戦闘力アップで期待が高まる
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「トヨタ GRスープラGT4の進化」です。市販車ベースのレーシングカーとして、GT4カテゴリーが人気です。世界で活躍しているGRスープラGT4が進化し、EVO2モデルが発表に。その進化について、従来モデルで戦う筆者が解説します。
ライバルは僚友! ニュル耐久シリーズ現在2位「目指せ日本人初のシリーズチャンピオン」…トーヨータイヤの作戦は?【Key's note】
メーカー謹製の本格レーシングカー
レース専用マシンであるトヨタ「GRスープラGT4」が2025年モデル「EVO2」へと進化しました。2023年にも改良モデルが誕生していますから、2年ぶりの進化となります。
GT4仕様は主にベルギーの統括団体である「RACB」が公認するレーシングカーの規定です。市販車の面影を残しながらも圧倒的な戦闘力を盛り込んだモデルであり、最強のGT3に準ずるカテゴリーなのです。
ただし、GT4規定には独特の決まりがあります。自動車メーカーが開発販売することが条件なのです。しかも、チームや個人が改造することは禁止されています。購入した状態から改造できるのは、タイヤやブレーキパッドの銘柄変更などに限定されており、独自に改造することは許されていないのです。たとえば、バケットシートの変更や、ブレーキ冷却のためのダクトを新設するといった些細な改造も認められません。
その理由は、戦闘力の均衡化です。チーム独自の改造を禁止することで、性能が横並びになります。それにより接近バトルを演出することになり、しいてはレースがコンペティティプになり、観客の興奮を誘います。結果的に集客につながるというわけです。
世界の主要自動車メーカーがGT4マシンを開発しています。改造を許可しないために、全メーカーの性能も監視することができるというメリットもあります。
FIAはBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)で徹底的に性能の均衡化を図っています。速いマシンには、パワーダウンさせたり重量増を課したりしています。これによって、どのマシンもほぼ等しい戦闘力を持つことになり、接近戦が増えることになります。エンターテインメントの点でも効果があるBoPを正常に機能させるためにも、GT4のモディファイ禁止は都合がいいのです。
それでも自動車メーカーは、自社のマシンに勝ってもらいたいわけです。ですので、トヨタがGRスープラGT4のEVO2モデルをリリースしたように、メーカー開発の対策モデルをデビューさせるのです。
レースでのウイークポイントが確実に対策された
僕はニュルブルクリンクの耐久選手権にフル参戦中。マシンはGRスープラGT4、タイヤはトーヨータイヤのプロクセス・レーシングスリックを装着しています。
現在、シリーズランキングに2位。1位はチームメイトであり同様にGRスープラGT4をドライブしています。そのような意味でいうなら、トーヨータイヤの性能がずば抜けていることが証明されているのですが、それでもGRスープラGT4にはウィークポイントがあり、そこが対策されたのであれば心強いですね。
新型EVO2ではまず、エンジンの冷却系が対策されています。これまでエンジンの熱ダレには苦労してきました。とくに夏場は油水温の上昇によりパワーダウンしていましたから嬉しい改良です。
トランスミッション対策も進んでいるようです。GRスープラGT4は驚くことに、7速オートマチックトランスミッションを採用しています。基本がオートマチックですから、変速に鈍さがあります。そこにもメスが入れられたのです。
ブレーキ性能にも改良が加えられました。レーシングカーながらABSも標準で組み込まれているのですが、一般車とは異なり、レース用にセッティングされています。これまでより精度が高くなったことで、ブレーキングでの競り合いで有利になるでしょう。
そして、何よりもホイールボルトが強化されたことが朗報です。これまでたびたびボルトが折れることでクラッシュ、あるいはリタイヤしていました。これで安心して攻めることができるのです。
というように、新型GRスープラGT4の2025年仕様「EVO2」は、おもに耐久性に対策が講じられたようです。これで安心してシリーズチャンピオンが狙えるようになりました。ぜひ、大幅に進化したレースをご覧になっていただきたいと思います。
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