EV普及とバッテリー二次利用は同時に考えるべき
世界的な環境問題の解決策として、EV(電気自動車)の普及が重要視される一方、課題となっているのが「中古バッテリー」の処理だ。EVが増えるほど、廃車などにより出る使用済みバッテリーの数も膨大となり、どう処理するかが問題になる。この対応策としては現在、様々な方法で「二次利用する」ことが検討されている。自動車メーカーの代表的な事例などから、二次利用の重要性や動向を紹介する。
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EVの普及は待ったなし!
昨今の異常気象による災害は、日本だけで起きているわけではない。たとえば米国ではカリフォルニアで、平均気温が例年より高く雨が降らないことから大規模な山火事が起きている。
欧州では、パリなどでこの夏気温が40℃に達した。ヨーロッパ各国は、北海道より緯度が北へ高く、それでいながら40℃に達する最高気温となるのは尋常ではない。この夏にドイツから帰国した知人は、「エアコンディショナーの整備されていない欧州に居るより、日本に居たほうがましだ」と言った。
気候変動が着実に進行するなかで、それを抑制できるのは、クルマも発電も、あらゆるエネルギー源を排ガスゼロにするしかない。クルマでは、HV(ハイブリッド車)もPHV(プラグインハイブリッド車)も通り越して、EVを早急に普及させなければ、大規模な被害が出る激甚災害は毎年のように世界各地で発生することになるだろう。
同時に、EVが普及すればするほど、EVで使用したあとのリチウムイオンバッテリーの処理を考えなくてはならない。トヨタは、プリウスなどHVで使ったニッケル水素バッテリーを、日産やドイツのアウディは、EVで使ったリチウムイオンバッテリーを、二次利用する実証実験や販売をはじめている。
店舗などのバックアップ電源として利用
たとえば日産リーフで使用済みとなったリチウムイオンバッテリーは、電池としてまだ70%ほどの容量を残している。これを定置型といって、店舗や地域のバックアップ電源に利用すれば、能力を使い果たすことができる。
クルマで使う場合は、急加速することがあったり、発進時に1.5~2トンという重さの車体を動かさなければならなかったりすることから大容量のバッテリーが不可欠だ。だが、定置型として使う場合は、ある一定の電力を長い時間出し続けられればよく、急激に大電力を使わないため、中古バッテリーでも十分に役目を果たせるのである。
これに着目した日産は、厚木のテクニカルセンターなどでの検証後に、2019年9月末より、神奈川県内のセブンイレブン10店舗にリーフの中古バッテリーを活用した定置型蓄電池を設置し、実証実験を行っている。
日産は、2010年のリーフ発売前にフォーアールエナジー社を設立し、当時からEVで使用後のバッテリーの二次利用を検討してきた。そして昨年、福島県浪江町に中古バッテリーの二次利用を行うための工場を設立し、中古バッテリーのグレード分けを行いながら本格的な事業を開始したのである。
1台のEVで使われたリチウムイオンバッテリーのセルを短時間でグレード分けする技術の構築に、10年近い歳月がかかった。つまり、二次利用の事業も一朝一夕にはいかないのである。
発電の余剰分を蓄えるシステムに利用
トヨタでも、プリウスなどHV用の使用済みニッケル水素電池を活用した定置型蓄電システムを開発し、2013年から全国のトヨタ車両販売店向けに販売を開始している。
また、2018年には中部電力と共同で、電力の供給余剰分を蓄え需給調整に使う大容量蓄電池システムの構築などの実証実験を実施している。
HV用バッテリーは容量よりも、車両を走らせるための瞬発力に特性を特化しているため、定置型として二次利用するならEV用のリチウムイオンバッテリーが本来は適している。また、将来的なEVの増大を考えると、リチウムイオンバッテリーの二次利用は不可欠だといえる。
そのため、トヨタと中部電力では、開発中の蓄電池システムに中古リチウムイオンバッテリーの活用も予定していることを発表している。
海外では、アウディが、初の量産EV「e-tron」の開発車両で使用済みとなったリチウムイオンバッテリーを、定置型蓄電池として二次利用する取り組みを行っている。
ベルリンの再開発地区「EUREF-Campus」において、風力や太陽光で発電した電力のうち、余剰電力を蓄えるユニットにe-tronの中古バッテリーを活用、2019年5月から運用を開始している。
バッテリーパックの二次利用を前提にした空冷式
バッテリーの二次利用のしやすさで考えると、車載するバッテリーパックは構造が簡素な「空冷」が望ましい。ドイツ車に多く見られる「液体冷却」にすると、バッテリーパックからセルごとに分解するのに手間がかかるためだ。
その意味で、リーフのバッテリーパックを空冷とした日産が世界最先端だといえる。EV発売前にフォーアールエナジー社を創立した意味がそこからうかがえる。
クルマの性能第一でバッテリーパックを液冷却している自動車メーカーは、まだ中古バッテリーの二次利用の意味を理解できていないのである。
EVが普及すれば環境問題が解決するわけではなく、その後に必ず出る「中古バッテリー」をどう使い尽くすかも極めて重要だ。そこまで視野に入れた電動車両の開発をしてこそ、はじめて環境保全に寄与する「EV普及」の意味が深まるのである。
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