一部改良を受けたトヨタのトールワゴン「ルーミー」に渡辺敏史が試乗、軽自動車との違いも含め、販売好調の理由を探る。
便利すぎる5ドア・ハイトワゴン
感染止まぬコロナ禍の中、自分は“主夫化”が止まらない。そのきっかけは昨年春の緊急事態宣言だ。新しい生活様式とやらが提唱され、“日々の買い物は家族の代表1人”でというお願いが報じられるや、家人は僕を生活防衛大臣と名付け、メールで食材や洗剤、チリ紙などのおつかいを命じるようになったわけだ。
要はパシリでも、大臣と呼ばれ続ければ鼻毛くらいの責任感みたいなものは芽生えてくる。オッさんを御するための、オッさんみたいな戦術。それにまんまとハメられて、今では取材の通りがかりにあった直売所で産直品を買って帰るほどの甲斐甲斐しい大臣に成り果ててしまった。ちなみに仕事かばんの中には常にエコバッグがインしている。
Hiromitsu Yasui住処からの徒歩圏には5軒ほどのスーパーがあるが、日々立ち寄るうちに、国産豚コマなら108円、ブロッコリーなら198円、ヨーグルトなら128円……みたく、買いの相場勘まで鍛えられてきた。また、おなじようなものをおなじように売っているようにみえて、各店舗で特価品の出し抜きや抜け駆けなどの駆け引きが日々繰り広げられていることもわかるようになる。
と、ここまで見えてくると買い物が“プレイ化”してきて、ネットチラシを見比べながらどこの何が安いからと買い回りの動線を引くことが苦から喜へと変わってきた。コロナ禍以前なら、もう面倒くさいからそこのコンビニで買えばよくね? と、なっていたのが、高値掴みは生き恥とまで思うようになったわけだから、まぁ変われば変わるもんである。
Hiromitsu Yasuiこの生活変容で、世の主婦の皆様方が、毎日を10円勝負で過ごしていらっしゃることも身をもって知ることが出来た。そうなると、クルマの見え方もちょっと変わってくる。
前置きが長くなったが、ルーミーはトヨタの普通車(業界用語的には登録車)のラインナップにおいては3番目に安いモデルだ。価格は155万6000円からで、これよりさらに安いスタートプライスの2台はヤリスとパッソになる。が、その両モデルはごく普通の5ドア・ハッチバックであるのに対して、ルーミーはリアの両ドアがスライド式のいわゆる5ドア・ハイトワゴンだ。
Hiromitsu Yasui前後のウォークスルーによって狭いところでも乗り降りできる。駐車場に停めても子供がドアを隣のクルマにぶつける心配がない。突然の雨で駅に家族を迎えに行ったら自転車も積んで帰ることが出来るなどなど、ハイトワゴンはその使い勝手を一度味わうとやめられないということで、軽自動車の中では長らくベストセラーとなっている。いってみればルーミーは、ホンダ「N-BOX」や「タント」などハイトワゴンの多機能ぶりを普通車の側に転化したボトムアップものといえなくもない。
だとすれば、軽自動車の方がよほどコスパ高いんじゃないの? と、お思いの方もいるだろう。たとえば同様の立ち位置にある軽自動車のタントと同等装備同士で比べると、ルーミーは15~20万円ほど高い。加えて軽自動車は自動車税や高速料金などのランニングコストも優遇されている。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui軽では得られないルーミーの魅力
ではタントになくてルーミーに備わるものはなにかといえば、軽自動車では法規上無理な5人の乗車定員だったり、パワーやトルクに余裕のある1.0リッターエンジンだったり、長さや幅に余裕のある荷室は自転車2台の積載も可能だったりという、いわばプラスアルファのゆとりだ。
たとえばドアの開閉もままならない駐車スペースの狭小住宅は都市部に少なからずあるわけだが、そこに住む家族の生活一切合切を受け止める容積率いっぱいのハコとして、ルーミーという選択肢はフィットする。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiルーミーのライバルは先日フルモデルチェンジを果たしたスズキの「ソリオ」だ。軽自動車では届かないかゆいところまで手を伸ばした普通車というコンセプト自体はこちらの方が早く、それまで軽一辺倒だったスズキの普通車販売を「スイフト」と共に支えてきた。
ルーミーが当初からソリオをターゲットに、トヨタがダイハツに開発と生産を担わせたのは自明だ。ちなみにルーミーと兄弟車の「タンク」、そしてトヨタの完全子会社であるダイハツで販売される「トール」の3兄弟を合わせた2019年度の販売台数は19万台余。2019年度の年間トップだったカローラシリーズが11万台余と聞けば、世の大勢がいかにここにあるかが透けてみえる。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui「生活が第一」のクルマ
ではなぜ、ダイハツがトールの開発と生産を担当したのか。調達や工場稼働率の理由もあれど、もっとも大きいのは、これほどのコスパを実現するエンジニアリングの術がトヨタにはないからだ。
軽自動車の両雄であるスズキとダイハツは、切磋琢磨のなかで極めてシビアなコスト感覚を身につけてきた。結果、両社は桁が違うとまではいわずとも節約の格が普通車メーカーとは異なっている。ターゲットプライスにクルマを押し込める術はダイハツの方が長けていることをトヨタも理解しているわけだ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui今回試乗したルーミーは、メッキ加飾やエアロパーツで飾ったカスタムではなくベースモデルの側、しかもエンジンはターボではなく自然吸気の1.0リッターと、もっとも中庸かつ量販に適したグレードだった。
最大の売りである室内の広さは相変わらずで、座りさえすれば保てるソーシャルディスタンシングはこのご時世、さらなるセリングポイントとなるだろう。樹脂感満々の内装も雑巾で容赦なくゴシゴシと吹き倒せるなど、クルマに余計な手間を掛けたくない奥様方へのウケは良さそうだ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui走ってみれば音・振動で課題のあったエンジンの躾が幾分丸くなったかなという感はあったが、あとはデビュー当時の印象と大差はない。燃費重視タイヤならではのフィーリングも相まって操舵感はデッドだし、凹凸の乗り越えにもカツンと細かな棘がつきまとう。
大開口を自慢とする高重心ボディは緩さが目立ち、カーブではロールのコントロールも難しそうだ。エンジンのパワーは自然吸気の軽自動車よりはゆとりがあるが、登坂路や高速道路ではカツカツという印象。長距離を走る人にはターボ付きをお勧めしたくなるが、そもそも足腰が弱いこともあって、生活圏プラスアルファくらいの行動範囲に留めておきたくもなる。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiが、そんなクルマ雑誌みたいな能書きはこのクルマの販売の大勢にはまるで影響はないだろう。9月のマイナーチェンジは先進運転支援システムの強化が最大のトピックで、メーカーのリリースをみても走り云々の項目は一切スルーされている。家に収まるサイズの中で目一杯乗れるし積める、壊れず燃費良く動きさえしてくれればいい。そういう生活第一的なクルマの選び方をすれば、自ずとここに行き着くことは圧倒的票数が示している。
文・渡辺敏史 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
だって、車の性能からして選ぶべきはソリオでしょ笑
メーカーというブランドしか見てない人間がいかに多いかという事だよ