1962年に生産が始まったコブラ Mk2最後の1台
純白のACコブラ Mk2 347シリーズで、曇天の中を出発する。ロンドンから南西に40kmほど離れた、ブルックランズ・ミュージアムの敷地にある、短いストレートを飛ばしてみる。パワフルさに、冴えない天気はどうでも良くなった。
【画像】60年前とほぼ同じ! ACコブラ Mk2 347 復刻されるコブラたち 源流のエースも 全120枚
1976年のハリウッド映画、「ガムボールラリー(激走!5000キロ)」では、コブラ 427がカリフォルニア目指して疾走した。今日の路面は濡れているが、自然とそんなワンシーンが浮かぶ。
ACカーズは、21世紀にしっかり復調を果たそうとしている。数週間前、新モデルとなるコブラ GTロードスターの試作車を、AUTOCARではご紹介させていただいた。
かたや、筆者が運転しているのは、1962年2月に生産が始まったコブラMk2最後の1台。もちろん2024年の生産ラインは、60年前と同一ではない。英国の車両認証制度へ準拠もしている。
エンジンは、フォード由来の特別なV8ユニットで、最高出力は405ps。排気量は347cu.inだが、わかりやすい単位に換算すると、5686ccだ。設計の起源は、289cu.inのスモールブロックにある。
エンジンブロックはスチール製で、ヘッドはアルミニウム製。アメリカ・ノースカロライナ州のプレステージ・パフォーマンス社によって、ACカーズの希望通りにチューニングされている。キャブレターではなく、ホーリー社製の燃料インジェクションが載る。
トランスミッションは、トレメック社製の5速マニュアル。クワイフ社製のリミテッドスリップ・デフを介して、後輪へパワーは伝わる。
チューブラーフレームにリーフスプリング
ボディはアルミではなく複合素材だが、それ以外、基本的にコブラ Mk2は1960年代と変わらない。広がったフェンダーアーチで加勢されたMk3より、筆者は好きだ。ACエースの見た目へ近いから。
シャシーは、直径3インチ(約76mm)のスチール製パイプを組んだチューブラーフレーム。15インチのワイヤーホイールも、往年と同じサイズを履く。サスペンションは、前後ともリーフスプリング。この足まわりは、405馬力には心もとない。
助手席側には、トノカバーがかけられている。グレートブリテン島だから、いつ雨が降り出しても不思議ではない。レザー仕立てのバケットシートは低い。ダッシュボードにはメーターが7枚。ヒーターやワイパーなどのスイッチが、正面にある。
ステアリングホイールは、クラシックな3スポーク。1960年代と同じサイズで大径だが、それで高速域での安定性を保っている。パワーアシストがないから、駐車時には腕の負担も軽減してくれる。
歴史を遡ると、オートクラフト社が1980年代後半にACカーズ・ブランドの権利を取得。1990年代後半まで、工場はブルックランズ・ミュージアムのそばに存在していた。
同社は、コブラMk4の製造を継続しつつ、エースのリバイバルを模索する。しかし予算が尽き、50台を提供したところで倒産してしまう。
それより遥か以前、1922年には、ACカーズのモデルが今はなきブルックランズ・サーキットを160km/h以上で走行。1500cc以下で初となる記録を残している。
ACエースのフロントに収まったスモールブロック
信号待ちで目を閉じると、気分はグッドウッド・リバイバルのスターティンググリッド。両サイド出しの太いマフラーから、排気音が直接響く。アイドリングでもやる気に満ちている。
クラッチは適度に重い。シフトレバーは、理想より少し奥。トルクは太いから、トップギアに入れたまま、1000rpmで50km/hの走行も問題ない。
筆者が目指すのは、グレートブリテン島南部のサリー州テムズ・ディットン。ACカーズは、ここに1911年から拠点を構えていた。1930年に、ウィリアムとチャールズというハーロック兄弟が買収。エースという名のスポーツカーは、1953年に発売された。
1961年、キャロル・シェルビー氏がエースの能力に感銘を受け、ハーロック兄弟へ連絡。その時、フォードで働いていたシェルビーは、シボレー・コルベットで生まれた需要の一部を奪う任務を負っており、軽いV8エンジンを開発していた。
このスモールブロックは、少し手を加えれば、直列6気筒が載るエースのフロントへ搭載できた。既に登場から8年が過ぎていたエースは、V8エンジンを得てコブラとしてアップデートを果たした。
1962年2月から、ACコブラはテムズ・ディットンの工場をラインオフ。最初の注文ぶんとして、100台がカリフォルニア州サンタフェ・スプリングスにディーン・ムーン氏が構えるガレージへ届けられた。
通常以上の集中力が必要 見返りも大きい
そこでは、新しい260cu.inエンジンが次々に搭載される予定だった。ところが、126台が仕上がったところで、ラック&ピニオン式のステアリングラックと289cu.inエンジンへ更新された、コブラ Mk2へ進化。1965年までに、約530台が作られている。
更にパワフルなMk3も追って登場するが、細身のボディとタイヤで構成されるMk2は、本来のACカーズらしい雰囲気を漂わせる。控えめな美しさがあり、英国の道路環境にも適している。
次に目指したのは、グレートブリテン島の南岸、ウェスト・サセックス州のグッドウッド・モーターサーキット。路面が濡れているから、カーブが連続する区間で飛ばすには、通常以上の集中力が求められる。相応の勇気も。
そのかわり、見返りも大きい。カーブでは、リーフスプリングが支えるリジットアクスルを刺激しないよう、繊細なアクセル操作が必要。だが、ストレートではアメリカンV8特有の、ビートの効いたサウンドを堪能できる。
8本のシリンダーが一心不乱に働く燃焼音が、メカニカルノイズに重なる。4500rpmを超えると、アグレッシブさとドラマチックさが増していく。スピード感は、実際以上だ。
コブラ Mk2の0-100km/h加速は5.0秒と、本当に速い。それを本当に試すと、かなりスリリングな体験になる。
他に例のない要求の高さがむしろ楽しい
写真撮影のため、グッドウッド郊外を穏やかに流すが、V8エンジンのボリュームはそこまで小さくならない。上品な町並みとは相容れないように感じて、少し気が引けていた。ところが駐車場へ停めると、老若男女が笑顔で近寄ってくる。スマホを片手に。
あからさまに古い見た目なのに、新しい「74」ナンバープレートを付けている理由を1人から尋ねられる。さすが、クラシックカーイベントの盛んな場所だ。
そして、この辺りまで来ると一般道は空いている。既に1時間以上運転しているから、コブラ Mk2の扱いにも充分慣れた。
ステアリングには、路面からのキックバックが伝わってくる。同時に、ウッドリムには沢山のフィードバックも伝わる。比較的高めの速度域に、ロングなギア比は丁度いい。
チューブラーシャシーは、路面変化による影響を隠さない。カーブの途中にある、不意の隆起やマンホールへの注意は欠かせない。確かに少しリスキーではあるが、ワイルドなコブラを運転するという、他に例のない要求の高さがむしろ楽しい。
このまま、グッドウッド・モーターサーキットを周回したいところだが、今日は許されていない。ウェスト・サセックス州ボグナーレジスにある、ACカーズのハイテクな工場へお返しする約束がある。
最新のコブラ GTロードスターも、この工場で作られている。それが誕生できたのは、筆者が運転しているMk2があってこそだ。
ACコブラ Mk2 347シリーズ(英国仕様)のスペック
英国価格:18万5000ポンド(約3607万円)
全長:3848mm
全幅:1546mm
全高:1245mm
最高速度:241km/h
0-97km/h加速:5.0秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1200kg
パワートレイン:V型8気筒5686cc 自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:405ps/5800rpm
最大トルク:48.3kg-m/5800rpm
ギアボックス:5速マニュアル(後輪駆動)
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