■なじみの鮨屋のような落ち着ける空間
発売され、マイナーチェンジを受け、そしていつしか消えていく数々の新型車。勃興しては廃れていく、さまざまなトレンド。そういった諸々を否定するわけでも非難したいわけでもない。
新型「Sクラス」はいつ日本上陸!? 2021年にやってくるメルセデス車を予想した
だが、そのような「表層部分の細かな動き」にいちいち対応することに疲れたとき、人は「タイムレスな名車」を手に入れたくなる。時間の経過を物ともせず、そのバリューをいまなお発揮し続ける「往年の名車」である。
ここではそんなタイムレスかつ現実的な名車をいま、中古車マーケットを通じていかに手に入れるべきか? ということを中心に述べていきたい。
第1回目に取り上げるのは、124シリーズこと4世代前のメルセデス・ベンツ「Eクラス」だ。多少なりともクルマに興味と知識を持っている人にはあまりに有名なシリーズゆえ、過剰な説明は不要だろう。
いまなおサーファーなどの間で人気が高い「W123」型ミディアムクラス(1976-1985年)の後継として1985年に登場。メルセデス・ベンツが、今日の比較的コストコンシャスでもあるフルラインメーカーとなる前の時代、「Das Beste oder nichts(最善か無か)」という企業スローガンがまだ実質的に生きていた最後の時代に作られた、中型サイズの4ドアサルーン(およびステーションワゴンなど)である。
ちなみに124シリーズは、ボディタイプ別に、セダン(W124)、ステーションワゴン(S124)、クーペ(C124)、カブリオレ(A124)とコードネームが付けられている。
アウトバーンの速度無制限区間を200km/h超で巡航したいのであれば、当然ながら、最新のテクノロジーを走行性能と安全性能とに全投入している最新世代Eクラスのほうが、速く、そして安全に、巡航することができる。
だがそうでないのならば──つまりごく常識的な速度レンジの範囲内で、とりわけ急ぐこともなく「ただただ心地よく移動したい」というのであれば、最終年式でもすでに25年前のクルマとなる124シリーズの各種ボディバリエーションは、今なお実用に耐えうるというか、むしろ最新モデルを上回る特質さえ備えている。
●数値では計れない「W124」の剛性感
コンピュータが解析する実際のボディ剛性ではなく「剛性感」はW124のほうが上であると感じる可能性があり、コストコンシャスなラック&ピニオン式ではなく、わざわざリサーキュレーティングボール式という方式を用いたステアリング機構がもたらすタッチは──しっかり整備されたそれであるならば──「甘美!」としかいいようのないものだ。
また、1980年代後半から1990年代前半にかけては「トレンド」に沿ったものであったインテリアデザインも、2020年のいまとなっては「落ち着いたムードの塊」である。それはどこか、筆者のような中高年にとっては「若い子らで溢れかえっている渋谷の街を素通りし、ホームタウンである○○の××に帰ってきた」かのような気分にさせてくれるものだ(「○○○の×××」の部分には、貴殿がもっとも落ち着くエリアの、どこかの場所を代入していただきたい。筆者個人の場合でいえば、それは「地元・学芸大学のなじみの鮨屋」になるだろうか)。
そんなW124型メルセデス・ベンツEクラスは、VAGUE読者諸兄にとってもハマるだろう1台であると筆者は確信しているが、それでも「手放しでおすすめする」というわけにはいかない。
「メンテナンスの問題」というのが、やはりどうしてもあるからだ。
■メルセデス・ベンツW124の中古車相場は?
中古車マーケットで現在流通している124型メルセデス・ベンツEクラスの相場は、5リッターのV型8気筒DOHCエンジンを搭載したやや特殊なモンスターセダンである「500E(後期型はE500)」を除けば、下は約80万円で、上が約400万円といったところ。世代別およびボディタイプ別では、おおむね下記のとおりとなっている。
●セダン(W124)
ミディアムクラス(~1993年):80万-300万円
Eクラス(1993年~):80万-380万円
●ステーションワゴン(S124)
ミディアムクラス(~1993年):100万-300万円
Eクラス(1993年~):90万-400万円
●クーペおよびカブリオレ(C124およびA124)
流通量が少ないためN/A
●購入後の主治医の確保を
1993年途中のマイナーチェンジで、それまでのミディアムクラスという呼称から、今日まで続く「Eクラス」という呼称になり、それと同時にエンジンをDOHC化しつつ、エクステリアも微妙にモダンなデザインへと小変更している。だがそのモダナイズがいまとなっては仇となり、こと人気の面では、よりクラシカルな雰囲気を持つ「ミディアムクラス」のほうが高いようだ。
だが「ミディアムクラスかEクラスか?」というのは、ある意味どうでもいい問題で、真の問題は「車両それぞれのコンディション」だ。
車両価格80万円級の底値系物件は──市場経済のメカニズムとして当然のことではあるが──内外装や機関部分に難がある個体も多いため、避けることが肝要となる。具体的には──もちろん一概にはいえない問題ではあるのだが──ミディアムクラスのセダンで「車両150万円以上」をイメージしながら探すのが得策となるだろう。
だがその際に、「自分は潤沢な予算を有しているから、150万円なんていうシケたことはいわない。とにかく一番高いやつを買うぜ!」という人も一部にはいるはずだ。
そういった最高値系物件は、確かに内外装のコンディションが非常によろしい場合が多い。それゆえ、とくにメンテナンスせずとも数年間は普通に乗れるはず……と考えるかもしれない。
だが25年前あるいは30年前のクルマというのは、仮に走行距離が短めの「内外装美車」であっても、「そのまま普通に乗れる」と思ったら大きな間違いである。
見た目はキレイでも(それはもちろん好ましいことではあるのだが)、ゴム製の緩衝材は硬化し、そのため場合によってはクラックが入り、そのままではまったく使い物にならなかったりもする。また同じくゴム製の各種ホース類やその他諸々の箇所にも、「歳月」は確実に深刻な影響を与える。
つまり124シリーズの購入において本当に大切なのは、「底値系物件のプライスだけに目を奪われないこと」に加え、「腕と人間性に優れる主治医(工場部門を持つ専門販売店や、往年のドイツ車に強い専門工場)」を確保しておくことである。
さらに加えて必要なのは、そういった主治医に「検診と治療を依頼するための、いくばくかの予算」を持っていることだ。
だがしかし、そういった「主治医」さえいれば、124シリーズの部品代というのは(国産車のそれのように安いわけではないが)バカ高いわけでもないため、ごく普通にファーストカーとして使用するのも不可能ではない。
もしも124シリーズを探すのであれば、クルマそのものだけでなく、そのあたり(メンテナンス面)の情報も逐一調査しつつ、話を進めていただきたい。そうすれば特段の困難なく、この名車とともにある暮らしを始めることができるはずなのだ。
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みんなのコメント
でも、リリースから30年以上経っているから程度の差も大きいこともあり、モデルの形式によっては維持費がかかるのが現状です。
でも、このモデルのファンなら乗り続けたいユーザーもいるだろうから、メンテナンス代に金を惜しむユーザーも少なくないだろう。
値段以前にいつまで部品が調達できるかのほうが問題な気がする…