新型N-BOXの試乗会に参加し、試乗フィーリングと担当エンジニアに軽自動車のユーザー調査に関する取材もさせてもらいましたので、合わせてレポートします。
■ユーザー調査結果を開発へ反映する
ホンダによると軽自動車の売れ筋は、スーパーハイト領域にシフトしています。
また、「軽自動車では以前、ユーザー不満の上位は走行性能項目だったが、今は上がらなくなってきた」そうです。つまり、軽自動車の加速などの走行性能は多くのユーザーにとって、すでに十分なものになっていて、スムーズな加速の方が大切になっているらしいということです。
販売価格も、スーパーハイト領域は軽自動車のわりに高いと指摘されます。また、トレンドの安全装備などを付けるとさらに高くなります。しかし、最近のユーザーはメリハリ消費と言われていまして、「長く使える良いものなら、少し高くても買う」という傾向にあるそうです。
特に、軽自動車のユーザーには高齢者も多く、事故の事を考えると、高くても安全装備はできるだけ付けておきたいという考えがあります。
ボディカラーの売れ筋は、以前は白、黒、シルバーがほとんどでしたが、今は2トーン含めてカラフル化してきています。まさに価値観多様化です。
新型N-BOXはこのようなユーザー価値観、トレンドを多くとらまえて、走りと燃費、乗り心地とスタビリティ、価格と装備、仕様などの二律背反項目を解決しながら開発されました。
■動的性能
私は試乗に先立ち、エンジンからボディまでほとんど全てが新作され、エンジンはVTEC化、ボディは-80kgの軽量化と聞いて、これは相当走りのレベルは上がったと期待して、試乗に望みました。
■試乗レポート
先ずは、FFの自然吸気エンジン(NA)の試乗です。試乗コースは、横浜市街とクネクネとした山手を通り抜けて本牧に降り、高速を少し走り戻るというコースです。
信号待ちからの走り出しは、スムーズで、つまりアクセルの踏み込み具合と加速がなんともリニアで、ハンドルもEPS独特の嫌な感じ(中立付近の曖昧さ)もなく、もちろん街中でのNV(振動・騒音)性能も良く、気持ちよく横浜の街を抜けました。
山手はかなりのアップダウンとコーナーがあります。制限速度をキープして走ると、時々エンジンは唸り(キックダウンして)、さらに背が高いので少しフラフラしますが(ターボ車は比較的良かった)、アジャイルハンドリングアシストのおかげかコーナーはスイスイ走り抜けました。
市街地では道路表面に継ぎ目も多く、それを乗り超えながらの走行になりましたが、その乗り心地は丸く軽自動車的なフィーリングを感じませんでした。いわゆるスタビリティと乗り心地が両立しています。
インテリアの視界は、細くなったセンターピラー、ルームミラー、メーター、ナビ、などがバランス良く配置され、整然としています。特に、ハンドルの上から見るメーターは見やすかったです。
あとは、高速です。VTEC化、-80kg軽量化を思いだして試乗しましたが、残念なことにこの2つを感じることはありませんでした。期待しすぎたのかな・・・笑。
大きく加速しようとアクセルを踏んでキックダウンさせ、エンジンは4000~5000rpmで唸りを上げても、加速感はそれほど伝わってきません。
開発者に質問すると、「VTECは加速感よりも燃費に振った設定になっている」と。それを早く言えと言いたくなりました。笑。
一方、走り出しから40~50km/hの常用域は-80kgの軽量化の効果か、スムーズな加速~走りになっています。
この後で、ターボ車も試乗しましたが、加速だけでなく、スタビリティも良く高速もノンストレスです。上級車そのものです。もちろん、価格は上がり、燃費は悪くなりますが、走りにこだわる人はコチラのターボです。
■燃費
さて、燃費ですがVTECを燃費方向のセッティングにして、重量も-80kgも軽量化されたのだから、さぞかしアップしていることと思ったら、これがJC08モードで、FFが25.6km/L(旧型)から27.0km/L(新型)に。ターボはこれより5%程悪くなります。
競合のダイハツ・タントが28km/L、スペーシアが32km/L。エンジンからボディまでオールニューというフルモデルチェンジしたN-BOXの方が、すでに販売中の競合よりカタログ燃費が悪いのです。当然、カタログ燃費は実際の燃費とは異なるとはいえ、後から出たモデルが悪いというのは・・・。
その理由は・・・。今回のN-BOXは-80kgという大幅軽量化にもかかわらず、JC08モード計測での「イナーシャランク」が下がっていないのです。
イナーシャランクについては、「【繁浩太郎の言いたい放題コラム】第10回 カタログ燃費と実用燃費のホントのこと 2015年2月5日」を参照してください。
簡単に言うと、新型のN-BOXは軽くなっても、カタログ燃費を測定する時に使う測定ベンチでの「車重(イナーシャウエイト)」は変わっていないのです。イナーシャウエイトは実車ウエイトに対して階段状になっているからこういうことがおこります。
ホンダも必死でカタログ燃費にこだわっていたなら、もう少し頑張って軽量化すれば、グンとカタログ燃費はあがったはずです。
しかし、それをしなかった。理由は、「カタログ燃費は実際の走行燃費とはかけ離れているということをユーザーも理解してあまりこだわりがなくなり、実際の燃費を大切にした」らしいです。
さらに、JC08モードを見直そうという動きもあり(WLTP=世界共通の燃費計測モード)、カタログ燃費は競合車と同様となる、ある一定レベルを満足していれば良いと判断したということです。
このように、新型N-BOXは走りや燃費の特化という形でなく、あくまでもユーザーが実利を得られる形で開発されたのです。
実利と言えば、以前から北米のホンダでは「Safety for everyone」という言葉で、安全技術はグレードや車種によらず全てのユーザーにシェアしたいという理念がありました。今回、軽自動車にもこの理念を当てはめて、衝突軽減ブレーキに代表されるHonda SENSINGを全車に適用しました。理念を持ってそれを実行するのは、まさにホンダらしいと思います。
■まとめ
走りも、燃費も、-80kgの軽量化やVTECエンジンから想像するような目立った性能は感じませんでしたが、「常用域」では、乗り心地から加速、ハンドリング、さらに視界まで、本当に運転しやすいストレスの少ないクルマになっていました。ターボ車を選べば、スタビリティも良く走りにこだわる人にも応えてくれます。
つまり、デザインから性能まで、どこかを特化するというような開発ではなく、あくまでもユーザー価値観をベースに、より安全に走りやすい、乗りやすい、使いやすいというバランスのとれたN-BOXとなっているということです。開発者の皆さん、お疲れ様でした。
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