ボルボのスポーティグレード「R-デザイン」がマイルドハイブリッドへと進化。デザインだけでなく、その乗り心地や走り、非ドイツ車的なアプローチで実用性とスポーティさを追求する進化ぶりを2台のR-デザインで確認した。
R-デザインもマイルドハイブリッドに
ボルボの各モデルにスポーティグレードとして用意される「R-デザイン」。メルセデスでいうアヴァンギャルド、BMWでいうMスポーツ、アウディでいうSラインに相当する。従来はR-デザイン仕様といえば足回りが固めてある分、乗り心地がややツンツンしているところがあった。だが近年はずいぶんと街乗りの時でもこなれてきて、秋口から日本導入された2021年モデルに至っては、そのこなれっぷりに驚愕させられるレベルになった。しかも、今回試乗したV60 B5 R-デザインは19インチホイールを、XC60 B6 R-デザインに至っては21インチを着用しているにも関わらず、だ。ステーションワゴンはFF、SUVはAWD仕様だった。
とくに前者のR-デザインは、「ZB型」といわれる現行V60シリーズ自体がフェイスリフトしたタイミングで、日本では初めて設定された。ワイド感を強調した前後バンパーや専用デザインのホイール、クロームでなくブラック仕上げのモールやルーフレールなど、R-デザインならではの外観的特徴は多々あるが、専用サスペンションを採用するせいか、車高が低く感じる。荷室の存在は感じさせるが低く構え、リアに向かってスーッと伸びていくようなアピアランスは、ボルボといえばスポーティワゴンという世代には、グッとくるものがある。
内装では、メッシュ状のファブリックとレザーのコンビによるスポーツシート、ほかにもステアリングやシフトノブなど身体に触れる部分にレザーが奢られ、インスクリプションではウッドだったパネルが波目のアルミパネルとなるなど、R-デザインならではのスポーティ・トリムで仕立てられている。XC60 B6 R-デザインについてもインテリアのテーマは同じディティールで、チャコールグレー調のツートンとなるが、やはり着座姿勢と視線の高さははなはだ異なる。ステーションワゴンは足を前方に投げ出す感じだが、SUVの方はアップライト気味で、胸まわりに余裕を感じる空間だ。
ちなみに両者ともオプション設定されるバウアー&ウィルキンスのオーディオがモデルチェンジを果たしている。スピーカー素材が従来のケブラーからコンティニュアス・コーンという素材に変わり、もうひとつ新たに音響セレクト機能に、ボルボの地元イェテボリにある「ネフェルティティ」というジャズ・クラブが加わった。これまでの澄んだ硬質の音から、全域で艶やかさを増し、ジャズモードでは確かに、コンサートホールとは異なる狭いスペースでの生音のような反射や解像度が再現されていた。
だがイヤーモデル2021のR-デザインの肝要なところは、内外装や装備面のみならず、パワートレインにある。V60、XC60ともに48V MHEV化された直4の2リッターをベースとするが、B5がターボ過給のみで250ps/350Nm仕様であるのに対し、B6は電気駆動のスーパーチャージャー&ターボというツイン過給で300ps/420Nmとなる。今年、全ラインナップの電動化を公約通りに達成したボルボだが、それぞれラインナップ上では従来のT5、T6、あるいはディーゼルのD4やD5を代替すると考えていい。
非ドイツ車的アプローチで実用性とスポーティさを追求
試乗は小雨の降り続く箱根だったが、V60の方が車重も少ない分、ゼロ発進から電気モーターのアシストだけで進む感覚が味わえるのはインスクリプションと同様。だがタウンスピードでもっとも驚くべきは、乗り心地が望外にしなやかであること。それでいてワインディングで軽くムチを入れても、低重心ゆえの抑制されたボディの動きに、過敏ではないが十分にクイックなステアリングと相まって、自然にスポーティ側の動的質感に入っていける。レスポンスも伸びも申し分ないB5のパワー&トルク感といい、全域でシームレスでいて躍動感ある走りだった。濡れた路面のコーナー出口でやや駆動が抜ける場面もあったが、狙ったラインより激しく膨らむことはなかった。
トラクションという点ではやはり、AWDであるXC60 B6 R-デザインの方が断然、安定していた。ワゴンより200kg近く重い巨体にも関わらず、明らかにトルクもパワーの伸びも1枚上手だった。電気モーターのアシストは無論、ターボそして電動スーパーチャージャーの過給レスポンスがおそろしく素早く、継ぎ目やロスがなくて気が遠くなるような加速の伸びは、2リッターどころかスモールV8に通じる感触すらある。車高が高い分、コーナーではステーションワゴンよりロール量はある。でも荒れた路面での粘りや、鮮やかな左右切り返しといった操作を繰り返していると、徐々にボディの大きさを忘れさせられる。V60 B5 R-デザインの怖いのはそこで、スケール感は違うが、ドライビング姿勢ごと、まるでホットハッチのように駆り立ててくるところがあるのだ。よってブレーキングの度、1940kgという車重を反芻する必要がある。
乗り心地の快適さまで獲得し、MHEV化によってパワートレインの質をさらに高めたボルボのR-デザインは、現状ではドイツ御三家よりモダンでハジけているところがある。非ドイツ車的なアプローチで実用性とスポーティさを追求し、結果を出し始めている今こそ、旬といえる選択肢だろう。
文・南陽一浩 写真・河野敦樹 編集・iconic
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みんなのコメント
ノーマルのV60に惚れて決めました。
あれよりスポーティーなボルボなら気持ち良さは間違いない。