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サーキット2回目でも乗れた! アウディRS3 TCRで最新カスタマーレーシングカーを知る

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サーキット2回目でも乗れた! アウディRS3 TCRで最新カスタマーレーシングカーを知る

「ヒラノさん、以前ゴルフGTIに乗られてましたよね? でしたらパワーはそんなに変わらないですし、大丈夫ですよ(笑)」。ひょんなことから、今をときめくTCR規定のレーシングカー、アウディRS3 TCRをドライブすることになってしまった。最新のカスタマーレーシングカーはいったいどんなものなのか、そしてサーキット2回目でも乗れるクルマなのか、素人目線での試乗記をお届けしよう。

■1500万円のレーシングカーに「乗ってみます?」
 ことのキッカケは、スーパーGTではAudi Team Hitotsuyamaとして参戦している、Hitotsuyama GmbHのFacebookページを5月に見たことだった。「TCRマシンのAudi RS 3 LMSが新たにHitotsuyamaファミリーの仲間入りをしました。このマシンは各イベントやレースでのレンタルも可能です!」との書き込みがあり、ナルドグレーとホワイトに塗り分けられたRS3 LMSが写っている。

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 Hitotsuyama GmbHは、アウディA1 Fun Cupをはじめ、アウディを使ったサーキットイベントを開催しており、実は筆者も一度A1 Fun Cupで富士スピードウェイを走らせてもらったことがある。初めてのサーキット走行で大いに緊張したのだが、無事にマシンを走らせられて大いに楽しめた。このRS3 LMSもそういったイベントで使えるのかと思うと、これはぜひ取材しなければなるまい……。

 そこでスーパーGT第5戦富士の際、Hitotsuyama GmbHの一ツ山亮次代表に、「ぜひ取材したいです!」と相談してみた。すると、返ってきたのは「8月12日にRS3 LMSを走らせるんですが、ヒラノさん乗ってみます?」というものだったのだ。

 おいおい。不安しかないぞ。年に何十日も通っている富士スピードウェイとは言え、実際に走ったことがあるのは先ほども触れたA1 Fun Cupでの一度きり。同乗走行では2シーターフォーミュラ・ニッポンやインタープロト等はあるが、自分で走るとなると話は別だ。おまけにRS3 LMSは、WTCR世界ツーリングカーカップをはじめスーパー耐久等、世界中で活躍しているレーシングカーだ。レンタルカートではちょくちょくスピンもする、大して速くもないこの素人に乗れるものなのだろうか……?

「今後レースに使うので、ぶつけなければいいですよ」と一ツ山代表はニヤリと笑う。そして冒頭のコメントだ。たしかに一昨年までゴルフGTIに乗ってはいたが、とはいえ……。このRS3 LMSは、お値段1500万円ほど。自分史上最高額のクルマに乗ることになるし、もし万が一“やっつけて”しまったら、少ない稼ぎの筆者は一生RS3 LMSのために生きていかなければならなくなる。恐怖しかない。

 ただ、今をときめくGT3やGT4、TCRといったカスタマーレーシングカーがいったいどんなものなのか、そしてどれほど楽しいものなのか知りたかった。来季からはTCRのスプリントシリーズが日本でも始まるかもしれない。それに向けて、少しでも知っておいた方がいいだろう……と心に決め、そっと走れば大丈夫だろうと、乗ることに決めたのだ。

■緊張マックスで初ドライブへ
 当日、お盆休みの渋滞に巻き込まれながら富士スピードウェイに着き、Hitotsuyama GmbHのピットに向かう。この日はライセンス不要の『Fuji-1 GP』というイベントが行われており、そのなかで走らせてもらうというわけだ。

 3ピットを占めるHitotsuyama GmbHのうち、2ピットはA1 Fun Cupが占めているが、RS3 LMSは1ピットをまるまる使う。前を通りかかる人たちがマシンを凝視していく。そりゃそうだ。このイベントは、ほとんど参加者は市販車で、RS3 LMSは、2台だけの『RACING』クラスからの参戦。はっきり言って、コース上でいちばん速いマシンのうちの1台なのだ。ちなみに、今回RS3 LMSに乗るのは筆者と、スーパーGTで活躍する富田竜一郎、そしてあとお二方。RS3 LMSの“初心者”は筆者だけだ。

 まずは富田先生(今回はぜんぶ『先生』づけです)から、RS3 LMSについて注意事項を聞く。「アクセルとブレーキをオーバーラップさせたりするとダメ。パワーがタイヤに対して勝ってるので、止める、曲げる、踏むのは別々にやってください。あと、ブレーキペダルは重いです」と富田先生。

 スイッチ類のレクチャーも受けたが、そこまでボタンは多くない。説明を聞きつつもなんだかフワフワしているうちに、午前のフリー走行が始まった。最初は路面が濡れていたこともあり、少し待って富田先生がコースイン。1分50秒台~53秒台くらいのラップを刻んでくる。

「ヒラノさんは、最後のビギナー向けの時間帯で走りましょうか。その方が気楽でしょ?」とマシンを下りた後、気遣ってくれた富田先生。そしてその時はやってきた。慣れない手つきでスーツを着込み、お借りしたHANS(ふだんカートくらいしかやらないので持ってない)を着ける。ちなみに初HANSだ。

 ピットレーンに戻ってきたRS3 LMSのドアが開き、ロールケージをまたぎ足を滑り込ませるが、ヘルメットを開口部にぶつけた。コンタクトレンズが不安だったのでメガネで乗ったが、曇らないように富田先生がファンを向けてくれる。シートベルトを締められ、ドアが閉まった。ホントに走るのか……。頭は真っ白になっていた。

■気づけば予定時間オーバーで走っちゃった!
 RS3 LMSは、シフトはステアリング裏のパドル(ちなみに市販車と同じパドルがついている)で操作するが、発進のときだけはクラッチを踏まなければならない。教習所で教えてもらったようにアクセルを踏みながらクラッチを切ろうとするが、2回ほどストールした。ダサいぞオレ! ちなみに後で教えてもらったところによると、クラッチだけをゆっくり離し、繋がったあたりでアクセルを踏むといいらしい。

 なんとか発進し、ピットレーンを行く。いつもコースサイドから見ているように、1コーナーであるTGRコーナーにはインから進入する。そしてコカ・コーラ・コーナーを抜け、ちょっとずつ感覚を掴みながらペースを上げた。細かい走行の描写はやめよう。こんな素人の走りを再現しても面白くないからだ。

 今回、富田先生からは事前に「初めての方も多いので、ブレーキングでは絶対に抜きにいかない。加速で抜いてください」と注意を受けていた。そのとおりに、セクター3は毎周他の参加者の方がいらっしゃったので、うしろにつきながらゆっくりクリア。おそらく、他のクルマの皆さんは「なんでアイツ、あんなクルマで抜いてこないんだ」と思っていたに違いない……。ホントすいませんでした。

 アウトラップのストレートでとりあえず全開にしてみて、直線で230km/hを記録すると、だんだんアクセルを踏めるようになり、たしかにかなり重いブレーキを踏めるようにもなってきた。ようやくまわりが見えてくるとともに、「あれ? こんなに走っていいんだっけ?」と気付いた。ストレートでふと見ると、富田先生が両手で呼んでいる。やっちまった。気づけば時間を忘れてRS3 LMSでのドライブを楽しんでいる自分がいた。おとなしくピットに戻り、コクピットから下りた。

■カスタマーレーシングカーの魅力を確認
 じつはこの後、Fuji-1 GPの決勝レースでもドライブする予定だったのだが、まさかの事態が。第3スティントを担当しようと筆者がヘルメットをかぶり、GTドライバーよろしくモニターを見上げていると、なんとRS3 LMSが白煙を上げピットに戻ってくるではないか。

 今回のFuji-1 GPでは、60台ほどの参加者がいてコース上はトラフィックがかなりあったのだが、そのなかでRS3 LMSは右リヤを他車とヒットしてしまったのだ。念のためすぐに乗れる準備は整えていたが、一ツ山代表から「これはダメですね~」と声がかかる。残念ながらリタイアだ。

 60台ものトラフィックのなかを走る自信はまったくなかったので、出番が回ってこなくてホッとしたのが正直なところ。よく業界の噂話で聞く「アイツ、ウン千万円のスーパーカーやっつけたらしいよ」の「アイツ」にならずに済んだのだから。

 というわけで結局RS3 LMSのドライブは午前のほんの15分ほどで、筆者のベストタイムは2分04秒程度。正直2分は切りたかったが、まあ仕方が無い。RS3 LMSを無事に戻し、そのフィーリングを確認するのが今回のミッションだ。他車がいなければ2分は切れていた気もするし。

 結論から言うと、RS3 LMSは「こんなにカンタンで楽しいの?」というクルマ。何せクラッチを繋ぐのは慣れればすぐにできるし(ストールしたけど)、その後のシフトも、グランツーリスモを楽しんでいる気分だ。当然シフトショックは大きいが、レーシングカーなら普通のレベル。パワステもABSも付いていて、疲れも少ない。電子デバイスの恩恵を大いに感じることができた。

 そんな話はいつもドライバーの皆さんから聞いてはいたのだが、改めて乗ってみると、それがどれだけ安心してドライブできることに繋がっているかを痛感した。このRS3 LMSは、サーキット走行をある程度かじった経験がある人なら、絶対に乗りこなして2分を切ることができるはず。もちろん、そこから少しずつタイムアップし、プロのタイムに近づくには相応の努力が必要だが。

 富田先生も「最近のレーシングカーはすごいでしょ?」と言っていたが、まったくそのとおり。ジェントルマンドライバーも容易にドライブができ、かつ壊れない、カッコいいレーシングカーが1500万円で買えてしまうご時世なのだ。カスタマーレーシングカーが流行るのは至極当然。そして、このTCRというツーリングカーの新しいコンセプトが世界中に広まったのには合点がいった。また、最新のFIA規定に沿った安全性が確保されているのも魅力だ。

■30分20万円から乗れます。ぜひ純レーシングカーを味わう機会を
 さて、こんなサーキット2回目の筆者でも乗れてしまったRS3 LMS。この文章を書いているのは走ってから3日が経っているが、いまだにそのフィーリングを克明に思い出すことができるくらい楽しかった。ぜひいろんな方に経験して欲しい感覚だ。

 ではどうすれば経験できるのかというと、ひとつはRS3 LMS(もちろん他のTCR車両でも構わない)を買うこと。お値段は2000万円あればお釣りがくるだろう。ただ当然、それをポンとできる人は少ない。そこで、今回筆者が経験させていただいたHitotsuyama GmbHのRS3 LMSのレンタルプランがあるというわけだ。

 Hitotsuyama GmbHでは、RS3 LMSをイベントやスポーツ走行でレンタルしており、車両保険こみで富士スピードウェイのスポーツ走行30分を走るとすると、20万円というお値段だ。また、富士で行われているヨーロッパ車のイベント『ETCC』や今回のFuji-1 GP等にも参加が可能で、1時間まるまる乗れて40万円という価格が設定されている。

 一見すると「高い!」と思われるだろうが、純粋なメーカー謹製のレーシングカーに乗れて、メンテナンスもサポートも諸々経費も込みで20万円はかなりリーズナブル。その価値の分は楽しめるはずだ。もちろん、いきなりRS3 LMSではハードルが高いと思ったら、Hitotsuyama GmbHが企画するA1 Fun Cupで腕試しをしてからでもOK。こちらはアウディS-Tronicを使ってフルAT状態で走ることも可能なマシンだ。また、パワー面でも初心者には大いにお薦めしたい。

 A1 Fun Cupでサーキットデビューして、RS3 LMSでプロと同じ速さと感覚を味わってみよう。ちなみにその先に、同じくHitotsuyama GmbHが所有するGT3カーのR8 LMSというのもある。こちらもレンタル可能で、元スーパーGT参戦車両を味わうことができるのだ。詳しくはホームページもしくは、Facebookページにぜひ問い合わせてみて欲しい。

「ヒラノさん、じゃあ今度はR8ですね(笑)」と一ツ山代表。いやいや、もう無理ですってば。でもこれで、TCRをドライブした経験がある日本で唯一のモータースポーツメディア(たぶん)の称号を得た。きっと今後の取材に役に立つ貴重な経験だ。この場を借りて一ツ山亮次代表、Hitotsuyama GmbHの皆さん、写真まで撮ってくれた富田竜一郎選手、そしてFuji-1 GPの皆さんに感謝を申し上げたい。

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