TOKYO2020オリンピック・パラリンピックの開催で……とか、バスドライバーの慢性的な不足から……とか、大量の旅客輸送の必要性が言われ続けていたここ数年。
欧州産の連節バスが各所で活躍してその実績を誇っていたが、それでも使いやすい国産連節バスの登場をみんな待っていた。
【アイデアはよかったが消えていった】日本車 珍技術 珍装備の道程
ということで、ハイ、出ました!! いすゞと日野のチーム・ジェイ・バスから全長18mの路線バス。しかも最新の安全性能はフル装備だし、そもそもハイブリッドだし、と全方向スキなしのパッケージでございますよ。
ということでベストカーの姉妹誌である『バスマガジン』から、最新鋭の国産連接バスのインプレッションを見ていきましょう!!
TEXT:近田茂/PHOTO:伊藤嘉啓(特記を除く)
バスマガジンVol.96
■実は牽引免許不要!! 全長18mの巨体は最新装備満載
公共交通機関のひとつとして、大量旅客輸送の高効率化やドライバー不足対応が求められる中、連節バスは俄然クローズアップされ出している。
約120名もの乗車定員を確保するため、バリアフリーやエコ、環境対策の要件が満たせるうえ、1名のドライバーが多くの乗客を輸送できることから、いま業界を悩ませているドライバー不足の解消にも大きく貢献する。
ご覧のとおりの巨体だ。全長18mというのもさることながら、約120名という定員にも驚かされる
将来的なニーズや東京オリンピックでの需要拡大を睨みつつ、いすゞと日野の両社は欧州や南米の既存車を研究し、連節バスを運行(を計画)する事業社の希望や意見も徹底リサーチ。
その期待に応えるべく約3年前に国産連節バスの開発をスタートさせた。
ベースはエルガ/ブルーリボンである。ボディ前面と後面それぞれをカットした2台の車体を、ドイツ・ヒューブナー製の連節器で繋げる。
車軸も実績のあるZF製を活用。エンジンはガーラ/セレガと同じA09C直6の8.9Lハイブリッドに7AMTをあわせて搭載。
結果として国内で普及している大型路線バスと同じ車幅でドライバーにとって違和感の少ない乗り味を実現した。運行後の整備や部品供給サービスなど、国産ならではのレスポンスよく対応できる優位性も見逃せない。
国産初のハイブリッド式連節バス。前後の専用デザインを始め安全運行とドライバー支援に最先端技術を積極投入するなど、斬新な魅力も大きい。導入事業社のイメージアップに貢献できる価値の大きさは計り知れないものとなるだろう。
運転席はごく普通の路線車タイプ。直径450mmスポークステアリングやインパネも、従来のエルガと変わりない。
ただ、周囲を確認できる左右側方と後車室及び後方確認用の3モニターが標準装備。バックミラーと合わせて安全確認に活用できる。
連接バスの連接部。トレーラーとは異なり前後の切り離しができないため、けん引免許は不要となる
旋回では牽引車と同様、大きな内輪差に注意が必要だが最小回転半径は9.7m。前輪の舵角は内輪で43度と小さめながら、道路幅7mあれば直角カーブも曲がれる。
駆動はRR方式。前後車両が切り離せない構造のため、法的には単車とみなされ牽引免許や同2種は不要だ。
決められた路線を走る限り扱いに困ることはないだろう。ただし車庫入れなどでは、牽引車の運転スキルがあると有利だ。
ただし連節(折れ)角が一定を超えると警告音が鳴るし、後退時は54度で減速停止を含む自動支援制御が働くという連節器の破損を防ぐ機能もあるから安心だ。
■電車のような転がり感も感じられるハイブリッド
さて、インプレッションに移ろう。まずアイドリングは750回転。Dレンジにシフトすると通常は2速発進となり、エンジン回転数は450回転に落ちる。
クリープはなくアクセルを踏むとモーター動力による発進が始まり、直後にエンジンも協調して不足のないトルクを発揮する仕組み。走りは悠然と静かでとてもスムーズだ。
前側の車体から見た後景。スケールの大きさが際立つ!!
試乗は5名乗車だったが約18tの車重に見合う高性能を発揮した。アクセルを戻すと即座に回生発電が働き、クラッチの切られたエンジンはアイドリング状態となる。
慣性重量が大きいだけに、まるで電車の様な転がり感のキープが印象的だ。
減速エネルギーはフルに発電へと転換され、ルーフ上のニッケル水素バッテリーへ充電が行われる。その間のエンジンは750回転をキープ。
減速状態からの再加速では適切なギヤが選択され、エンジン回転も自動シンクロされる。中途半端なスロットル操作で、少々ギクシャク感が発生する事はあったが、ほとんどの場合、巧みな制御でシフトやエンジン稼働具合にも気付かないほど。
停止すればアイドルストップが働き、ブレーキをリリースすると即座に自動再始動する。
発進停止の頻繁な路線バスの運行に相応しいチューニングが徹底され、次の発進に備える充放電管理も絶妙。
国産のバスらしく日本の運用に適切なチューニングが施される。オリンピックなどでの活躍も期待したい
相対的に軽重な回生発電(減速度)を長く活用する設定で、回生具合と協調するフートブレーキ(ディスク式)も扱いやすく、スムーズな停止操作に貢献する。
つまり減速時も優しく快適な乗り心地をキープしやすいわけだ。操舵フィーリングは遊び領域が多く感じられたが、ステアが利き始めるとレスポンスは意外と鋭く思い通りに扱える。
直進安定性も良好。ロックtoロックは4回転と4分の1だった。ただしフル操舵で旋回すると連節角の警報が鳴って注意が促される。
さて標準装備ではないこともあって、今回チェックはできなかったがハイテク満載の中でもプラットホーム正着制御について報告しておきたい。
これはフロントガラス内側にセットされた単眼カメラが、路上に描かれる誘導ペイント(四角い二重点線)を認識すると運転席にグリーンのスタンバイ状態が示され、ドライバーは停留所停車のための操舵&制動操作から開放される。
高さ30cmのプラットホームが設置されていれば、バスのステップとの隙間はわずか45mm(誤差15mm以内)の隙間を開けて停車でき、車椅子利用でもスロープを出す必要は無い隙間だ。
職人技でも叶わない驚きの制御具合を発揮するこういったハイテクは、安全運行や定時制、速達性、自動運転につながる技術として今後への期待値も大きい。
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