マツダ次世代技術徹底考察2017 vol.5/5
マツダの次世代技術としてスカイアクティブXをはじめ、ビークルアーキテクチャーとしてのシャシー、ボディ、タイヤ、シートなどについてこれまでレポートしてきた。今回は最終回。いよいよそれらの次世代技術が搭載された試作車に試乗したときの様子をレポートしよう。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
今マツダに何が起きているのか? ボディにもマツダらしいニューアイディア満載
車両は現行アクセラの外観を持つ試作車で、次世代技術を満載している。試乗は現行のアクセラとの乗り比べという形で行なわれ、最高速は120km/h程度まで。市街地を想定した悪路を20~30km/h程度での走行、高速道路の合流をイメージした車線、そしてスラローム、ダブルレーンチェンジなどのメニューが用意されていた。
搭載するスカイアクティブXは2.0Lのガソリン仕様で試乗車は欧州のレギュラーに相当するオクタン価95の燃料を使用し、圧縮比は16.0:1という仕様。エンジン解説記事にも記載したがマイルドハイブリッドのモーターアシストは、まだ行なわれていない素のスカイアクティブXだ。目標出力として140kW(190ps)/230Nmというスペック。
サスペンション形式はフロントがストラットでリヤはトーションビーム。他に目立つ改良ポイントとしてブレーキバイワイヤが採用されていた。タイヤはトーヨータイヤのプロクセスを装着。現行車はダンロップのスポーツMAXで、タイヤサイズは同じで215/45-18となっている。
また試作車にはマツダのエンジニアが同乗しデータを集積していた。そのため一人乗車となる現行車には50kgのウエイトを積むというほどシビアにイコールコンディションとしていた。それほど微妙な違いなのかもしれないが。トランスミッションは現行の6速AT、6速MTと同じハードだが、スカイアクティブX用に変更しているという。が、ギヤ比、最終減速比などは公開していない。
■スカイアクティブXは量産型のベースエンジンか?
このスカイアクティブXの位置づけだが、従来どおりスカイアクティブ-GとDは引き続き改良をしながら販売されるので、3つの内燃機関というパワートレーン・ソリューションを持つことになる。そしてXの単体価格はGとDの間に位置するそうで、ディーゼルよりは安いということだ。
当初、補器類の多さからトップグレードにだけ設定する高級なエンジンという位置づけになると予測したが、意外にもそうではなく、おそらく欧州用のベースエンジンに採用してくるのではないだろうか。というのもエンジン性能曲線などを見てもわかるように非常にフラットなトルク特性であり、高回転は苦手(レッドゾーンは6000rpm)なイメージがある。つまり実用領域でトルクフルで乗りやすく、なおかつ非常に燃費がいいというエンジンであると想像できるからだ。さらに、補器類も含め開発費が膨大にかかっているので、やはり長期間で大量生産してコストを合わせていくことも必要とされるだろう。
■試乗レポート
さて、乗り比べで試乗は始まったが、比べるまでもなくその違いは歴然と分かる。乗り心地のまろやかさとしなやかさ、そして静粛性が高く、高級車のように感じるからだ。エンジン自体はノイズが大きいようだが、ボンネットの中でしっかり遮音している。エンジン本体をぐるっと取り囲むように吸音材で覆われていて、エンジンフードを閉めるととても静かだ。
アクセルを踏み込み加速させると、確かに低速域のトルクを感じるがギヤ比がわからないので、エンジントルク特性なのか、ギヤを使った減速によるトルク感なのか判断できない。ただ、低速トルクはディーゼルに近いと感じる。そのままアクセルを踏み続けると、サウンド的にはこれまでのICE(内燃機関)とは異なるサウンドで、不思議な感じで官能的な部分は全くない。ある意味将来の実用エンジンの音?なのかもしれない。
回転が上がってもトルクが太くなるという印象ではなく、ずっとフラットなトルク特性を感じ、モーター的と言うと言い過ぎかもしれないが、加速度に変化のないフラットトルクで走る。つまり加加速度(かかそくど)は小さいと感じる。だからこそ、マイルドハイブリッドで、モーターによる加速力をプラスする予定なのかと想像もしたが、48Vマイルドハイブリッドのベルト式ではそこまでの出力は期待できない。やはり燃費のためのISGということだろう。
また、アクセル・レスポンスではガソリン車と同じように反応するので、ガソリン車だ!と感じるときもある。だからディーゼル、ガソリン、そしてモーターのような、それでいて全く新しいガソリンエンジンが誕生したことだろう。
乗り心地ではシートが非常に印象に残った。これも従来ドイツ系は硬めのしっかりシートでフランス車はソファのようにも感じながらシートがサスペンションの働きをしていると感じさせるものが多い。この試作車のシートは後者に近くドイツ車とは全くベクトルの違いを感じる。
シートに座った時の包まれるようなフィーリングはこれまでのどのクルマのシートにもなく、新鮮だ。表皮がウエットスーツのような生地のため夏場は暑そうだと思うほど身体にフィットするシートだった。またサイサポートは手動式ながらしっかり機能していて、身体の大きい人には特に有効な機能だと感じる。
タイヤのソフトなフィーリングも印象に残る。全体にソフトで乗り心地が丸く、しっとりとした印象でタイヤからの入力がシートを介して体に伝わってくる。明らかにエアボリュームの大きいタイヤだと思わせるソフトさなのだが、45扁平というスポーティさにギャップを感じる。
スラロームやダブルレーンチェンジでは、これだけソフトな乗り心地だと応答遅れをイメージしてしまうが、ボディ剛性の高さもあって、そうした不安は全くない。実際設定されたパイロン・スラロームに進入してもリヤタイヤの接地感が伝わり追従性の良さを感じる。
ビークルアーキテクチャーの説明にあった、究極の人馬一体、クルマの存在を忘れてしまうほど車両と一体化する世界というのは、もう少し長い時間乗ってみないとコメントしにくいが、マツダの目指すクルマづくりがどこのメーカーとも異なり、それでいて高級に感じ、意のままに動くクルマであることは間違いない。走り出した瞬間にマツダらしいと感じるポイントはたくさん存在していて、ブランドとしては大きく成長しているように感じる試乗だった。
シリーズ:マツダ次世代技術徹底考察2017
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