「エルグランド」の現行モデルが登場したのは2010年5月。この5月で、ついに10年目を迎える。
日産のフラッグシップミニバンのはずなのに、ハイブリッドエンジンや日産自慢のプロパイロットも与えられず、ライバルのトヨタ アルファード/ヴェルファイアには、販売台数で大差をつけられてしまっている。
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ラージミニバンの先駆車だったエルグランドは、なぜここまで衰退してしまったのだろうか。そして、エルグランドが復権する可能性はあるのだろうか。
文:吉川賢一
写真:NISSAN、編集部
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「大人数で快適に」飛ぶように売れたエルグランド
1997年登場の初代エルグランド。1999年には年間5万1521台を売り上げるなど、高級ミニバン市場のパイオニアに
まずは、エルグランドの持ち味とは何なのか、を振り返ってみようと思う。
1997年に登場した初代エルグランドは、「大人数を乗せて快適に移動する空間」というコンセプトがヒットし、飛ぶように売れた。
乗員や荷物をたっぷりと荷室に積んでも、しっかりとトラクションが得られるよう、後輪駆動もしくは4WDとした点も、当時の評論家やクルマ好きからは好評だった。
ちなみにアルファードは、この初代エルグランドのヒットを見て2002年に登場したクルマであり、「アルファードのほうがエルグランドになりたかった」という背景がある。
今でこそ販売面で大差が付いているが、アルファードの誕生はエルグランドから遅れること約5年、2002年だった
2002年に2代目へとモデルチェンジした際、FRと4WDの2種類の駆動方式は踏襲し、リアにはV35スカイラインや初代フーガにも採用した、高性能なマルチリンク式サスペンションを採用。
リア入力時の乗り心地とリアスタビリティを高次元で両立し、「走り」へのこだわりをキープコンセプトして貫いた。ミニバン離れした俊敏な身のこなしで、大きなボディを、3.5Lもしくは2.5LのV6エンジンでグイグイ引っ張っていく、優秀なミニバンであった。
「走りのミニバン」をウリにして成功してきた日産は、背高ミニバンでのコーナリング性能向上に、さらにこだわっていく。
3代目エルグランドは、駆動方式はFFもしくは4WD、全高を下げてぐっと踏ん張ったようなワイド&ロースタイルとなった。3.5L・V6エンジンは継続し、2.5LはV6エンジンから直4エンジンへと置き換えられた。
その結果、3代目エルグランド(2010年~)は、試乗したドライバーからは狙い通り、「走り」において高評価をもらえるミニバンとなった。
「ミニバンなのにハンドリングが良い」ことは正解か?
2010年に登場した3代目エルグランド。改良を経て現在まで現役を続けている
当時、日産の開発部隊にいた筆者も、エルグランドはミニバンの中では抜きん出た「ハンドリング性能と乗り心地を合わせ持つミニバン」だと感じていた。乗り心地が良くて走りも得意ならば、これが正解なのだろうと、誰しもが思っていたに違いない。
しかし、その「走りの良さ」と引き換えに、全高を下げた3代目エルグランドは、「視界の高さからくる優越感」や「ボディのボリューム感」といった、ラージミニバンとしての魅力が削がれてしまっていた。
「背が高いミニバン」というと、走りを好むユーザーからは、否定的な意見が出るかもしれないし、筆者がエルグランドの操縦安定性の担当エンジニアであったら、重心高アップにはおそらく反対しただろう。
しかし、「背が低くてえらそうに目えない」ことが、エルグランド敗因のひとつになったと、筆者は考えている。
エルグランドのもうひとつの敗因は「燃費」
高級ミニバンにおいて走りの実力はピカイチながら、ハイブリッド等はなく、燃費面では厳しいのが現状だ
そして、エルグランドのもうひとつの弱点が、燃費の悪さである。
エルグランドの3.5L・V6の燃費は9.4km/L(JC08モード)、2.5L直4は10.8km/Lだ。いまやミニバンでもハイブリッド車であれば、15km/Lを余裕で超えてくる時代である。
アルファードの2.5Lハイブリッドは、JC08モードで18.4km/L(WLTCで14.8km/L)を達成しており、このレベルを実現できるパワートレインでないと、勝負にならない。
日産には、スカイラインやフーガに搭載されている3.5L・V6ハイブリッドや、エクストレイルに搭載されている2.0L直4のハイブリッド、そしてセレナに搭載のe-POWERがある。
エルグランドに2.0L直4ハイブリッドを搭載して出すことはできるはずだが、開発予算に余力がないのであろう。
エルグランドは復権できるのか?
今年か2021年にも発売される見込みのアリア コンセプト。ここで具現化される新生日産デザインを生かした次期エルグランドに期待したい
筆者は「復権できる!」と考えている。現時点で筆者が考える「新生エルグランド」の車両概要は以下の通りだ。
まず、「エルグランド」の名に恥じない風格をもったボディスタイルは必須だ。
全高を上げ、見栄えを豪華に、そしてインテリアにも、「アリアコンセプト」で夢を見せてもらったような、センスが良く、贅を尽くしたものを用いてほしい。
プロパイロットや、その他の先進安全技術は必須であり、あえて指摘するまでもなく搭載してほしい。
パフォーマンスを優先する上級グレード用のパワートレインには、アルティマやインフィニティQX50に搭載されている、VCRエンジンが最適だろう。
VCRエンジンは、直4でもV6に近い振動レベルを達成でき、なおかつパフォーマンスが欲しいとき、または燃費を優先したいときに、圧縮比を自在にコントロールできる「日産固有の新兵器」だ。これを使わない手はない。
ハイブリッドシステムは、その複雑さゆえにコストが高く、なかなか手を出しにくい。「燃費向上分とのバリューを考えると、このVCRユニットのほうが、ハイブリッドよりずっと良い」というのが日産エンジニアから聞いた見解である。
量販グレードにはe-POWERの搭載を!
ノート、セレナに搭載され販売急増の立役者となったe-POWER。エルグランドに搭載されれば、大幅な燃費改善と訴求力アップが見込めるだろう
そして、量販グレード用にはe-POWERだ。以前筆者が『ベストカーWeb』で、書かせていただいた記事で、現時点のe-POWER(セレナ用 1.3L直3エンジン)では、エルグランドの車重に対してパフォーマンスが不足すると指摘させていただいた。
だが、日産は、可変圧縮比(VCR)エンジンの採用領域を拡充することをアナウンスしており、「e-POWER」にも活用する方針だ。発電効率が良くパワフルなパワートレインが登場すれば、高価なハイブリッドシステムを用いずとも、燃費改善およびCO2排出量低減が見込める。
そして、何より大切なのが、「エルグランドに手をかけ続ける」ことだ。何年間も放置すると、ファンの心は離れていく。現行エルグランドのような姿は2度と見せてはならないと思う。
◆ ◆ ◆
ただ、「背の低さ」や「燃費の悪さ」だけがエルグランドの敗因ではないだろう。アルファードが強い理由は、トヨタ販売網の圧倒的な強さも後押ししたことは間違いない。
そのため、エルグランドの復権には、販売面での工夫も必要だと考える。
「走りへの強いこだわり」がエルグランドの魅力と考えるのは悪くはない。
ただし、初代エルグランドを彷彿させる「背高のミニバン」で、ラージミニバンナンバー1の走りを実現する技術を目指すのが「日産らしさ」だし、そうした姿になってくれることを、筆者は願っている。
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