愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第33回。後編は、俳優の宅麻伸さんがこれまで乗り継いできた30台以上のクルマのうち、今の愛車や今後乗りたいクルマなどについて語る。
クルマ選びの“変化”
あらゆる点で他車とはちがう超高級車──新型ロールス・ロイス スペクター試乗記
【前編はこちらから】これまで数十台のクルマを乗り継いできた俳優の宅麻伸さん。その中でも忘れられないクルマがあるという。その1台はデイムラー「ダブルシックス」だ。
「初めてのイギリス車で、雰囲気が最高だったなぁ」
イギリスの高級自動車メーカーとして知られるデイムラーは1960年にジャガーに吸収合併され、それ以降はジャガーの高級モデルとしてそのブランド名を残してきた。宅麻さんが乗っていたダブルシックスはジャガー「XJ12」の高級版に位置付けられる4ドアサルーン。5.3リッターV型12気筒エンジンを搭載し、室内はコノリーレザーやウォールナットをふんだんに使った贅沢なしつらえとなっていた。
「最初のダブルシックスは紺色だったんだけど、本当は黒が欲しかった。その頃、舘(ひろし)さんや萬田久子が黒いダブルシックスに乗っていて『いいなぁ』と。そうしたら京都でたまたま黒いダブルシックスが見つかって、そのまま買ってきちゃった。それまでどんなクルマでも自分の好みにいろいろ換えていたんだけど、デイムラーだけは一切いじらなかったね。眺めているだけで『きれいだなぁ』と、思えるクルマだった」
ところで、今回の取材のために宅麻さん自ら書き出してくれた愛車履歴メモを見ると、ある時期からクルマ選びの傾向が“変化”しているのに気づく。それまではドイツ車やアメリカ車のセダン、SUVが多かったのだが、10年ほど前からコンパクトなハッチバック車ばかりになり、ブランドもアルファロメオやアバルト、ルノーなどのラテン系が目立つ。その理由は?
「正直に言いますが、独身になったからね。そんなに大きなクルマが要らなくなったのと、その頃からGSTさんとの付き合いができて、クルマ選びを相談するようになったからかな」
GSTとは神奈川県をメインに輸入車の正規ディーラーを営み、イタリア車、フランス車を中心とする自動車販売会社だ。宅麻さんの愛車遍歴を見ると、その時々で頼りにしている自動車ショップがあり、クルマ選びに大きな影響を与えていることがわかる。
「アルファロメオの『ジュリエッタ』はすごく気に入って、1.4と1.75リッター・エンジンの2台を乗り継いだね。アバルト『595コンペティツィオーネ』も排気音がよくて走らせるのが楽しかった。狭いからゴルフバッグを積むのが大変だったけど、小さいバッグに買い替えて、なんとかゴルフに行っていたよ」
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「1年ほど前から、神社巡りにハマってね。人がいない早朝に着いて、境内をゆっくり歩いてから参拝するのが好きなんだけど、そのあと御朱印をもらうのに社務所が開くまで2、3時間空いちゃう。以前乗っていたルノー『ルーテシア』だと、駐車場にクルマを停めて待っている時間がちょっと窮屈でね。もう少し広いクルマだったらラクかな……と、思ってGSTのホームページを見ていたら、メガーヌ・スポーツツアラーの新古車を見つけた。すぐに電話して『これ、リヤシート倒したら寝られるかな?』と、聞いたよ」
かくして愛車となったメガーヌ・スポーツツアラーでは、宅麻さんの地元である岡山県の吉備神社をはじめ、全国各地の神社を巡っているという。「まだ1年経ってないけど、御朱印帳は2冊終わって、3冊目が半分過ぎたかな。あちこち行くのが楽しくて(笑)」
運転はまったく苦にならないという宅麻さん、メガーヌ・スポーツツアラーは走りも軽快で、100km、200kmはあっという間に走ってしまうという。荷室に仮眠用の寝袋を積んだメガーヌは、宅麻さんにとって最高の“神社巡りエクスプレス”のようだ。
「今までは車検時期になる前に乗り換えて、距離も1万km乗るかどうかって感じだったけど、メガーヌ・スポーツツアラーは1年経たずに8000kmぐらい走っているから、僕にしてみたらすごいよ。大きさはちょうどいいし、高級車でもスポーツカーでもないけど、そんな“なんでもない”ところがいいんだよね」
メガーヌ・スポーツツアラーがとても気に入っている宅麻さん、では、これまで数十台を乗り継いだ愛車遍歴にも、そろそろ終止符が打たれるのか?
「んー、クルマについては、『これでいいや』と、納得したら終わりだと思ってるところがあるんだよね。若いときに『こんなクルマに乗りたい、あんなふうにカスタムしたい』と思った気持ちが今も残っているというか。ついもっともっと、と思っちゃう。とはいえもうあまり買い替えたくはないんだけど(笑)」
インタビュー後も、じつはあのクルマが気になる、三菱の「デリカD:5」が気になっていてカスタムしたらカッコいいのでは……と、クルマ談義が止まらない宅麻さん。本当にクルマ好きなのだ。まだまだその愛車遍歴は続いていくに違いない。
ところで宅麻さんが好きなのは四輪だけではない。若いころから二輪も乗りこなす二刀流なのだ。こちらもかなりディープな二輪遍歴については、バイク編で。
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文・河西啓介 写真・安井宏充(Weekend.) ヘア&メイク・奈良裕也 スタイリング・黒田匡彦 編集・稲垣邦康(GQ)
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それこそメルセデスかBMWに乗り続けてたと思う