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ル・マン24時間 健闘の裏に、ブレンボ製ブレーキの活躍

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ル・マン24時間 健闘の裏に、ブレンボ製ブレーキの活躍

もくじ

ー 信頼性が命のブレーキ
ー ブレーキの温度管理がカギ
ー 熱すぎも冷えすぎも問題
ー 空気を当てて冷却
ー LMP1は無交換 GTEは交換

トヨタ、ル・マン24時間レース優勝 豊田章男社長コメント

信頼性が命のブレーキ

意外かもしれないが、ル・マン24時間は一日中最高速で走るレースではない。3時間15分ほどは可能な限り早く止まるレースなのだ。

ブレンボが関係するのはこの3時間15分(GTEクラスのクルマの場合は4時間)である。AUTOCAR読者には釈迦に説法であるが、ル・マンにエントリーする大多数のクルマにブレーキを供給しているイタリアの企業だ。1961年にベルガモに創業して以来、ブレンボは高性能ブレーキを専門に開発し、非常に多くのモータースポーツにブレーキを供給している。一般の自動車メーカーへの供給も増えている。

例えばル・マンでは、30台のLMPプロトタイプのうち27台、30台のGTEレーサーのうち25台がブレンボのディスク、パッド、キャリパーを組み合わせて使用している。総合優勝したトヨタTS050ハイブリッド、GTEプロクラスで優勝したポルシェ911 RSRもブレンボ・ユーザーだ。これらのチームはレースに先立ってブレーキ・パーツをブレンボから直接、あるいは専門の問屋を通して提供を受ける。

モータースポーツにおいてはブレーキは特に信頼性の点で成功の重要な要素である。ブレーキ・システムの高性能化は、ブレーキペダルを4000回以上も踏むル・マンのような耐久レースでは重要な課題だ。ブレンボにとってさらに厄介なのは、プロトタイプとGT部門ではブレーキが全く違うことだ。

ブレーキの温度管理がカギ

プロトタイプではカーボンファイバーのブレーキディスクとパッドを使う。ブレーキキャリパーはフロントが6ピストン、リアが4ピストンだ。一方、ロードカーベースのGTEクラスでは、コストの理由でカーボンファイバーは使えないので、鋳鉄製のディスクがセラミック製のパッドとともに使われる。GTEのクルマは通常フロント6ピストン、リア4ピストンのキャリバーを装着しているが、クルマのデザインによっては異なる場合もある。

カーボンブレーキはより効率が高い。例えばル・マンの最初のミュルサンヌ・シケインに入るとき、LMP1のクルマでは約3.2秒、距離にして200mのブレーキングを行い、およそ320km/hから97km/hまで減速する。GTEカーでは5.7秒、距離にして300m少しである。

カーボンブレーキは軽いのも特長だ。LMP1のディスクは2.7kgだが、GTEのディスクは11kgある。LMP1のパッドが300gなのに対してGTEでは1kgだ。四輪となると25kgほどの差になる。

両方のブレーキにとって大きな課題は、これを動作範囲に保つことである。競技用のブレーキは英国の朝がゆのようなものだ。温度が重要なのである。

「長いストレートでブレーキが使われないときにもブレーキを十分高温に保つことが必要なのです。でも熱くなりすぎてもだめです。冷却の管理がすべてです」と技術者のブランドン・ミラーは言う。動作温度範囲は鋳鉄ディスクで300-750℃、カーボンディスクで350-800℃である。

熱すぎも冷えすぎも問題

「もし鋳鉄ディスクがストレートで冷えすぎた場合、急にブレーキを踏んで熱負荷を与えるとサーモショックを引き起こし、表面にひびが入る恐れがあります」とミラーは言う。「カーボンブレーキではサーモショックは起こりませんが、冷えている場合は急に熱が入って摩擦がずっと大きくなってしまい、結果としてずっと早く摩耗してしまいます」

ブレーキが熱すぎても摩耗は早まる。カーボンブレーキの場合は酸化する、文字通り内側から燃えてしまうのだ。フォーミュラ1やLMP1のクルマがハードブレーキングをしたとき、時としてブレーキダストが流れ出るのはこれが理由である。

重要なのは、ブレーキにあたる冷たい空気の量を適切に調節することだ。すべてのクルマには冷却ダクトが備わっており、ブレンボはチームと協力して空気がブレーキにしっかりと届くよう、放熱器のついたキャリパーの開発を行っている。

ブレンボはル・マンに5人の技術者を派遣し、セットアップ、摩耗、冷却などのアドバイスを行った。ほとんどの作業は実際には早く終わっている。「われわれにとって良い週末とは、レース中は誰もわれわれに話があると言ってこないことです」とミラーは冗談を言う。

空気を当てて冷却

24時間レースの間は周辺温度は大きく変化する。従って、チームは必要に応じて冷却ダクトにふたをする。これにはふつう粘着テープを使う。このテープは正確に15mm幅に切断されている。1本のテープによってブレーキに届く冷却空気がどの程度変化するのか、予めデータが取ってある。このため、レース中各チームは必要に応じてテープを張ったり剥がしたりすることができる。

ブレーキディスクは届く冷却空気を最大限利用するように設計されている。LMP1では冷却空気を直接ディスク表面に吹き付けることが許されている。ブレンボのLMP1用ディスクでは430個の孔が開いている(LMP2用のディスクでは孔の数は48個、F1用のディスクでは1400個だ)。冷却空気がディスク全体にまんべんなく行きわたるようにするためである。

GTEでは空気を吹き付けることは許されていないので、ディスクだけで処理しなければならない。そのため空気を吸い込むより大きな孔が72個開いている。

温度はパッド(LMP1ではカーボン、GTEではセラミックベースの複合素材)にとっても重要であり、200-210℃に保つ必要がある。これより高いとゴム製のピストンシールが溶けてしまうし、ブレーキオイルが沸騰する。ブレンボは沸点が330℃の特殊なブレーキオイルを使うが、吸水性が非常に高く、水が混じると沸点が大きく下がってしまう。

LMP1は無交換 GTEは交換

トヨタTS050ハイブリッドのようなハイブリッド車では別の問題も加わる。ブレンボのLMP1とF1の技術者であるジャンルカ・ゾンカはこう言う。「普通のクルマと違ってハイブリッドは(減速時に)エネルギーを回収するので、ブレーキング・レベルも頻繁に変化します。ですから、これを考慮したシステムが必要です」ブレーキはハイブリッドが故障した時にも動作しなければならないが、ゾンカは10ラップくらいしか持たないという。なぜなら「ハイブリッドが故障すれば、そんなにラップを続けたりしないでしょう?」

LMP1のブレーキはレースの初めから終わりまで無交換だ。32mm厚のディスクは4mm程度しか減らないが、26mm厚のパッドはおよそ16mmも摩耗する。ゾンカがブレンボでル・マンに参加するのは今月初めのレースで19回目だが、LMP1のクルマがブレーキ交換なしで完走した最初のル・マンを思い出す。1999年のことだ。「この10年で大きな進歩がありました」と彼は言う。

GTEのチームはブレーキ交換をする必要はないが(無交換が初めて実現したのは2016年である)、ほとんどのチームが今でも半分くらい走ったところでブレーキ交換する。多くは戦術的な理由である。鋳鉄製のディスクは24時間走った後でも1mmくらいしか減っていない。パッドのほうが問題で、29mmあったものが10mmくらいにまで摩耗する。トップレベルのチームはブレーキシステム全体を30秒ほどで交換できるので、ドライバー交代のときに行えば時間を無駄にしないのだ。

「ドライバーやチームによっては、レースの後半を新しいブレーキで戦いたいのです」とゾンカは言う。「GTEではしばしば接戦になるので、その場合に備えておきたいですよ」

なんといっても、可能な限り早く止まるというブレーキの能力に自信を持てれば、ドライバーは自分の仕事を遂行することができる。可能な限り早く走るという仕事だ。

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