WRCで勝つための競技車両ベース車として開発されたGRヤリス。その生い立ちと同様の背景をもつ過去の日本を代表するモデルといえば三菱のランサーエボリューション、それにスバルのインプレッサWRX STIだ。
ランエボとインプレッサWRXは平成の競技用ベース車で時代は違うが、ラリーのために誕生したクルマとして、GRヤリスはこの2モデルを超えているのか?
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またパフォーマンスの面でも、ランエボとインプレッサWRXが2Lターボエンジンを搭載していたのに対し、GRヤリスは1.6Lターボとパワーユニットは大きく異なるのだが、ここでは平成時代の2大コンペティションモデルと比較することで、GRヤリスの実力により深く迫っていきたいと思う。
文/斎藤 聡
写真/TOYOTA、SUBARU、MITSUBISHI、ベストカー編集部
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■レギュレーションが異なるとクルマ作りの違いがでてくる
2021年のFIA世界ラリー選手権を戦うヤリスWRC
“GRヤリスはランエボインプレッサを超えているのか?” 超えているかどうかはともかく、GRヤリスは今WRCで勝つための要素をすべて取り入れた、コンペティションベース車としての優れた資質を持ったクルマであることは間違いありません。
何を歯にモノが挟まったような書き方をしているのか? と思われるかもしれませんが、時代背景やレギュレーションが異なるので、当然ベース車となるクルマの作り方にも違いが出てくるわけです。
ランエボ、インプレッサの時代は、華々しくも過激を極めたグループB車両の時代が終わりグループA車両に移行した1990年代。グループA車両はベース車両の性能、ポテンシャルがモノをいうカテゴリーです。
改造範囲が限定的であるうえ、年間5000台以上販売しないとホモロゲーションが取得できないので、戦闘力のあるベース車両を作るのはメーカーとしても、かなりハードルの高いレギュレーションでした。
■ランエボ&インプレッサは競技車のような性能を持っていた
三菱 ランサーエボリューションVI
そんな時代になぜランエボとインプレッサが存在したのかというと、日本のWRCで勝ちたいと強く願うメーカーが2社同時に存在してしまったのが理由です。
ベース車両にお金をかけ、ノウハウをつぎ込み、発売するや年改しながらグレードアップを図るという、開発している当のエンジニアからも悲鳴が上がるほど過酷で激しいものでした。けれども眼の前に強力なライバルがいるのですから、休みたくても休めない。手を休めた瞬間勝てなくなってしまうわけです。
そんなふうに文字どおりしのぎを削り、バチバチにやりあってきたのです。
ランエボV以降、インプレッサならGDB型(2代目)以降のモデルは市販車に乗ってもものすごくボディの剛性感が高いし、エンジンなど競技車のようなパフォーマンスを持っていました。
■GRヤリスも市販車レベルではすごく出来がいい!
スバル インプレッサWRX STI(2代目)
一方、GRヤリスに乗ると、ランエボやインプレッサと比べてちょっと華奢な印象があります。ダメなのではなく、それがレギュレーションの違いなのです。
現在のWRCのトップカテゴリーはWRカーと呼ばれ、エンジンは1.6Lターボで36mmのリストラクター付(吸気量制限)。ちなみにエンジンは専用設計の競技用エンジンです。
エクステリアでは空力パーツの取り付けなど自由度が高く、サスペンションもフロントの形式変更はできませんが、リアサスはFF→4WDの変更が認められているためサスペンション形式の変更も可能です。
トヨタもWRCに勝つためだけでなく、多分に販売戦略的な意向もあって、市販のGRヤリスをWRカーに寄せてデザインすることで、高性能なイメージを高めるとともに、国内で力を入れているN1車両による国内ラリーでの戦闘力も考慮して作られているのだろうと思います。
華奢と書きましたが、ランエボやインプレッサが性能重視で異常に骨太だっただけで、GRヤリスの操縦性は軽快かつシャープです。市販車レベルでみるとものすごくよくできています。
そのコア技術のひとつになっているのが4WDシステムのGR-FOURです。モードスイッチによって前後トルク配分60対40のノーマル、30対70のスポーツ、50対50のトラックモードの設定があります。
国内のラリー競技ではたぶん50対50をメインで使うはずですが、一般道やスポーツドライブでは30対70が楽しい気分を引き立ててくれます。
ランエボやインプレッサは、振り回す面白さなど二の次で、操縦性を追い求めた結果のコントロール性のよさだったわけですが、GRヤリスは、あくまでも市販スポーツカーということから振り回す面白さを演出しているように思います。
■余裕から生まれるクルマの楽しさ
GRヤリスはスポーツカーとしてのエンターテイメント性を盛り込むことで市販車としての魅力を高めている
当面、強力なライバルがいないことも操縦性に遊びの余裕(?)があるのだろうと思います。
エンジンは272馬力/370Nmを発揮します。刺激的ですが思わずアクセルを戻してしまうほど迫力があるわけではありません。このあたりはハンドリングも含め、ライバルがいないゆえにシビアにセットアップしているという感じではなさそうです。
試乗した印象として、ランエボ、インプレッサのほうが、競技車両ベース車としてのヒリヒリする緊張感が強かったように思います。GRヤリスはベース車両であると同時にスポーツカーとしてのエンターテイメント性も盛り込むことで、市販車としての魅力を高めている、といったところでしょうか。
もうひとつ大切なことは、この時代にこんな楽しいスポーツカーをトヨタが作ったということです。「楽しいクルマ作り」の一環なのでしょうが、ラリー競技やラリーフィールドからフィードバックされるノウハウはさらに次のモデルに反映されるはずですから、そのあたりにも期待が膨らみます。
欲を言えば、ほかのメーカーからもぜひこのカテゴリーに参戦してもらって、切磋琢磨することでこのカテゴリーがさらに盛り上がることを期待したいところです。
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みんなのコメント
ベースとしては超えてるんじゃないの?
流石に時代の流れ技術の進歩があるでしょ。