スーパースポーツからの転身、低価格・実用車路線を模索した「VTZ250」
3代目を最後にVT250Fの車名は終了したものの、VT系エンジンは生き残った。
1987年登場のVTZ250はその象徴で、虚飾を排したノンカウルスタイルで、汎用性に配慮し前後輪ともに17インチ化。さらに部品点数を減らして低コストも重視した同車は、徐々に高騰していた価格も初代VT250F同等の39万9000円にまで抑えた。
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とりわけコミューターユースでも高く支持され、バイク便ライダーへも支持を拡大。長らく進化・熟成を続けたエンジン(最高出力43ps/1万2500rpm、最大トルク2.5kgm/1万500rpm)の信頼性も高く、コストパフォーマンスの良さで評価を高めた。
高性能モデルとしてデビューしてからわずか5年での立ち位置変更は、80年代の目まぐるしい開発競争を示すものだが、こうしてVT系は存続の活路を見出した。翌1988年にVTZ250は吸排気ポート形状やバルブタイミング変更、変速比をワイドレシオ化するなどの見直しを進め、より実用性を熟成。1988年にマイナーチェンジを行うが、1989年のカラー変更で最終となった。
VTZ250(1987年)主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:60.0mm×44.1mm 総排気量:249cc 最高出力:43ps/1万2500rpm 最大トルク:2.5kgm/1万500rpm 燃料タンク容量:13L 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:2035 全幅:715 全高:1070 ホイールベース:1370 シート高745(各mm) 車両重量159kg 乾燥重量:144kg タイヤサイズ:F100/80-17 R120/80-17
ネイキッドブームに乗り切れなかった、スポーツネイキッド「スパーダ」
実用性の高い「フツーのバイク」という立ち位置と低価格のVTZ250で、新たな支持を集めたVTシリーズだが、いまだ高水準の国内需要に支えられ、開発費投入の余裕もあったのだろう。ホンダはVT系エンジンを使った高級路線も模索し、1988年にVT250 SPADA(スパーダ・MC20)が登場した。打倒レーサーレプリカではなく、同車が目指したのは一味違うファッショナブルスポーツで、ソリッドなカラーでイタリアンテイストを感じさせた。
エンジンは不等長エアファンネルや大径バルブ採用をしつつ低中速レスポンスを磨き、最高出力は3psダウンの40ps/1万2500rpmながら、トルクを0.1kgmアップの2.6kgm/9000rpmに。加えて、最大の特徴は専用設計のアルミキャスティック(CASTEC)フレームで、ほぼ溶接なしの一体成型構造(市販量産車で世界初採用)がアピールポイント。
F1のトップドライバー、アイルトン・セナを起用したカタログや雑誌広告も話題で、力の入れようを感じさせたものの……相応のコストを反映した価格(49万8000円)ゆえか、時代のニーズに合致していなかったのか、販売面では先代のVTシリーズを継承できなかった。
おそらく1988年当時、価格の高さ=高性能という比例関係がまだ続いていたのだ。
ところが、そうした高性能への需要の一方で芽生えていたのがクラシカルな雰囲気のスタンダードバイク路線だった。カワサキ・ゼファーに端を発したネイキッドブーム、そしてヤマハSRが再び脚光を浴びるなどしたストリート系のトレンドだが、VT250スパーダはその路線にもハマらなかったのだ。
しかしそのフォルムや内容は今見ても洗練された印象で、専用開発の各パーツの造形や品質など、今でも相当に魅力的なコンテンツと感じるのは筆者だけだろうか。
余談だが「スパーダ」の名は、ホンダ四輪のミニバン「ステップワゴン」の上級スポーティ版「ステップワゴンスパーダ」に引き継がれている。
VT250スパーダ(1988年)主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:60.0mm×44.1mm 総排気量:249cc 最高出力:40ps/1万2000rpm 最大トルク:2.6kgm/9000rpm 燃料タンク容量:11L 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:2010 全幅:715 全高:1020 ホイールベース:1380 シート高740(各mm) 車両重量153kg 乾燥重量:140kg タイヤサイズ:F100/80-17 R140/70-17
通好みで今なおファンが多い、フルカウルのツアラー路線「ゼルビス」
小粋なイタリアンスポーツのスパーダ、実用コミューター的なVTZ250でもない──その中間を狙ったと言えるのが1991年登場のXELVIS(ゼルビス・MC25)だろうか。
シリーズでは唯一、VTの名を継承しない車名の由来は、造語で「最高の歓迎すべき友人」の意。フレンドリーに肩肘張らずに付き合えるモデルの意図だろうが、特徴は快適性とツーリング性能の高さだった。
250ccクラスではゆったり目の車格と大きめのカウル、シート下の収納ボックス(容量約7L)や充実の荷掛けフック(6本+収納式4本!)、16Lの燃料タンク容量などで、多くのライダーが楽しむバイク趣味……ツーリングユースに的を絞ったのだ。加えて、実用域重視のエンジンで最高出力は36ps/11500rpmまで抑えられたものの、結果的にマイルドなエンジン特性となっていたのも同車ならではの特徴と言えるだろうか。
ツーリングでの利便性、飽きない使い勝手は地味ながら支持を集めたものの、歴代VT並みのセールスには至らず、翌1992年のマイナーチェンジ後に生産終了。しかしVTZ250と同様、バイク便ライダーを中心に中古車でも息の長い人気が続くなど、今に至るまでバイク通に評価されるモデルとなっている。
ゼルビス(1988年)主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:60.0mm×44.1mm 総排気量:249cc 最高出力:36ps/1万1500rpm 最大トルク:2.6kgm/8500rpm 燃料タンク容量:16L 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:2095 全幅:720 全高:1160 ホイールベース:1430 シート高770(各mm) 車両重量172kg 乾燥重量:156kg タイヤサイズ:F110/80-17 R130/80-17
5速ミッション化、低中速重視にセッティングされアメリカン「Vツインマグナ」のエンジンに
かくして、次第に乗りやすさという価値に重きを置き万人に支持されるようになったVT系エンジン。手を変え品を変え、そのパワーユニットは存続してきたものの、意外なモデルにも搭載された。VT系モデルに含むのは違和感があるが、1994年登場のアメリカンクルーザー・Vツインマグナ(MC29)は、ゼルビス以後、VTR(1998年)につながる橋渡しのモデルとも言えようか。
ロー&ロングなクルーザーフォルムに、メッキパーツを多用し、冷却フィン風の意匠を施した90度Vツインエンジンは、中低速寄りのトルク特性にしたほか(最高出力27ps/1万rpm、最大トルク2.3kgm/7500rpm)、ワイドレシオの5速(従来のVT系は6速)に変更。特徴的な右側2本出しのショートタイプメガフォンマフラーをアイコンとして車体も実によくまとまっていた。
メーカーメイドのカスタムクルーザーとして秀逸なデザインのみならず、扱いやすいエンジン特性も後押ししたのだろう、Vツインマグナは登場初年度に1万台を超えるヒットを記録。そしてマイナーチェンジ、排出ガス規制への対応、カラー変更などをしつつ2007年まで販売が続いた。
モデルチェンジの比較的早いホンダ車の中で、かなりの長寿モデルとなったことは特筆する部分であろう。
Vツインマグナ(1994年)主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:60.0mm×44.1mm 総排気量:249cc 最高出力:27ps/1万rpm 最大トルク:2.3kgm/9000rpm 燃料タンク容量:11L 変速機:5段リターン
【寸法・重量】
全長:2315 全幅:845 全高:1055 ホイールベース:1620 シート高690(各mm) 車両重量183kg 乾燥重量:171kg タイヤサイズ:F120/80-17 R150/80-15
ビギナー/ベテラン問わず支持され、約20年間続いたロングセラーモデル「VTR」
そしてVT系で最終のモデル系統となるのが1998年登場のVTR(MC33)だ。
鋼管パイプのトラス構造を持つダイヤモンドフレームに搭載されたエンジンのベースとなったのは、5速化と低中速トルク重視の設定となったVツインマグナの系統で、これをスポーツモデルらしくチューニングし、最高出力32ps/1万500rpm、最大トルク2.4kgm/8500rpmの性能を発揮。
車体は大幅な軽量化と部品点数、コスト削減を狙ったスイングアームのピボットレス構造などを盛り込んだ。登場当初、トラス構造のフレームや全体のフォルムから、ホンダ版スモール・モンスター(ドゥカティ)との声も多々聞かれたことを思い出すが、その扱いやすさ、使い勝手はまさにホンダならでは。エントリーユーザーからバイク便ライダーまで、幅広い人気を獲得した。42万9000円という手頃な価格もリーズナブルなものだった。
また2000年には排出ガス規制対応のエキゾースト・エアインダクション機構(二次空気導入装置)採用とともに、各部意匠を変更。同時に車体色とフレーム、スイングアーム、ステップ、ホイールの塗色の組み合わせを選べるカラーオーダープランも設定(標準価格+1.5万円)。
2002年にはシート形状、サス設定の見直しでシート高を20mmダウンし足着き性を向上させたほか、タコメーター、ハザードランプなどの装備追加で商品性をアップ。これがキャブレター仕様で最後のVTRとなった。
VTR(1998年)主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:60.0mm×44.1mm 総排気量:249cc 最高出力:32ps/1万500rpm 最大トルク:2.4kgm/8500rpm 燃料タンク容量:13L 変速機:5段リターン
【寸法・重量】
全長:2040 全幅:720 全高:1050 ホイールベース:1410 シート高780(各mm) 車両重量153kg 乾燥重量:139kg タイヤサイズ:F110/70-17 R140/70-17
フューエルインジェクション採用と同時に、デザインも一新したVTR
そしてVTR最終型(JBK-MC33)となるのが2009年登場のインジェクション仕様だ。
従来のVD10型キャブレターから32ビットプロセッサのECUで燃料供給を制御するPGM-FI電子式燃料噴射へ変更。新設計エアクリーナーケース、O2センサーやキャタライザーの採用など吸排気系にも手が加わり、環境規制に適合したうえで最高出力は30ps/1万500rpmとなった。
ほか、より足着き性やライディングポジションに配慮したシート(シートレールも新設計に)、新デザインのサイドカバー/テールカウル/燃料タンクの採用など、使い勝手や商品性の向上も図っている。
結局インジェクション仕様のVTRは2017年に生産終了となり、この「最終型VTR」は意外に長い販売期間だったが、その間にシックなカラー&ブラックホイールのSTYLE-1と、鮮やかなカラー&ゴールドのホイール・ブレーキキャリパーとなるSTYLE-IIの設定、ハーフカウル版VTR-Fの追加、最低地上高を下げたローダウンモデルVTR Type LDの追加など、数多くのバリエーション展開を行っている。
これらの商品設定の仕掛けにも、長らくVT系モデルを販売し、かつ大事にしてきたホンダの親心を感じるのは筆者だけであろうか。
かくして、1982年に始まり35年という長きにわたったホンダVT系エンジンの活躍は、インジェクション仕様のVTRを最後に幕を閉じたのであった。
VTR(2009年)主要諸元
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:60.0mm×44.1mm 総排気量:249cc 最高出力:30ps/1万500rpm 最大トルク:2.2kgm/8500rpm 燃料タンク容量:12L 変速機:5段リターン
【寸法・重量】
全長:2080 全幅:725 全高:1055 ホイールベース:1405 シート高760(各mm) 車両重量161kg タイヤサイズ:F110/70-17 R140/70-17
レポート●阪本一史 写真●『モーターサイクリスト1999年2月号、2009年3月号』/ホンダ 編集●上野茂岐
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