広く知られるべき若手ドライバー
56レース。フィル・ハンソンがモータースポーツの頂点に到達するまでに必要だったのは、それだけだ。英国のバークシャー州出身のこの若者は、カートの世界では後発組で、5年前にスポーツカーの世界に飛び込んだ。
【画像】モータースポーツに意欲を示すメーカー【トヨタ、アウディ、ポルシェ、プジョーのスポーツカー5選】 全177枚
21歳という若さにして、すでに4回のル・マン24時間レースに出場しているベテランドライバーである。2020年には彼の所属するユナイテッド・オートスポーツが、2020年シーズンのLMP2クラスの優勝者となった。
これは、2つのシリーズでチャンピオンを獲得し、ル・マンでも優勝して世界の注目を集めているハンソンにとっても、かなりの出世と言えるだろう。
ヨークシャー州を拠点とするユナイテッド・オートスポーツは、マクラーレンのF1代表であるザック・ブラウンと経験豊富なレーサーであるリチャード・ディーンが共同オーナーで、昨年の春にパンデミックの影響でモータースポーツが停止するまでは絶好調だった。7月に最初のロックダウンが解除されると、チームは再び軌道に乗り始めた。
ハンソンはその後、WECとELMSの両レースに出場し、8つの耐久レースで5回の優勝を果たしている。ルイス・ハミルトンは2020年のF1で記録的な成功を収め、トヨタのマイク・コンウェイはLMP1で世界耐久チャンピオンになったが、同じ英国人としてはハンソンが世界に与えたインパクトの方が大きいのではないか。彼はもっと知られるべきだ。
「レースを休んだことでハングリーになった」とハンソンは言う。
「準備とハードワークが鍵を握っていた。オレカのシャシー(競争力の低いリジェから切り替えた)を使った最初の年だったから、それまではいろいろな意味でハンディキャップを背負っていたけど、今回は自分たちのポテンシャルをフルに発揮することができた」
「隔離期間中のチーム、エンジニア、ドライバーの舞台裏での作業は他の誰よりも素晴らしかったから、多くの人達にショックを与えることができたんだ」
先輩の経験を積極的に吸収
ル・マン開催日は従来の6月から9月に延期された。しかし、たとえ25万人もの観客がいなくても、ハンソンの勝利は非常に重要なものになっただろう。
「年の初めには、WECとル・マン、どちらで勝ちたいかを自問自答するんだ。両方を選ぼうとは思わないよ。ル・マンは一年で最も大きなレースで、多くの人が世界選手権よりも重要だと言っているけど、ピンポイントで選ぶのは難しいね」
「ル・マンには運(luck)の要素があって、1回のレースで起こりうることがとても多いんだ。一方で、チャンピオンシップではチームの中で運命(fortune)のようなものが形成されてくるんだよ」
ユナイテッドでは、元フォース・インディアF1ドライバーのポール・ディ・レスタや、WECとELMSの両方で活躍している元アウディLMP1レーサーのフィリペ・アルバカーキといった、経験豊富なドライバーたちとチームを組んでいるのもハンソンにとって助けとなる。
「自分のキャリアの中で、多くのことを成し遂げてきたドライバーたちと戦うのは良いことだ。僕との違いを見て、スポーツ界最高の選手たちがどのようなものなのかを知ることができたし、自分のパフォーマンスの最後の詰めをどうすべきなのかを理解することができたんだ」
「彼らは僕よりも15年も長く運転しているからね。でも、彼らがミーティングでヒントやフィードバックをくれているから、僕は早送りできるんだ。僕は今、そのすべてを吸収しようとしている」
課題は実力でシートを獲得すること
では、次は何をするのか?短期的には、答えは同じようなものになるだろう。スポーツカーのレーサーは、能力、経験、成績によってブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと等級付けされているからだ。ハンソンは、シルバーからゴールドに移行したばかり。
現在、スイスの元DTMドライバー、ファビオ・シェラーが「ゴールデン・ボーイ」のハンソンとプラチナのアルバカーキに加わり、チームのシルバードライバーとして活動している。また、ハンソンは自身のELMSタイトルも防衛することになる。
長期的な展望としては、世界の耐久レースで最高の地位にあるル・マン・ハイパーカー(LMH)とル・マン・デイトナ・ハイブリッド(LMDh)クラスに目が向けられていることは明らかだ。
トヨタは今シーズンのハイパーカーカテゴリーでスタートを切り、2022年にはプジョーが参戦して、その後アウディがLMDhに、続いてポルシェが舞台に上がる。他にも多くのメーカーが追随する可能性がある。若いドライバーが長距離スポーツカーレースでキャリアを積むには素晴らしい時期だと言えるだろう。
「LMP2に居続けるのは理にかなっていると思う。LMP2は最も競争が激しいクラスで、年々成長しているからね。F1やDTMを含め、あらゆるところからドライバーを惹きつけている」
「僕は正しい場所にいて、自分を最高の選手と比較するには絶好の場なんだ。もし自分がそのトップにいると証明できれば、世界のトップに立っていることを証明することになる。そうすれば、メーカーが(LMHとLMDhに)参入してきたときに、自分の存在をアピールすることができると思う」
ハンソンには今、取り組むべき重要な課題がある。これまで彼のキャリアは裕福な父親に支えられてきたが、いつかは純粋な実力だけでチームと契約する必要がある。真のプロになるためには、レーシングドライバーとして生計を立てなければならないのだ。
「メーカーのドライバーリストに自分が載っているのは間違いないと思っている。あとはどれだけ上位にいて、自信を持ち続けることができるかどうかだ」
「若いということは助けになるけど、同時にデメリットもある。彼らと一緒に長いキャリアを歩むことができる反面、経験が少ない。それはトレードオフだ。でも僕は21歳で、すでにル・マンで4回レースをしてきたから、彼らが僕のパフォーマンスを見たら…ただ若いだけじゃないとわかってくれるだろう」
アウディ、プジョー、ポルシェ、トヨタなどのほか、カスタマーチームの可能性もある。ハンソンはこれまで高く速く飛んできたが、適切なブレークがあれば、彼の空高く伸びる軌跡は成層圏へと加速していくことになるだろう。彼がすべきことは「勝ち続ける」という、難しいことだけだ。それは彼自身もよくわかっている。
世間は彼を「過小評価」している
ユナイテッド・オートスポーツの共同創設者でありチームの代表でもあるリチャード・ディーンに、フィル・ハンソンがスポーツカードライバーとしてゴールドクラスにふさわしいかどうかを尋ねてみた。
「彼に対する一部の人々の意見にはイライラするよ。彼がレースを始めてまだ間もないから、勝手に推測をしてしまうんだ。フィルはルーキーで代役だと考えがちで、実際のデータを見ることもない。フィリペ(アルバカーキ)やポール(ディ・レスタ)と並んで、彼がどれだけ自分の力を発揮してきたのかを知ろうとしないんだ」
「彼がどれだけプロフェッショナルで、集中力があり、フィットしているか、どれだけ野心的か、どのように軌道に乗っているか、チームの内部から見ないといけない。人々の意見は2~3年前のままで、彼がどれだけ早く成長し、進歩したかを見ていないんだ。3年前のフィルと今のフィルは違う。去年のル・マンでの最後のスティントがすべてを物語っている。彼は大きなプレッシャーにさらされていた」
ディーン自身もかつてはル・マンでクラス優勝を果たした実力者だが、容易には感心しない。しかし、ハンソンに対する賞賛は本物だ。
「彼は自分の良いところを聞かされるのが嫌いで、改善できるポイントを聞きたいだけなんだ。彼は進歩し続けていて、今後18か月間の成長は非常に興味深いものになるだろう」
では、ハンソンが家族のお金でキャリアを築いてきたドライバーから、自身の手で真のプロとなることは現実的に可能なのだろうか?アウディやポルシェ、その他のメーカーが世界耐久選手権に復帰したとき、彼は本当にリストに載るのだろうか?
「資金があるからといって悪いドライバーになるわけではないが、それを信じたくない人もいる。彼が大きく成長しているという事実を好ましく思っていない人達がたくさんいるんだ。彼はこの12か月間、多くのプロを困惑させてきた」
「彼がこれまでのペースで成長を続ければ、2023年に多くのメーカーが参入してくるころには、素晴らしいポジションを見つけられるかもしれない」
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
みんなのコメント
この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?