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プジョー&フェラーリがル・マン復帰。北米進出も叶うハイパーカー【スポーツカー新規定おさらいLMH編】

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プジョー&フェラーリがル・マン復帰。北米進出も叶うハイパーカー【スポーツカー新規定おさらいLMH編】

 ル・マン24時間レースを主催するACOフランス西部自動車クラブとウェザーテック・スポーツカー選手権を運営するIMSAの合意、さらにFIAによって車両規則の変更が承認されたことで、ル・マン・ハイパーカー(LMH)規定のマシンとル・マン・デイトナh(LMDh)車の最終的な“コンバージェンス(収束、収斂の意)”が実現。WEC世界耐久選手権へのLMDh参戦に続き、2023年の北米シリーズにLMH車両が出場できることになった。

 LMHとLMDh、このふたつの規則は、次世代スポーツカー・プラットフォームという点では同じだが、そのなりたちと性質はそれぞれ異なる。その一方、部分的には共通化が図られ、将来の相互参戦に向けて足並みをそろえる格好となっている。

ハイパーカーvsLMDhが北米でも実現可能に。2023年からLMH車両のIMSA参戦を許可

 本稿ではそんなLMH規定とLMDh規定について、いま一度情報を整理。今後予定される参戦車両の登場や自動車メーカーのプログラム発表を前に、スポーツカーレースが置かれている状況を把握するのに役立てて貰えれば幸いだ。この前編では現在、トヨタとグリッケンハウスが参加しているLMHを紹介する。

* * * * * * *

 すでに今シーズンから正式に採用されているル・マン・ハイパーカー(LMH)は、WECの新しい最高峰カテゴリーである“ハイパーカークラス”のために作られた規則であり、その策定にはシリーズを共催するFIA国際自動車連盟とACO、さらにトヨタやアストンマーティンなどの自動車メーカーが関わってきた。

 2018年のル・マンで初めて発表された新規定は当初、市販ハイパーカーをベースにレースカーを製作することが想定されていたが、その後、コスト削減や車両製作時の技術的なハードルを下げるため、ベース車を必要としない専用開発のプロトタイプカーの使用も認められることになった。

 この変更は自動車メーカーに対して門戸を広げることにつながり初年度にはトヨタだけでなく、アメリカのスポーツカーメーカーであるスクーデリア・キャメロン・グリッケンハウスをシリーズに呼び込むことに成功した。さらに、2022年シーズンに向けて先日『9X8』を発表したプジョー、翌23年にはフェラーリ×AFコルセがLMHでこのカテゴリーに参加することを表明済みだ。

 なお、今季のWECハイパーカークラスを戦っている『トヨタGR010ハイブリッド』と『グリッケンハウス007 LMH』は、いずれもこのプロトタイプ型を採用。『プジョー9X8』を披露したフランスのメーカーも同様のかたちをとった。その一方、2019年に参戦を発表するも後にこれを撤回したアストンマーティンは、市販ハイパーカー『ヴァルキリー』をベースにレースカーを仕立てるとアナウンスしていた。

 なお今シーズン、トヨタとグリッケンハウスとともにハイパーカークラスに参戦しているアルピーヌは、2021年シーズンに限り特別に許可された旧規定のノンハイブリッドLMP1マシンを使用している。

■各プロトタイプ規定のスペック比較
LMP1-HLMHLMDh全長4650mm5000mm5100mm全幅1900mm2000mm2000mmホイールベース-3150mm3150mm最低前面投影面積-1.6平方メートル-車両最低重量878kg1030kg1030kgエンジン最低重量-165kg-エンジン形式-4ストロークガソリン-システム最大出力735kW500kW500kWエンジン出力368kW300kW470kWモーター出力300kW200kW50kWモーター回生-200kW200kWモーター搭載位置-フロントリヤ備考・4輪力行可・燃料タンク:62.3L・前輪力行のみドライ:120km/h~ウエット:140km/h~ピットレーン・燃料タンク:90L・後輪駆動・共通ハイブリッド・共通ギアボックス・コストバジェット方式
※LMP1-Hの数値はトヨタTS050ハイブリッドを参考にしたもの

■規則上、ロータリーエンジンでの参戦も可能

 LMHの初期案では、同規定が2020/21年シーズンから採用されることになっていた。しかし、新型コロナウイルスの影響によって選手権のスケジュールが変更されたこともあり、その導入は2021年の“シーズン9”からとなった。この間、WECの新規定は前述のベース車にかかる規定変更を含め複数回の改定が行われ、車両スペックもその都度変更されてきた。

 当初の案では、ル・マンでの想定ラップタイムが予選で3分20秒とされていたが、現在は3分30秒へと下方修正されている。また、初期の案では空力開発が可能なエリアを制限するとしていたが、これは2019年の規則概要発表時に量産ハイブリッド・パワーユニット(エンジン+MGU-K)の搭載義務とともに撤廃された。また、この段階でノンハイブリッド車両の参戦も認められている。

 ハイブリッドシステムについてはLMP1-H時代に可能だった電動モーターでの4輪力行が禁止され、ドライタイヤ使用時は120km/hから、ウエット路面時は140km/h以上で前輪のみを駆動させるスタイルに変更。モーター出力と回生は200kWに制限され、MGUの搭載位置はフロントのみ可となっている。

 エンジンは形式・排気量とともに規制はなく、規則上はロータリーエンジンでの参戦も可能だ。一方、認められるのはガソリンエンジンのみで、かつてアウディとプジョーが採用したディーゼルエンジンは使用できない。最高出力は19年の発表時には585kW(約795PS)とされていたが、翌2020年1月に発表されたLMDhに合わせるかたちで規則変更が行われ、500kW(約680PS)に改められた。

■ボディサイズは大型化。エアロは通年1種類

 パワーユニットの合計最大出力が旧規定の735kWから500kWに削減されるなか、シャシーはLMP1カーと比べて大型化。最大寸法は全長5000mm、全幅2000mm、全高1150mmといずれも上限値が拡大された。ホイールベースは最大3150mmとされ、最低重量は初期案の1100kgから70kg少ない1030kgに落ち着いている。これらの数値はいずれもLMDhのスペックと同じ数値だ。

 この他のLMHの特徴としては、LMGTEプロクラスでも用いられている、AI(人工知能)を使ったオートマチックBoPで車両間のパフォーマンスをコントロールする点や、コスト削減の観点から年間を通じてひとつのエアロパッケージを使用することが挙げられる。

 これにより、これまで見られてきた通常のサーキット用のハイダウンフォース仕様と、ル・マン用とローダウンフォース仕様の使い分けができなくなっている。その空力規定では、ダウンフォースとドラッグの比率で示される空力効率(L/D)を規定の枠内に収める必要がある。

 今月8日、両規定の“コンバージェンス”に向けたレギュレーション改正がWMSC世界モータースポーツ評議会で承認され、タイヤ、加速プロファイル、ブレーキ性能、空力という4つの主要な領域の調整を行うことでWECだけでなく、デイトナ24時間やセブリング12時間といった伝統ある耐久レースを抱えるウェザーテック・スポーツカー選手権にも、2023年シーズンから出場できることになったLMH。

 新規定の正式採用やシリーズ間での相互参戦の実現までには紆余曲折を経たが、ハイパーカークラスのデビューイヤーにグリッケンハウスの新規参戦が実現したことや、将来トヨタのライバルとなるプジョーやバイコレス、23年に参入予定のフェラーリをプロトタイプ・スポーツカーレースに復帰させるなど、すでに大きな役割を果たしていると言えるだろう。

 IMSAが運営する北米シリーズとの相互参戦が実現した暁には、23年にLMDhプログラムを開始するポルシェが2台体制でWECに参戦することを発表しており、ハイパーカーとLMDhが同じ土俵でバトルを繰り広げることになる。これはル・マンの総合優勝を懸け、ふたたび多数の自動車メーカーがトップカテゴリーを戦うことを意味する。その光景が見られる日が待ち遠しい。

■WECに参戦するハイパーカーの主要諸元
トヨタGR010ハイブリッドグリッケンハウス007 LMHプジョー9X8全長4900mm-5000mm全幅2000mm-2080mm全高1150mm-1180mmホイールベース--3045mm車重1040kg--ハイブリッドありなしありハイブリッド出力200kW-200kWエンジン3.5L V6ツインターボ3.5L V8ツインターボ2.6L V6ツインターボエンジン出力500kW500kW500kWタイヤサイズ31/71-1829/71-18(前輪)34/71-18(後輪)-

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