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「ブリストル研究所」って何? 「ワクイミュージアム」で知られる通人・涌井清春氏が語る「水墨画の老人」の境地とは【special interview】

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「ブリストル研究所」って何? 「ワクイミュージアム」で知られる通人・涌井清春氏が語る「水墨画の老人」の境地とは【special interview】

英国以外では知名度ほぼ皆無のクラシックカー

先ごろ千葉・幕張メッセで開催された「オートモビルカウンシル2024」において、やたらと個性の強いスタイリングの旧い英国製クーペを、しかもアルミ地肌むき出しで展示するという独特のブース展開でにわかに注目を浴びた「ブリストル研究所」。しかし、その実態をご存知の方は、まだまだ非常に少ないのが実情でしょう。そこで「主任研究員」として創立から参画している武田公実氏が、この知られざるクラシックカーとその小さな「ディーラー」について解説するとともに、研究所代表である涌井清春氏からも、あらためてお話を伺ってみました。

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クラシックカーディーラーではなく、研究所とした理由とは?

日本で唯一、全世界でも数少ないブリストル製クラシックカーの専門ディーラーとして活動する「ブリストル研究所」は、もともとロールス・ロイスおよびベントレーの世界的ディーラー兼コレクターとして知られ、かつて埼玉県加須市に「ワクイミュージアム」もオープンさせた涌井清春氏が新たなチャレンジとして創業した、ちょっと変わったクラシックカーディーラーである。

いや……、「ディーラー」という呼び方は、ちょっとそぐわないかもしれない。まずは前提として、「ブリストル」というブランドは日本ではほとんど未知の存在であり、それは涌井氏や、20年以上にわたって同氏と行動をともにしてきた筆者とて大同小異である。

だから、顧客とともに「研究」しながら、ブリストルの創った素晴らしいクルマたちを日本の自動車通人たちに少しずつ知らしめていこうと目指す「研究所」と命名したのだ。

航空機メーカーを前身とする高級乗用車メーカー

ここで今いちど、ブリストルという自動車ブランドの概要について、少しご説明したい。

第二次世界大戦が終結した1945年。それまで航空機メーカーとして「ブレニム」や「ボーファイター」など数々の名機を輩出してきた「ブリストル・エアプレーン・カンパニー」の社主、ジョージ・スタンレー・ホワイト卿は、戦後の航空機生産縮小で余剰となってしまった優秀なスタッフたちに職務を用意するために、高級乗用車の生産に乗り出すことを決意。その本拠でもあるブリストル市近郊の田舎町フィルトンに、新たに「ブリストル・カーズ」社として分社を果たした。

創成期のブリストルは、当時最高の技術者のひとりであるフリッツ・フィードラー技師をドイツから英国に招聘し、技術部門の長に据えた。彼が戦前のBMWで育んだテクノロジーに、ブリストル持ち前の航空機基準を融合することで得られた高度に緻密なつくりに、英国製高級車の伝統を体現したインテリアを両立するなど、独特の魅力を湛えている。

その反面、土着性がきわめて高く、イギリスおよび旧英連邦以外の国では車名さえあまり知られていないのが実情ながら、それでも「コニサー(通人)」のためだけにクルマを創るという稀有な姿勢から、自動車メーカーとしては休眠状態にある現在でもなお、クラシックカーの世界では独自のポジションを築いているのだ。

故・川上 完さんのブリストル406が、すべてのはじまりだった

いっぽうの「ブリストル研究所」のはじまりは、ワクイミュージアム館長だった時代の涌井氏が、2014年に惜しまれつつ逝去した自動車評論家、故・川上 完さんのご遺族からの依頼により、彼が長年愛用してきた「ブリストル406」をお預かりしたことまで遡る。

当初はワクイミュージアムの販売部門「ワクイミュージアム・ヘリテージ」にて、ロールス・ロイス/ベントレーたちとともに並べて展示し、完さんの歴史を引き継いでくれる新たなオーナーを探すはずだった。ところが、涌井氏いわく「趣味のいい一流のスポーティなクルマ。走りっぷりとクオリティの高さでは、世界が名車と称える“ベントレー Rタイプ・コンチネンタル”にも匹敵する」というブリストル406にどんどん惹かれてしまい、いつしか自らのコレクションに加えつつ探求してゆくことを決意する。

そこで涌井氏は、かつてロールス・ロイス/ベントレーに出会ったころと同じように入手可能な限りの文献を集めつつ、まずは個人的な研究としてスタートした。そしてそれらの文献から、ブリストル創業当時の関係者の思いを知ったうえで、あらためて自身のものとなったブリストル406を観察してみると、本で読んだ作り手の哲学がクルマに見事なかたちで反映されているさまを確認。ブリストルの深遠な世界に、さらにのめり込むようになってゆく。

ロールス・ロイス/ベントレーのオーソリティがブリストルの研究に注力

くわえて、1980年代末に創業し、2008年には「ワクイミュージアム」も開設した一連の事業を某大企業グループに譲渡し、身軽な立場となったことから心機一転。新しいチャレンジとして、ついにブリストルに注力することにした。

そこで、元「完さん」の406に追加するかたちで、以前から日本国内にひっそり生息していたという「401」を入手したほか、それまで世界唯一のブリストル専門ディーラーだった英国「SLJハケット」社と代理店契約を締結。そのショップからもう1台の406と、これまで日本上陸を果たしたことのなかったV8モデル「410」、そしてブリストルの第1作である「400」を新たに英国から輸入し、顧客に販売することにした。

さらには、ブリストルに関するもので英語表記ではない文献は、われわれの知る限りでは皆無だったこと、ワクイミュージアム時代にも、ロールス・ロイスおよびベントレーの歴史書を上梓した経験もあることから、「本がないなら作ってしまおう」と、ブリストルに関する歴史書も自費出版することになった。

そして、その本の製作のために日本国内のブリストル車の生息状況を調べてみると、やはり国内にはわれわれが把握しているもの以外には、数台程度しか存在しないことが判明。素晴らしい資質を持ちながら、やはり日本ではあまり知られていないブリストルを、わずかばかりでもお伝えしてゆきたいという思いを新たにすることになったのである。

ブリストル研究所代表・涌井清春氏の想いとは?

東京都文京区弥生、東京メトロ根津駅からさほど遠くない場所にひっそりと開かれている「ブリストル研究所」。その一般開業日である(ほぼ)毎週日曜日には、筆者自身もオフィスに手伝いに行くことが多い。つまり、涌井氏とは年がら年じゅう顔を合わせているうえに、ブリストル研究所にも構想段階から関与しているのだが、ここでは自動車ライターの立場から、あらためてお話を伺ってみることにした。

まずは涌井氏の代名詞でもあるロールス・ロイス/ベントレーから、ブリストルへと移行した理由について尋ねた。

「そうですね……。英語の辞書にも載っているロールス・ロイス、そして英国では連綿と続くW.O以来のクラシック・ベントレーを“乗れるクルマ、所有するだけでなく走って楽しいクルマ”として日本で認知させることには貢献できたかな……と思っています。

ただ、年齢的には、いわゆる“終活”を考える時期に入りましたが、それでもまだ全部辞めて隠居なんてつまらない。生来のコレクター気質、クルマ好きの情熱は持ち続けている。だから、ここで今いちど自分ひとりに立ち帰って、年齢相応、あるいは無理をしない自分相応のことをしてみたいな、と思うようになりました」

ブリストルというブランドとクルマの、どんなところに惹かれた?

「往年のブリストルの販売拠点は、ロンドンでも一等地として知られるケンジントンに設けたショウルーム1カ所のみという、不思議なメーカー。派手な宣伝をすることもなく、ひそやかでありながら、それでも一流の文化人やアーティストたちから支持され続けた。そんな、知る人ぞ知るブリストルというブランドが、とても魅力的に思えてきました。

英国では一流として認知されつつも、通人以外にはほとんど知られていない。でも、古典的なプロポーションで、スポーティ。乗っても眺めても官能的なブリストルは私の終活、というより総括的な活動の対象として、とても好ましく思えてきたのでしょうね」

クルマ趣味という大洋の片隅でポツンと竹竿を出す老人が、思い描く最後の姿

そして締めくくりとして、ブリストル研究所のあり方について尋ねてみた。

「ワクイミュージアムの前身である“くるま道楽”を開いた1980年代末ごろから、私は生来のコレクター気質で、周囲からはクルマを売りたがらないシャイな店、お茶でもしながら、ただお客さんと話しているだけの店……、なんて言われてました(笑)

今のブリストル研究所についても、ブリストルを売りたいというよりは、ブリストルを掘り下げて、できれば少し集めながら、ディーラーともいえないようなかたちで、ひっそりブリストルのある個人事務所を構えたい、との思いからスタートしました。だから“これからブリストルを広めて売るぞ!”というのは、ちょっと違うんですね。

商売でいうなら、ブリストルなんておそらく勝算はありませんよ。それでもクルマ趣味の多様で茫洋とした広い海に、老人が片隅でポツンと竹竿を出している、まるで水墨画の老人のようなイメージで自分を思い描いています。魚を釣ることは目的ではなく、片隅でポツンと竿を出していることが、おそらく今の私がしたいこと、趣味人として描く最後の姿なのです。

もちろん、これまで人生をともにしてきたロールス・ロイスとベントレーに、愛着がなくなったわけではありません。ただ、極東で古いブリストルを見つめている人間がいる、という遠い灯台のような存在が、遅ればせながら今からでもあってもいいのではないか……? と考えるようになったのです」

そんな涌井氏の思いのもとに開設されたブリストル研究所。もしもこの記事を見て、少しでもご興味お持ちいただける方がいらっしゃれば、ぜひともご遠慮なくコンタクトを取っていただきたい……、と切に願うのである。

■ブリストル研究所 一般開業日:(ほぼ)毎週日曜日 TEL:03-5801-0213(予約制) https://www.mk-wakui.com

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みんなのコメント

1件
  • クレア
    涌井先生は、この記事の言葉とおりの二度と出ない日本人いや世界の宝。車を愛することとは何なのか、すべてが異次元。まだまだお元気で何よりです。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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