世界的にもっとも売れているジャンルへと成長したSUV。中でも大型SUVを選ぶにあたって、気になる点はその動力性能やドライバビリティだろう。ここでは48Vマイルドハイブリッドの新しいパワーユニットが搭載されたボルボ XC90に注目し、ディーゼルターボを搭載した3代目新型メルセデス・ベンツGLS、自然吸気V6ガソリンエンジンのキャデラックXT6を加えた3台の3列SUVを揃えて行われたテストレポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2020年8月号より)
新しいパワーユニットが搭載されたボルボXC90に注目
2020年に入ってから3列シートを備えた大型SUVがさまざまな動きを見せている。まずはキャデラック。フルサイズのエスカレードと、ミッドサイズとなるXT5の間を埋めるXT6をリリース。1月1日に国内販売を開始した。続いて3月にはメルセデス・ベンツが新型GLSを発売。さらに翌4月にはフェイスリフトを受けて間もないボルボXC90に新しいパワーユニットが搭載された。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
全長が5m規模の大型SUVは、当然のことながら車重も2トンオーバーのヘビー級となる。それをいかにクリーンに効率良く走らせるかが今の時代には問われる。したがって前記した3台のパワートレーンも非常にバラエティに富んだ内容となっているのが特徴だ。
まずボディサイズがもっとも大きいGLSから見ていこう。その前身となった初代GLクラスが登場したのが2006年。メルセデス・ベンツが作るSUVの頂点に位置するクルマとして開発された。
2012年に2代目にバトンを渡したが、2016年のマイナーチェンジを機に車名をGLSへと変更した。そして2020年3月から導入が始まったのが、通算3代目となる新型である。
多くの高級ブランドが参入したことでFセグメントのSUVはもはや珍しくないが、今回同時に試したXT6やXC90などのモデルと比べると、やはり小山のように大きく感じる。ただ、ノーズやテールエンドに曲線が多用されて、全体の面構成がシンプルな近年のメルセデス・デザインのお陰で、歴代の中ではもっとも重々しさや威圧感が少なく感じた。
12.3インチの液晶パネルをメーターとセンターディスプレイに2枚繋げた未来感満点なインパネは、先んじて登場したGLEと強い共通性を感じる。「ハイ!メルセデス」で起動し、各種操作をボイスコマンドで行うインフォテインメントシステムMBUXやADAS系の充実ぶりも、さすがメルセデスの最新作と言えるものである。
メルセデス・ベンツ最新の旗艦SUVとなる3代目GLS
今回試したのはGLS 400d 4マティック。330ps/700Nmの3L直列6気筒ディーゼルターボを搭載する。ほかに489ps/700NmのガソリンV8ツインターボに48Vのマイルドハイブリッド機構を組み合わせたGLS580 4マティックスポーツもある。
OM656と呼ばれるこの直6ディーゼルは、4気筒/6気筒、ガソリン/ディーゼルの垣根を越えて部品を共用するモジュラー化戦略によって作られた最新ユニットで、近年搭載車種を増やしている。2ステージターボの採用により1200rpmという低回転域から最大トルクが得られ、しかも抜群にスムーズで静かと極めて評判が良い。
それはGLSでもまったく変わることはなかった。このエンジン、とにかくディーゼルっぽくないのだ。エンジンをかけた状態で車外に出てみても、カラカラというノック音などはまったく聞こえない。乗り込んでドアを閉めるとアイドリング音すら意識させないほど静かだ。
700Nmのトルクに期待をかけてアクセルペダルを踏み込んでみる。車重が比較的軽いSクラスなどではモリモリっと来るワイルドな加速が味わえたが、車重が2540kgのGLSではそこまでの力強さはない。だからと言って遅いわけではない。強力なトルクと制御が巧みな9Gトロニックとのコンビネーションで、粛々と速度を乗せていく、そんなイメージだ。
加えて回転フィールが滑らかなのも大きな魅力。ディーゼルゆえリミットは4500rpmと高くないが、等間隔爆発による完全バランスエンジンという直列6気筒の長所を生かして、振動が少ない、極めてスムーズな味わいを生んでいる。高圧縮比のディーゼルとしては意外なほどの、サラサラと軽やかな回転フィールである。
足まわりはエアスプリングと電子制御ダンパーを組み合わせたエアマティックサスペンション。AMGラインに組み込まれている21インチタイヤのせいか、ギャップを通過した後に残る若干の余韻や、荒れた路面での当たりの強さを感じることもあったものの、乗り心地も概ねしなやかだった。
今後ボルボの標準となる最新MHEV「XC90 B5」
一方、ボルボXC90にこの春に追加されたのは、B5と呼ばれる新パワーユニットだ。これは48Vシステムを活用したマイルドハイブリッド。2019年以降に発表するすべての新型車を電動化するという宣言に沿って開発された。
クランクシャフトにボルボがISGM(インテグレーテッド スターター ジェネレーター モジュール)と呼ぶスタータージェネレーターを繋ぎ、モーターアシストで燃費を向上させたり、スムーズなエンジン再始動を実現したり、回生を含める発電効率を上げるというのが、最近ドイツ車でも数を増やしているマイルドハイブリッドの狙い。もちろんB5も考え方は同じだが、環境性能の向上に熱心なボルボの作品だけにより数多くのアイディアが盛り込まれている。
まず気筒休止システムのCDA(シリンダー ディ アクチベーション)を採用したのがユニーク。ブレーキシステムもPHEVと同じくバイワイヤ式に改めて回生効率を高めている。電源の48V化とCDAの搭載に伴いジェネレーション3と呼ばれる2L直4のDrive‐Eユニットは内部構造をはじめターボや排気系など多岐にわたる改良が行われた。ちなみにB5のエンジン単体出力は250ps/350Nm。これに10kW(14ps弱)/40NmのISGM出力が部分的に加わるわけだ。
このB5の登場により、これまであったピュアエンジンモデルのT6は近くラインアップからなくなり、XC90のパワーユニットはディーゼルのD5、プラグインハイブリッドのT8ツインエンジンとの3機種になる。
そのB5のドライブフィールだが、駆動をメインで司るのはエンジンで、ISGMはあくまでアシスト。したがってそのドライブフィールはT5によく似ている。ただ、注意していると1000~2500rpmあたりのトルクが増強されているとわかる。これこそモーターのアシスト。出足から力強いため、2120kgの車重でも滑らかな走り出しが味わえる。
停止すると即座にアイドリングストップするが、通常のアイドルストップがブレーキペダルから足を離すと即座に再始動してしばらくはアイドリング状態になるのに対し、B5はブレーキペダルを踏み直せば何度でもストップ状態に入る。WLTCモード燃費は10.9km/Lだが、今回の試乗では11.4km/Lを記録した。
キャデラックの最新モードが注ぎ込まれた「XT6」
そして最後がキャデラックのXT6。メルセデス・ベンツでたとえるならGLEと似たサイズ感やサードシートを有するEセグメントに相当し、スタイリングやインテリアにもキャデラックの最新モードが注ぎ込まれている。
このクルマに搭載されるエンジンは、XT5と同じ314ps/368Nmというスペックの自然吸気3.6L V型6気筒。ダウンサイズに走るのではなく、気筒休止システムや9速AT、手軽に2WD/4WDが選べるインテリジェントAWDシステムなどで効率を上げようという目論見だ。
そしてこのエンジンの回転フィールがなかなか良い。吹け上がりはけっこう鋭いし、回転が上がるにつれ活発になる特性や、金属音を増していくエキゾースト音も、ターボエンジンに慣らされた身にとっては新鮮だった。駆動がFWDとなるツーリングモードでややラフなアクセルワークを行うと、フロントタイヤが一瞬暴れるほどの元気の良さも備えていた。
もちろんそんな走りを続けていると、最新のディーゼルや電動化で効率を高めたハイブリッドには燃費面で及ばないだろうが、100km/h巡航では1500rpmでユルユルと回っているから、高速燃費はそれなりに伸びると思う。ただひとつ、XT6で残念なのが左ハンドルしか選べないこと。これを除けば全体の質感といい、コストバリューといい、欧州勢のSUVに十分対抗しうる実力を備えていると思う。
それにしても今回の3台、パワートレーンの違いが明確で、それぞれが独自の持ち味を備えており、乗り比べが実に楽しかった。(文:石川芳雄/写真:永元秀和)
ボルボ XC90 B5 AWD ノルディックエディション 主要諸元
●全長×全幅×全高:4950×1960×1775mm
●ホイールベース:2985mm
●車両重量:2120kg
●エンジン:直4DOHCターボ+モーター
●排気量:1968cc
●最高出力:184kW(250ps)/5400-5700rpm
●最大トルク:350Nm/1800-4800rpm
●モーター最高出力:10kW/3000rpm
●モーター最大トルク:40Nm/2250rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミム・71L
●WLTCモード燃費:10.9km/L
●タイヤサイズ:275/45R20
●車両価格:879万円(2020年当時)
メルセデス・ベンツ GLS 400d 4マティック 主要諸元
●全長×全幅×全高:5210×1955×1825mm
●ホイールベース:3135mm
●車両重量:2540kg
●エンジン:直6DOHCディーゼルターボ
●排気量:2924cc
●最高出力:243kW(330ps)/3600-4200rpm
●最大トルク:700Nm/1200-3200rpm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:軽油・90L
●WLTCモード燃費:10.9km/L
●タイヤサイズ:275/50R20
●車両価格:1263万円(2020年当時)
キャデラック XT6 プラチナム 主要諸元
●全長×全幅×全高:5060×1960×1775mm
●ホイールベース:2860mm
●車両重量:2110kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3649cc
●最高出力:231kW(314ps)/6700rpm
●最大トルク:368Nm/5000rpm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミム・83L
●WLTCモード燃費:-
●タイヤサイズ:235/55R20
●車両価格:870万円(2020年当時)
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