最近、日本では四角いクルマ、丸目のヘッドライトのクルマがウケている。なかでも四角くて丸目のクルマの人気が高い。
ハスラーやジムニーをはじめ、ラパンやスペーシアギアなどのスズキ勢、ムーヴキャンバスやトコットのダイハツ勢、そしてベストセラーカーのN-BOXやN-ONE、商用車のN-VANなどのホンダ勢までも、四角い形で、ヘッドライトが丸目となっている。
世界を見渡すと、人気のあるメルセデスベンツGクラス、ジープラングラー、ジープレネゲードも四角く質実剛健なボディに丸目ヘッドライトを組み合わせているのはよく知られている通りだ。
なぜこれほどまでに、四角くて丸目のクルマが人気なのか? その理由をモータージャーナリストの清水草一氏が探ってみた。
文/清水草一
写真/ベストカー編集部
■なぜ日本人は四角いクルマが好きなのか?
四角いボディに丸目2灯のレトロ&モダンなスタイルがウケたジムニー
日本人(私を含む)は、四角いクルマが大好きだ。正確には、「四角いクルマが好きな人が多い国」ということになるが、これは、日本の国土で生まれ育つうちに、自然に培われた民族的な志向だろうと思われる。
逆に、たとえばイタリア人は、有機的な曲線を持つクルマが大好きだ。
アルファロメオのデザインを巡って、とても印象深いエピソードがある。1990年代初頭、アルファ155は、AMGを打ち負かすなどDTM(ドイツツーリングカー選手権)で大活躍した。その雄姿を覚えているご同輩諸兄も少なくないだろう。
アルファ155といえば、ウェッジシェイプの直線的な箱型セダン。私はそれが猛烈にカッコよく見え、その後実際に買った。ところがこのアルファ155、イタリアではデザインが大不評だったというのだ!
1992年にデビューしたFFスポーツセダン、アルファロメオ155
「あんな棺桶みたいなクルマ」とソッポを向かれたという。「あんなのに乗るのは警官だけだ」とも。
当時のイタリアでは、パトカーはアルファロメオが主流だったが、一般ユーザーはあまり155を買わなかったので、「155はパトカーばかり」というジョークが生まれた。
155のデザインをイタリアンデザインの真髄のひとつと信じていた私は、この話を聞いて大ショックを受けた。
155の後継モデルは156。こちらは官能的な曲線美を持っていたので、イタリア人も大喝采だった。156は日本でも非常に人気があったので、日本人は有機的なデザインが嫌いというわけでは決してないが、「四角いのが好き」という嗜好が突出して高い国だとは言える。
1997年に登場したアルファロメオ156。デザイナーはワルター・デ・シルヴァ
実際、日本では現在、四角いクルマが売れに売れている。軽自動車の世界では、ハイトワゴンやトールワゴンなど、売れ筋はすべて箱型。ミニバンも当然箱型だ。これだけで、日本国内の販売台数の約4割に達するのではないか。
クルマの半分が、冷蔵庫を横倒ししたみたいな箱型なんていう国は、世界中探したってほかにあるわけない! 箱型のクルマというのは、海外では基本的に営業車。オシャレじゃないし、ステイタスが低い。乗用車になることは稀だ。
■武士道の精神が箱型に通じる?!
ところが日本人は、箱型の乗用車に乗ることになんの抵抗感もない。それどころか大人気だ。ナゼなのか?
これをはっきり説明することはできないが、日本人の心の源流には、禅をベースとした武士道があり、「質素を持って旨とすべし」という価値観があることは確かだ。虚飾を排したシンプルな形状こそ善。つまり「空」。その究極の形状が箱型なのだ。
一方、有機的な形状は、いわば「色」。百八つの煩悩みたいなもの。人間の本能として、女性的ななまめかしい曲線にも惹かれるが、建前としては、暴れん坊将軍吉宗も唱えたように、質素倹約こそ不動の美徳。シンプル・イズ・ベスト!
日本人は何の抵抗もなく、箱型にシンプルな美を感じるのである。決して「棺桶みたいだ」などとは言わない。
「そんなにシンプルなデザインが好きなら、なんでアルファードみたいなコテコテの顔がウケるんだ!」
オラオラ、コワモテ顔のアルファード、ヴェルファイアが人気なのはなぜ?
そう反論する方もいらっしゃるだろうが、アレはお獅子や鬼瓦、あるいはシーサーみたいなもので、魔除けの意味合いなのである。たぶん。
一方のイタリアはどうかといえば、建造物を含めすべてが有機的。クルマのモチーフは誰がなんと言おうと女性のカラダで、そうでなくてはいけない。なぜなら、それこそが究極の美のカタチだから! 建前とする価値観が違う。
そんなイタリアで、マルチェロ・ガンディーニ(ランボルギーニカウンタック、ランチアストラトス、シトロエンBXなど)やジョルジェット・ジウジアーロ(初代VWゴルフ、初代フィアットパンダ)という、直線美を得意とする自動車デザイナーが生まれたのは皮肉といえば皮肉だが、彼らが直線を多用したのは、一種の反骨心もあったのではないか?
ジョルジェット・ジウジアーロがデザインした四角くて丸型ヘッドライトの初代VWゴルフ
つまり、カウンタックや初代ゴルフは、欧州人にとってはエキゾチシズムなのだ。
話が逸れた。とにかく日本人は四角いクルマが大好きだ。そこには、もともとシンプルな箱型を好むという民族的嗜好に加えて、箱型のほうがスペース効率が高く、同じサイズなら居住空間を広くできるという実利がある。
なにせ狭い家に住んでますからねぇ。少しでも広い家(あるいはクルマ)を! というのもまた、日本人の心に深く刻まれた志向と言えるだろう。
そんな日本では、丸目のクルマも人気がある。丸目のクルマは文句なく「カワイイ!」とか「カッコいい!」と言ってもらえる。
現在、世界の自動車業界では、丸形ヘッドライトは超少数派だ。欧米車で丸目車といえば、ミニやフィアット500などのレトロカーや、ポルシェ911のように昔からの伝統を守っているクルマだけと言っていい。
■ヘッドライトの外縁は四角いが中は丸目がトレンドか!?
人気のハスラーも四角いボディにつぶらな丸目のヘッドライト
四角いボディに丸目のスペーシアギア
ハスラー、ジムニー、スペーシアギア。これらは文句なくソレだ。加えてベストセラーカーナンバー1を爆走中のN-BOXも、ライトの外縁は四角いけれど、なかのライトは丸目(カスタムを除く)。
ところが日本では、新型車にもかなり丸目が多いし、それがユーザーに受けている。なかでも軽自動車の世界では、「四角いボディに丸目ヘッドライト」というパターンが驚くほど多い。
N-ONEも、フォルムは箱型というより台形だが、直線基調のボディを持ち、ヘッドライトは丸。ラパンもボディの角は丸いが、全体としては箱型に丸目。トコットやムーヴキャンバスもその部類に入る。
軽自動車人気ナンバー1のN-BOXのヘッドライトは外縁は四角いが中のヘッドライトは丸目
ヘッドライトは外縁は丸くはないが中は丸目のトコット
丸目ヘッドライトを技術的に表現すれば、「性能の低いハロゲンなどの電球型ヘッドライトの、しかも最廉価部品を使っているクルマ」ということになる。よって海外ではレトロカーにしか使われなくなっているわけだが、日本ではあえてというか、一部車種に無理にでも丸目が採用されている。
これは、箱型ボディ同様、日本人が丸目ヘッドライトが大好きだから! これまた日本人だけの特徴だ。なにしろこれらのクルマは、ジムニー(シエラ)を除けばすべて国内専用。海外では丸目なんて、レトロカー以外はありえない。
■「丸目好き」はシンプル・イズ・ベストという日本人の哲学に合致する
スペース効率のいいN-VANも四角いボディにリング状に光る丸目ライトを持つ
いったいナゼ日本人は、丸目ヘッドライトがこんなに好きなのか? これも箱型ボディと同じだろう。シンプル・イズ・ベスト。虚飾を捨て去った先に美があるという哲学が、日本人の心の源流にはある。
かのガンディーニ氏が、「世界で最も優れた自動車デザインは、ワゴンRなどの日本の小型車」と語ったというエピソードは、日本の箱型車のデザインは超ハイブロウであるというリスペクトの表われだろう。日本人として、四角い丸目グルマが売れまくっている現実を誇ろうじゃないか!
でも、有機的な曲線美を持つクルマも、ぜひもっとお願いします。やっぱりそれが世界の主流なので……。
2020年に日本発売予定のホンダeも丸目ヘッドライト
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