速だったぞ。
ピアストリ:わざわざ言うまでもないけど、クリーンエアの周回は最強だね。
「乱流の影響がないんだから、速いのは当たり前」と、デビュー2年目のピアストリの方がよほど冷静だ。
30周目、ピアストリがにピットインすると、ラッセルはついに首位に立った。しかしこのまま逃げ切れるのか。一抹の不安が、ラッセルの頭をよぎる。
30周目
ラッセル:このタイヤが最後まで持ちそうにないのは、確かなの?
マーカス・ダドリー:いや、持つと思う。ただ2ストップの方が速い。
残り14周。ダドリーは、2番手のハミルトンに最後に追いつかれるという分析をラッセルに伝えた。
31周目
ダドリー:確認だけど、ステイアウトでハッピーか? 今はピットストップウインドウ内に、3台いる状況だ。
ラッセル:ああ。
実際には3台ではなく、もしここでピットインしたら7番手まで後退する可能性が高かった。このまま行くしかない。
後方では5番手マックス・フェルスタッペン(レッドブル)をランド・ノリス(マクラーレン)が激しく追い立てていた。
32周目
ウィル・ジョゼフ(→ノリス):ランド、このタイヤ頑丈だから、プッシュしていいぞ。
フェルスタッペン:後ろのランドがプッシュしてるんだけど、どうしてほしい?
ジャンピエロ・ランビアーゼ:同じようにプッシュしてくれて、けっこうだ。それがいい。
タイヤを持たせつつ、ノリスの猛攻を凌いでいたフェルスタッペンも、逃げ切りにかかった。
一方首位争いは、ラッセルとハミルトン、メルセデスのふたりに絞られた。
34周目
ハミルトン:首位に立つのに、どれくらい速ければいい? 勝ちそうなのは彼か? 僕か?
ピーター・ボニントン:すごく近い。ギリギリだ。
36周目には、ピアストリがルクレールを抜いて3番手に浮上。メルセデス2台との差も、1周1秒のペースでみるみる縮めていた。
40周目
スタラード(→ピアストリ):いいラップだ。ハミルトンがラッセルを捕まえようとしている。何か起きるかもしれない。
後方ではリカルドとエステバン・オコン(アルピーヌ)が、激烈な10番手争いを繰り広げていた。
40周目
ジョシュ・ペケット:いいラップだ。
オコン:話しかけないでくれ!
この直後、オコンはリカルドをかわして10番手に上がった。
41周目
ペケット:あと3周だ。
オコン:ジョシュ、言ったよね? 話しかけるなって!
一方、レース中盤にはポイント圏内を走行していたアルボンは、13番手まで後退。マシン挙動に手こずっていた。
アルボン:信じられないよ。ブレーキングとトラクションで、あまりにXXXすぎる! リヤがロックしまくってる!
メルセデス陣営は、首位を争うふたりにチームオーダーは出さず、同士討ちだけは避けるように指示した。
ボニントン:ふたりとも十分なスペースを開けてくれ。
コンマ5秒差でラッセルが逃げ切り、ピアストリもハミルトンからコンマ6秒でチェッカーを受けた。
チェッカー後
ラッセル:ハハハ! やったぜ!
ダドリー:ピットレーンに逆方向から入ってくれ。
ラッセル:やった、やった!
ダドリー:ピット出口から逆進するんだぞ。
ラッセル:なんてパフォーマンスだったんだ!
ダドリー:よくやった。メルセデス1-2だ。
ラッセル:素晴しい戦略だったぞ! みんな、最高だ!
ダドリー:タイヤの達人だね!
その後失格裁定が下されるとは夢にも思わず、歓喜を爆発させるラッセル。ピットロードを逆走する車載カメラに映るフロントタイヤには、タイヤかすは全く付いていない。チェッカー後にすぐにピットに入るスパ独特の事情から、すでにこの時点でダドリーは、タイヤかすで車重を増やせないことに不安を覚えていたかもしれない。
オコン:すごい結果だ。信じられない。
ルース:タフなレースだった。14位だ。エステバンは10位だった。
ガスリー:ああ。問題だらけだったよ。全然ハッピーじゃない。
オコンは9位に繰り上がり、2ポイントを獲得。ここ3戦入賞できていないガスリーの1ポイント差まで迫った。
スタラード:よくやった。3位だ。
ピアストリ:ああ。ラッセルは、すごいリスクを冒したね。ピットインは、すまなかった。クリーンエアでのペースはよかったけど、十分じゃなかった。でもまたトロフィーをもらったし、ポイントもがっつり稼いだ。みんな、ありがとう。いい夏休みを過ごせるよ。
3位チェッカーを受けたピアストリは、ピットイン時にオーバーランしたミスを除けば、このレースで最速だったメルセデスに対抗できた唯一のドライバーだった。
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