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自動車業界の「異端児」? シトロエン代表とパリで過ごした一日 クルマはどうあるべきか

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自動車業界の「異端児」? シトロエン代表とパリで過ごした一日 クルマはどうあるべきか

フランスの異色ブランド

エッフェル塔の下で、大の大人2人がシトロエン・アミという小さな小さなクルマに乗り、撮影のために広場のロータリーをぐるぐると回っている。フランスで14歳になると無免許で運転できる2人乗りのEVは、45km/hまでしか出せない。

【画像】シトロエンCEOと過ごしたパリでの一日【美しいパリの風景と個性的なシトロエン、すべての写真を見る】 全21枚

アミがいつまで経ってもロータリーの渋滞の中にとどまっているのは、筆者の運転手であるシトロエンのCEO、ヴァンサン・コベが最高の写真を撮ってもらおうと走り続けているからだ。

通行人は、誰もわたし達のことを気にしていないようだ。近くにいる青いストライプ入りの白いスコダ(パトカー)に乗った4人の憲兵は別として。彼らは、アミが目の前を何度か通り過ぎるのを見守った後、カメラマンがレンズを交換する間に渋々停車しているわたし達のところへやってきた。トラブルが起きそうな気配だが、コベは対応の仕方を心得ている。

彼はアミの大きなドアを開けて外に飛び出し、両手を広げて満面の笑みを浮かべながら憲兵のもとへ歩み寄る。これは短期間の撮影隊であり、自分はシトロエンの人間だと説明する。「お望みなら、これを1台お譲りしましょうか」と言いながら、アミを指差す。憲兵たちは笑顔で手を振り、走り去った。コベがどのように物事を成し遂げるか、興味深い洞察を得た。カメラはもうバッグの中にしまっておこう。

筆者は、シトロエンを2年ほど率いているこのフランス人男性と、一日の大半を過ごすためにパリへやってきたのだ。彼はダブルシェブロンと生涯にわたって大切に育んできた「縁」があるわけでもなく、どちらかというとグローバルなキャリアを歩んできた。しかし、ステランティスの「異色」ブランドのリーダーとして、彼が適任であることは明らかである。

日産・三菱でもキャリアを積む

最初に会ったのは、パリ南西部の郊外ヴェリジーにあるステランティスのテクニカルセンターに設置された巨大な展示室、「未来のシトロエン」だった。ここには、改良したばかりのシトロエンC5エアクロス、優雅なC5 X、そしてアミをミニ・モーク化したようなアミ・バギーが並んでいる。後者はワンオフモデルだが人気が高く、市販化されるかもしれない。

その後、セーヌ川沿いにあるシトロエンの工場跡地に立つ高級レストラン、ル・ビストロ・アンドレで昼食をとる。そして、コベがハンドルを握るアミから、エッフェル塔を眺めるのだ。これ以上のお出かけはないだろう。

コベの経歴を簡単に振り返ってみる。フランス北東部のナンシー近郊で育ち(母親は教師、父親は税務署員)、土木技師としての訓練を受け、ブルターニュ地方の高速道路建設に携わるようになった。その仕事が、カナダ、フィリピン、シンガポールにおけるフランスの官民パートナーシップにつながる。そして、ルノー・日産の社長だったカルロス・ゴーンと出会い、日産自動車の購買部門に採用された。

3年後、欧州日産の購買部門トップに就任。その後7年間、インド、インドネシア、南アフリカ、ロシアを回り、ダットサンブランドを再スタートさせた。この後、三菱に移り、後のステランティスCEO、カルロス・タバレスや元日産副社長、アンディ・パーマーと旅路を共にする。そして衝撃的なことに、2018年末、全権を握るゴーンが逮捕された。

「いくつもの大揺れを引き起こした」とコベは振り返る。「非常に効果的だった三菱とルノー・日産との協業は、大失敗に陥りました。わたしは6か月の休暇の後、2019年初めにPSAに入社しました」

コベがPSAで働くことになったとき、決まった役割はなかったので、自分からシトロエンのリーダーを希望した。

「マトリックス型の組織だったので、機能、地域、ブランドという3種類の仕事をこなせると伝えました。ダットサンを7年間経営した経験から、ブランドトップを目指すことにしました。選べるならシトロエンのね。シトロエンの自由奔放さ、積極的な姿勢が好きだからです。『必要はないし、非難されるかもしれないが、自分たちが正しいと思うから行くんだ』という自由と挑戦が素晴らしいのです」

プラットフォーム共有の制約は?

この大きな部屋で展示されているクルマは、シトロエンの異質さを表している。C5エアクロスは、ファミリー向けSUVの中で強く異彩を放ちながらも、その特異なデザインスタイルからシトロエンであるということは明白に伝わる。さらに、新型C5 Xは、全長4.8mのサイズ感、彫刻的なサイドボディ、アグレッシブなファストバックスタイルなど、かつての大型シトロエンの面影を残しながら、車高が高く、室内空間も広い。

堂々たるクロスオーバーだが、筆者はプジョー308とプラットフォームが同じであることから、現代におけるシトロエンの自由度も、兄弟ブランドの構造を共有しなければならないという制約を受けているのではないかと考えた。コベは、この指摘を一蹴する。

「制約があるのは事実です。前の時代よりも大きいかもしれません。でも、そこが面白いんです。こういうものは、制約と捉えたときにそうなってしまうんです。このクルマはプジョー308と共通のプログラムですが、それを見破るのは専門家であっても難しいでしょう。C5 Xは、異なるホイールベース、異なるセグメント、異なる目的、異なる市場地位のために作られています。しかし、その機械的な関係から、非常に優れた快適性を、実に手頃な価格で提供することができるのです」

アミは、特にバギー仕様で、シトロエンのもう1つの可能性を示している。

「これは、他のメーカーがつくるには難しいクルマでしょう。酔った勢いで作ったと思われるかも。でも、わたし達はいいんです。こういうことは想定内。プロジェクトはまったくの白紙からスタートし、3つの目的を持たせました。移動の自由、都市の混雑解消、そしてクリーンモビリティは7万ポンド(約1100万円)もするべきではないということです」

もっと軽くて安いEVを

コベは、自社のクルマが完全な電動化に向かう中で、特にこの最後の点について声を大にして言う。

「BMW iXは2.5トン、テスラ・モデルXは10万ポンド(約1600万円)です。どちらも素晴らしいクルマですが、誰のためのクルマなのでしょうか?シトロエンは6000ポンド(約100万円)から6万ポンド(約1000万円)の自動車会社であり、顧客と協力しながらバッテリーEVの購入を合理化することが仕事です」

シトロエンにとって重要なことは、重くてかさばる高価なバッテリーのサイズを制限し、日々の電動モビリティを手頃なものにすることであり、超長距離移動など「年に3日」程度の問題に対する解決策を見出すことであると彼は信じている。「わたしの父は40年間フォルクスワーゲンのパサートに乗っていました。1台目は燃料タンクが80Lでしたが、最後は43Lで十分でした。父はその違いにすら気づかなかったのです」

シトロエンのようなブランドが目指すのは、BセグメントのEVの価格をICE車の2万ポンド以下(約320万円)にすることだが、コベはそれが簡単ではないことを認めている。「スケール効果、バッテリーやモーターだけでなく構造から重量を取り除くスマートな設計、バッテリーサイズに関する賢明な選択、より良いインフラと旅支度で補うことなどの助けが必要です」

シトロエンは、今後も型破りな発想を躊躇することはないだろうと、コベは言う。「わたしには、2つの仕事があります。シトロエンの個性と価値を守ること、そして年間100万台を販売することです。そのために奇をてらったことをするのかと言うと、そんなことはありません。しかし、うまくいくのであれば、他者が躊躇するようなことも進んで取り組みます」

クルマを「所有する」ということ

ヴァンサン・コベは、クルマの個人所有は当分続くと見ている。

「日本を見てください。都市部では、短距離の移動は公共交通機関を利用する人が多いのに、クルマを所有する人の割合は欧州よりも高いのです。都市部以外の移動には、やはりクルマが必要とされている。また、日本では10年前からビークル・トゥ・グリッド(V2G)のEV充電システムが実用化されていますが、欧州ではまだ始まったばかりです」

「カーシェアリングは、まだ理想的なビジネスモデルにはなっていませんが、もちろんうまくいく場合もあります。保険、清掃、給油、広告、クルマの移動、罰金の支払いなどを考えると、クルマ自体のコストは、総コストの20%にも満たないのが現状です」

「他の人が使ったばかりのクルマに行き当たりばったりに乗りたいと思う人は、どれくらいいるでしょうか?公共交通機関には問題があり、カーシェアリングにも問題がある。だから、クルマはまだ好まれるのです」

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