■スポーツカーの民主化を唱えたポルシェが行き着いた最強のロードカー
スポーツカーブランドが世界のクルマ好きから支持され続けるための鉄則は何か。モデルやブランドが継続していること、いい換えれば絶えず進化し続けていることだ。
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スポーツカーにとってもっとも分かりやすい進化とは数字で目に見えるパフォーマンスだろう。それゆえ、これだけ環境や安全が叫ばれる今となっても世界のスポーツカーブランドは皆、相変わらずスペック競争に明け暮れている。もちろん、環境性や安全性といった社会からの要請にも応じるカタチで。両立してこその一流というわけだ。
そのことは世界でもっとも成功しているスポーツカーブランドのひとつ、ポルシェの過去と今を紐解いてみればよく分かる。
ポルシェはスポーツカーの民主化を唱えて始まったブランドだ。それゆえ専用車台(たとえばミドシップ)を新たに起こさず(もちろん技術的にはそうすることもできたのだが)、VWのRRレイアウトを踏襲して356シリーズを世に問うた。
その発展系というべき「911」シリーズの誕生は1964年であり、以来、その基本コンセプトを大きく変えることなく、そしてRRという特殊性ゆえの進化を絶やすことなく、現代まで連綿と続いてきた。だからこそ911シリーズは世界中のクルマ好きから愛される存在となったのだ。
そんなポルシェがいま、市販する最高スペックのスポーツカーが911の「GT2RS」である。
先代991型をベースに徹底的な軽量化を施し、700psを発揮するという途方も無い最高出力の3.8リッターフラット6ツインターボエンジンをぶち込んだ。
各種電子制御に守られている、とはいうものの、伝統のリアエンジン・リアドライブ、つまりは2駆だ。であるにも関わらず0-100km/h加速はわずかに2.8秒で、4WDスーパーカーも真っ青な数値を誇るから、読んだこっちも青くなる。
もちろん車両本体価格もまた約3700万円と超一流。オプション込み登録乗り出しで軽く4000万円を超えてしまうというシロモノだ。
もっとも性能だけで見れば他のスーパースポーツよりお買い得ということもできるのだが……。
間違いなく史上最強の911ロードカーである。レーシングカーとしても立派に通用するであろうことは、サーキット専用車両である世界200台限定の「911GT2RSクラブスポーツ」や77台限定「935/78」のベースとなったことからも容易に推察できる。
公道を走ることの許された911レーシングカーだといい換えてもいい。果たしてどんな乗り味なのだろうか。バイザッハ・パッケージ仕様に試乗した。
■911GT2RSを味わい尽くすには、プロドライバー並みの技量が必要だ!
筆者の大好物であるクレヨンカラー(スレートグレー)の911GT2RSではあるのだが、その見た目の雰囲気はロードカー離れしたもので、サーキットで見ればまんまレーシングだ。ナンバーが付いていること自体に違和感を覚えてしまう。
超巨大なリアウイングはもとより、恐ろしいくらいに口を開けたフロントグリル、フロントフードなどそこかしこに配されたカーボン製パネル、フェンダーのエラ、センターロックホイール、覗く巨大なブレーキシステム、などなど、公道よりもサーキットが似合うと思わせるディテールには事欠かない。
軽いドアを開けるとさらに驚く。黒に赤のインテリアカラーやフルバケットシート、カーボンパッケージもこの手のモデルには当たり前だとして、911の見慣れたリア席が取り払われ、代わりにロールゲージが入っていたからだ。
内側のドアノブは“RS”の伝統に則って“ヒモ”だけ。専用チューニングの施された8速DCTを組みあわせているが、シフトベースにまで赤いダブルラインが入っていた。
2ペダルなのでGT2RSを動かすこと自体、誰にでもできる。AT免許でも難なくドライブできるだろう。それにたとえアクセルを踏みこんだとしても、いきなり無責任に700ps&750Nmがドライバーに託されるわけじゃない。最新モデルの常で、巧妙に電子制御されているから安心して踏んでいい。
流している限り、ちょっとハードな乗り心地の911でしかない。もちろん室内のレーシーな雰囲気と、ミラーにちらちら映る巨大なリアウイングや目線の先にあるフェンダーのエラなどで気分は否応にも盛り上がってくるのだが、これなら毎日のアシとしても使えるじゃないかと思い始めていた。
モンスターを柴犬あたりと勘違いしはじめたそのとき、右アシに力を込めてけしかけてみた。内に眠るモンスター=公道を走るレーシングカーが突如として目を覚まし、その鋭利な牙をむく。
フツウの911をドライブしているような気分でアクセルペダルを踏みしめた瞬間、あたりの空気がバチーンと音をたてて反応した。一瞬にしてボディに力が漲ったかと思うと、強固な紙細工が弾かれたかのように加速した。そのあまりの鋭利さに、思わず右アシを緩めてしまう。
けれども、よく躾けられたシャシ制御と空力デバイスの賜物というべきであろう、飛んでしまいそうな力強さとはウラハラに腰下がとても安定していたため、もういちど自信をもって踏み込んでいけた。
念のためにいっておくと、GT2RSはやはりモンスターで、公道でその性能、加速のみならず減速も! を解き放っていいシロモノでは絶対にない。
それゆえ高速道路でその中間加速の凄まじさや高速クルーズのスタビリティの高さをひととおり経験したのち、もうそれ以上、加減速を試さずにクルージングした。
●確かめることを諦めてしまうほどのパフォーマンスとは?
そうなのだ。これほどまでの驚くべきハイパフォーマンスは、どれほどのクルマ運転好きがオーナーであっても、その性能を何度も確かめることをかえって“諦めさせる”に十分なのだと思う。
とりあえず一度は試してみるだろう。そうでないと当代最強のマシンを買った意味などない。けれども公道で何度も試したいと思わせない。
自分の力を十分に知った者に残された道は、もはや追い越し車線ではなく、周りを“余裕”で見送る走行車線だった、というわけだ。もしくは、サーキットなどクローズドの場所であろう。
超弩級スペックのハイパーカーたちもまた“そういうこと”を狙っているのだと思う。そしてGT2RSとクラブパッケージの関係のように、本当のパフォーマンスを自身の手で解放したいと望む運転愛好家たちは、トラック専用に整えられた特別なマシン、もしくはいっそレーシングカーを手に入れて、潔くサーキットへ行かなければならない。そんな時代がやってきた。
異次元過ぎる高性能で公道での勝負をもはや意味のない行為であると分からしめ、性能の解放という誘惑でサーキットへ導くこと。それが超弩級のスペックを誇る最新ハイパーカーの“隠れた”役目なのかもしれない。
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