マツダの現行「CX-5」に追加された「Retro Sport Edition」にサトータケシが試乗した。想像以上に好印象だった理由を探る。
乗ればわかる違い
マツダCX-5に「Retro Sport Edition」が設定されたと聞いたとき、言っちゃ悪いけれど在庫一掃のための特別仕様車かと思ったのである。なんせ現行の2代目CX-5のデビューは2016年、まもなく8年目に突入という長寿モデルなのだ。
新型CX-5が出るのか、あるいは2023年に発表された「CX-60」にバトンを引き継ぐのか、さらには海外で売られている「CX-50」を日本に導入するのか。いずれにせよ現在のCX-5はお役御免で、お化粧を施して最後にひと花咲かせてもらいましょう、というのが「Retro Sport Edition」なのだと理解した。
だから2.2ℓディーゼルターボエンジンを搭載するFF仕様、マツダCX-5 XD Retro Sport Editionに乗り込むときは、それほど期待してはいかなった。
ところがどうでしょう、やはりクルマは乗ってみないとわからない。
まず感じるのは、乗り心地のよさだ。しかもこの乗り心地のよさは、足まわりがカタいとかヤワいといった表面的なものではなく、身体全体を包み込むような懐の深さを感じさせるもの。しっかりとしたボディから繊細なシートの設計、そして金属バネやショックアブソーバーのセッティングが、理想を実現するためにひとつの方向を向いていることがひしひしと伝わってくる。
記憶のなかのマツダCX-5は、SUVらしからぬスポーティな操縦性と引き換えに、やや落ち着きに欠けるきらいがあった。首都高速の路面のつなぎ目を越えるときにピョコタンとして、直接的なショックを伝えた。ところがそういう粗さがなくなり、滑らかな走行感覚を伝えるようになっている。木綿豆腐が、絹ごし豆腐になった。
「SKYACTIV-D」と呼ぶマツダ独自のクリーンディーゼルエンジンは、以前からガソリンエンジンと区別がつかないほどのスムーズな回転フィールが特徴だった。久しぶりに乗ってみると、そうした美点はそのままに6段ATとのマッチングが良好になっているように感じた。
たとえば加速が必要な場面でアクセルペダルを踏み込むと、それを予想していたかのようにトランスミッションが素早くギアを落とし、エンジン回転を上げて加速する。しかもギアを落とすのは素早いだけでなく、ショックもない。ディーゼルエンジンと6段ATは、息のあった二遊間コンビのように、常に相手の動きを認識して、以心伝心なのだ。
乗り心地にしろ、パワートレインにしろ、ドライバーの意図がすっきり伝わる印象で、言うことを聞かなかった犬をトレーニングに出したら、いい子になって帰ってきたのに似ていると感じた。しつけが行き届いている。
プレスリリースを辿ると、マツダCX-5はここ数年、毎年改良を受けている。広島のクルマ大好きエンジニアたちが、丹精込めてCX-5を育てているのだ。「まもなく8年目に突入する」と書いたけれど、いまがこのクルマの最旬なのかもしれない。
ちなみに、マツダのグローバル生産台数の約33%をこのCX-5が占めているという。いいクルマだから売れているのは間違いないし、屋台骨を支えているモデルだからお金をかけて改良できるという面もあるかもしれない。いずれにせよ、マツダCX-5は好循環にあるのだろう。
本末転倒になったけれど、「Retro Sport Edition」についてふれたい。これは「レトロモダンの世界観とスポーティさを融合したモデル」とのことで、CX-5のほかにCX-30とMAZDA3にも設定がある。
外装色は、撮影車両の「ジルコンサンドメタリック」がイメージカラーで、インテリアはテラコッタというくすんだレンガ色とブラックの組み合わせになる。ジルコンサンドメタリックというボディカラーは、写真で見るとのっぺりとした印象だったけれど、実車を見ると深みと奥行きを感じさせるいい色だった。テラコッタのステッチもいいアクセントになっている。
“在庫一掃の特別仕様車”と、早合点したことは、大変に申し訳ない。「Retro Sport Edition」は、実直に作られて、しかも価格設定も良心的なマツダCX-5の魅力をさらに引き出す、センスのいいコレクションだった。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
初期のCX-5といい、MAZDA3/CX-30のリアサスといい、今のCX-60といい。