抜群のオリジナル性が認められたフェラーリF50
先ごろRMサザビーズ北米本社は、新旧の自動車/オートバイにくわえて、オートモビリア(自動車趣味グッズ)に時計、そしてナイキのスニーカーに至るまで、あらゆるジャンルのモノを収集してきた、さるコレクターの愛蔵アイテムを集めた「The Dare to Dream Collection(デア・トゥ・ドリーム・コレクション)」オークションを、カナダ・トロントにて開催しました。その約300点にも及んだ出品アイテムのなかには、フェラーリ製「スペチアーレ」のなかでももっともピュアといわれる「F50」が含まれていました。今回はそのモデル解説と、注目のオークション結果についてお伝えします。
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フェラーリ・スペチアーレ“ビッグファイブ”のなかでも、もっともピュア?
フェラーリF50は、1950年代様式の美学と、レースのためのパフォーマンスを期したテクノロジーを融合させた、マラネッロ史上もっとも表現力豊かなネオクラシック・ハイパーカーのひとつであると広く考えられている。
ピニンファリーナは、軽量・高剛性のカーボンファイバー製モノコックタブをはじめ、カーボンファイバーやケブラー、ノーメックスハニカムなどで成形された、グラマラスなコーチワークを架装した。ルーフは付属のケースに収納される取り外し可能なハードトップとされ、古き良きレーシングスポーツを思わせる「バルケッタ」または「ベルリネッタ」の双方で楽しむことができた。
ボディとシャシーのみごとな「マリアージュ」に搭載された4.7LのV型12気筒「ティーポF130B」自然吸気エンジンは、ノジュラー鋳鉄という非常に珍しいスチール製のブロックを持つのが特徴。このエンジンは、1992年のフェラーリF1マシン「F92A」に搭載されたのを皮切りに、北米IMSA選手権用のスポーツカー「333SP」の4.0Lとしてさらなる進化を遂げ、IMSA のみならずFIAスポーツカーレースでも数々のドライバーズ&コンストラクターズチャンピオンを獲得した。
そしてF50では排気量を4.7Lに拡大しながらも、公道での使用に適切な回転数と扱いやすいロードマナーを実現するためにデチューンされ、520psの最高出力と48.0kgmの最大トルクを発生する。静止状態からわずか3.8秒で100km/hまで加速させ、最高速度は325km/hに達した。
ストッピングパワーは、アルミニウム製ピストンで固定された巨大なローター(フロント14インチ、リア13.2インチ)を備えたブレンボ製ブレーキによって担保された。
当時から正真正銘のコレクターズアイテムとしての地位を確立
F50は、レーシングスタイルの燃料ブラダータンクから液晶ダッシュボードの計器類に至るまでF1スペックの装備に溢れていたいっぽう、レザートリムのシートやエアコンディショナー、調整可能な車高などの快適装備も充実していた。
ワイルドきわまるF40よりも洗練されていながら、マクラーレンF1ほどくつろげるものではなかったF50は、特定の細かな性能ベンチマークを追求するのではなく、純粋な体験のために作られたマシンであり、今となってはF1直系のピュアさが歴代スペチアーレ・フェラーリのなかでも特別な評価を受けている。
1995年から1997年にかけて製造されたF50は、公式生産台数の上限が349台と定められていた希少性も相まって、生産されていた当時から正真正銘のコレクターズアイテムとしての地位を確立した。
F50は今もなお、フェラーリにこだわるコレクターのお気に入りであり、しばしばモダン・フェラーリのコレクションにおける中心的存在として、あるいはマラネッロの熱心なエンスージアストたちに愛される、輝かしき「ビッグファイブ(288GTOとF40、F50、エンツォ、ラ・フェラーリ)」ハイパーカーによるポートフォリオでも、重要な構成要素となっているようだ。
モナコで長年を過ごしたヒストリー
このほど2024年5月31日~6月1日に開催された「The Dare to Dream Collection」オークションに出品された、曰く「ファビュラスな」F50は、シャシーNo.106400。プロダクションプレートでも確認できるように、F50としては182番目に製造された個体であり、1996年7月に製造者証明書が発行された。そのコピーは、販売に際して添付されるファイルに保管されている。
新車時代の登録証や販売明細書、フェラーリの世界的権威マルセル・マッシーニ氏によるヒストリーレポート、「フェラーリ・クラシケ」のレッドブックとそれに対応する鑑定書を含む詳細な資料ファイルによると、この美しいヨーロッパ仕様のF50は1996年7月に組み立てを完了し、「ロッソ・コルサ」のボディ、「ネロ(黒)」のレザーインテリア、そして赤のシートインサートで仕上げられたという。
そしてベルギーの有名な老舗ディーラー「ガレージ・フランコルシャン」を介して販売されたこのフェラーリは、1999年にモナコへと移り住んだ地元のエンスージアストへと譲渡。その後9年間は、モナコのフェラーリ正規代理店「モナコ・モーターズ」によって定期的に整備されていたことがわかっている。
しかし2010年の初頭、モナコのオーナーはフェラーリ・スペシャリストとして世界的に評価されている、英国「DKエンジニアリング」社にF50を売却し、同社はそののち4年間にわたり、断続的にこのクルマを整備し続けた。
2015年1月、シャシーNo.106400は「The Dare to Dream Collection」に売却。同コレクションのオーナー兼キュレーターであるマイルズ・ナダル氏が、このクルマの4人目の個人オーナーとなった。その半年後には「フェラーリ・クラシケ」からレッドブックが発行され、ナンバーマッチするシャシー/エンジン/トランスアクスル、そしてオリジナルのボディが継続して残されていることが証明され、このF50が高いオリジナリティを保持していることが保証されるに至った。
フェラーリ「F50」でさえリザーヴなしで出品
「The Dare to Dream Collection」で10年近く一貫して大切に保管されてきたシャシーNo.106400は、オークションの公式WEBカタログ作成の段階で2万910kmのマイレージを表示しており、ハードトップ用の純正フライトケース、オープン時に使用するハードトノーとロールバー、非常用のソフトトップと専用バッグ、純正ツールキット、取扱説明書、「スケドーニ」社製ラゲッジセット2個が付属されていた。
今回の出品に際して、サザビーズ北米本社では「フェラーリのなかでも賞賛される“ビッグファイブ”モダン・ハイパーカーのコレクションの隙間を埋めたいと切望するコレクターにはうってつけである。」という謳い文句を添えて、380万ドル(約6億1440万円)~450万ドル(約7億2760万円)という自信たっぷりのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
なお、今回の「The Dare to Dream Collection」オークションは、すべて「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」形式で行われるというのが前提条件。したがって、たとえ入札が希望価格に到達しなくても落札されてしまう「リザーヴなし」で出品されることになっていた。
この「リザーヴなし」は、通常では比較的安価な出品ロットで会場の機運を盛り上げるために行われる措置なのだが、明らかな高価格が見込まれるこの種のフェラーリではあまり見られないものである。
それだけに「お約束」ともいえそうなリスクも充分に危惧されたのだが、いざ競売が終わってみれば、エスティメートの想定内に収まる424万ドルに到達。
つまり日本円に換算すると約6億8200万円という、たとえ現在の円安為替レートを加味して考えても、驚いてしまうほかないハンマープライスがたたき出されることになったのである。
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走ると壊れるから乗らないでくれって