これまでクルマを題材とした漫画は数多くありますが、なかにはどうやっても手が届かない世界を描いた作品も存在します。その代表作が「サーキットの狼」だといえるでしょう。
「サーキットの狼」といえば、やはりロータス「ヨーロッパ」でしょう「サーキットの狼」は「スーパーカーブーム」の火付け役ともいわれますが、当時の少年達に日常的に見かけるクルマとはまったく異なる、夢の世界のようなクルマを見せてくれたものです。
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今回は、1975年に連載が開始されるやいなや大人気となり、昭和の少年達を夢中にさせた本作品に登場する、記憶に残るスーパーカーを5車種ピックアップして紹介します。
●ロータス「ヨーロッパ」(風吹裕矢)
それほど高性能ではないがスタイルは完全にスーパーカーだったロータス「ヨーロッパ」 風吹裕矢は「サーキットの狼」の主人公です。名前からして現実離れしていますが、裕福な家庭に生まれついたようで、高校生にしてロータス「ヨーロッパ」を手に入れています。
さらに、お姉さんは大変な美貌の持ち主であり、ファッションモデルを職業にしているという、世の多くの少年たちが望む設定となっていました。
そして風吹裕矢が駆るロータス「ヨーロッパ スペシャル」は、ホワイトのボディカラーにレッドのストライプが車体を縦断して入り、大きなリアウイングが取り付けられています。
このストライプにはレースで勝った数だけ星が記されていますが、風吹裕矢は相当な腕前、そして自尊心を持っています。
ヨーロッパは全長3980mm、全幅1650mmというコンパクトなサイズもさることながら、全高1090mmという低さが際立ちます。とくにボディが低いことで知られるランボルギーニ「アヴェンタドール」の全高は1136mm、そしてフェラーリ「488GTB」の全高は1213mmですから、いかにヨーロッパが低いかがわかります。
そして車体重量は730kgに収まり、これはホンダの軽オープンカー「S660」よりも100kgほど軽量です。
エンジンは1.6リッター直列4気筒DOHCで、最高出力は126馬力にとどまるものの、これは軽量な車体を考慮すると十分な出力と思われます。
実際に作中では、馬力に頼らずコーナリング技術を磨くことでレースに勝利する様子が描かれています。
ヨーロッパが生産されたのは1971年から1975年なので、連載開始当時はまさに「現役」であった、ということになります。
●ポルシェ「911カレラRS 2.7」(早瀬佐近)
「ナロー」時代の最後に登場したピュアスポーツのポルシェ「911カレラRS 2.7」 主人公である風吹裕矢の最大のライバルが早瀬佐近です。大手電機メーカーの社長子息という設定であり、風吹裕矢以上に恵まれた家庭環境にあります。
そして、やはり高校生ながらもポルシェ「911」の限定モデルに乗るという浮世離れした設定で、さらに驚くのは、早瀬佐近はポルシェのみで組織された暴走族のリーダーを務めていたということです。
情熱的な風吹裕矢とは対象的に、冷静かつクレバーな走りが持ち味ですが、主人公とは反目しながらも認め合い、かつ切磋琢磨するという理想的な関係が描かれます。
早瀬佐近の乗る「911カレラRS 2.7」は、レース出場のため、規則で定められた最低製造台数を満たすことを目的に、ポルシェが1972年に発売したクルマで、いわばレーシングカーのベースモデルです。
エンジンは2.7リッター空冷水平対向6気筒で、最高出力は210馬力を発揮。
総生産台数は1580台、日本には14台のみが輸入されたという記録が残っており、モデルイヤーが1973年なので「ナナサンカレラ」と呼ばれています。
価格高騰している空冷911のなかでも、とくに高い人気を誇り、希少価値からオークションでは1億円で落札されることもあります。もちろん、連載当時はここまで価値が高くなるクルマだということは、だれも想像できなかったことでしょう。
●トヨタ「2000GT」(隼人ピーターソン)
日本が誇る走る宝石といっていいトヨタ「2000GT」 自分のことを「ミー」と呼ぶレーシングドライバー、隼人ピーターソンは、登場時にはトヨタ「2000GT」に乗っていました。
2000GTは日本で最初の本格的なスポーツカーともいわれ、1967年から1970年まで生産されました。
当時、トヨタは本格的なスポーツカーを持たず、しかし世界に打って出るにあたって、高性能スポーツカーは必要不可欠という判断がありました。
そこで、ヤマハの協力のもとコスト度外視で開発・製造されたのが2000GTということになります。
当時の販売価格は238万円で、これは当時の大卒初任給平均である3万6200円の65.75倍。2019年の大卒初任給がおよそ21万円であることを考えると、現在の価値で換算して約1300万円ということになります。
一方で、当時の物価を考慮すると、現在の価値ではもっと高額だったという試算もあります。
2000GTは日本国内のレースでは活躍したものの、アメリカでのレースではあまりよい成績を残せなかったとされており、隼人ピーターソンが2000GTを選んだ理由は不明です。
隼人ピーターソン自身は、風吹裕矢も認めるほどの高い運転技術を持ちながらも、レースに勝つためにライバルを蹴落とそうとする行動が見られ、そのため自滅してしまうという反面教師のようなキャラクターでした。
美しいミッドシップカーの「ディーノ」と「ミウラ」●「ディーノ 246GT」(沖田)
コンパクトながらスーパーカーのオーラを放つ「ディーノ 246GT」「ディーノ 246GT」を駆る沖田は、本作品では珍しくお金持ちではない普通の男として描かれます。
彼はスピードを愛し、スピードを出しても法に触れないからという理由で警察官になったという変わった経歴の持ち主です。交通機動隊に配属された後は暴走族を取り締まる側に回りますが、そのドライビングテクニックを買われてレーシングドライバーへの道がひらけ、ディーノ246GTを託されることになります。
ディーノ246GTは1968年から1974年にわたってフェラーリが生産しており、このクルマも当時は現役でした。
エンジンは2.4リッターのV型6気筒で、195馬力を発生。全長4240mm×全幅1652mm×全高1135mmとコンパクトで、ロータス「ヨーロッパ」ほどではないにせよ1080kgと軽量な車体となっていました。
当時はフェラーリといえばV型12気筒エンジンを搭載するのが常でしたが、販売増加のため、フェラーリの創業者、エンツォ・フェラーリの息子であるアルフレード・フェラーリが考案したV型6気筒エンジンを搭載することになりました。
しかし、残念なことにアルフレード・フェラーリは志半ばで病に倒れてしまいます。エンツォ・フェラーリは亡き息子を忍び、このクルマを発売するにあたって息子の愛称「ディーノ」の名を与えています。
世間一般にはフェラーリ「ディーノ」と呼ばれることが多いですが、発売当時は「フェラーリ」の名が与えられずに、単に「ディーノ」と呼ばれます。これは「V型12気筒エンジン搭載車以外はフェラーリと呼ばない」という当時のエンツォ・フェラーリのポリシーがあったからといわれています。
ディーノ 246GTは作品中のみならず現実世界でも高い人気を誇り、オークションでは1億円以上の値をつけることも珍しくありません。
これ以上無いほど美しいデザインのランボルギーニ「ミウラP400S」●ランボルギーニ「ミウラP400S」(飛鳥ミノル)
作品中では風吹裕矢の才能を見抜き、育て、モデルである風吹裕矢の姉と結婚するなど、他の人物とは異なるイメージで描かれていたのが、レーシングドライバーの飛鳥ミノルです。最終的にはF1の出場も果たすことになります。
その飛鳥ミノルの乗るクルマもまた、並みいるスーパーカーとは一線を画すランボルギーニ「ミウラP400S」です。なお、ミウラP400Sは、ミウラの初期モデルである「ミウラP400」のハイパフォーマンス版という位置づけでした。
ボディサイズは全長4360mm×全幅1780mm×全高1080mmとやや大きく、エンジンは370馬力を発揮する3.9リッターV型12気筒DOHCでこれをリアミッドシップに横置きに搭載。
作中では幾度か登場し、そのパフォーマンス、そして飛鳥ミノルのドライビングテクニックによって登場人物を驚かせています。
ミウラの生産は1968年から1971年で、そのうちミウラP400Sの生産はわずか140台(ミウラ全体では765台)です。その希少性から、オークションでは3億円の値をつけることもあるようです。
※ ※ ※
以上、漫画「サーキットの狼」に登場する魅力的なクルマたちでした。
当時は「現役」であったクルマたちもいまや「クラシックモデル」となってしまいましたが、どれも高額で取引されることから、時間が経っても色褪せない魅力を保っているということがわかります。
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