あなたがもし郊外に勤めるサラリーマンで、クルマ通勤だったとしよう。しばらく前に買った自分専用の軽自動車、あるいはそれは、家族が使わなくなったクルマかもしれない。国道とちょっとしたワインディングの通勤路。いまあるクルマでも不便は感じない。ただ、毎日の生活に刺激や変化もないし、それならせめて、往復の通勤時間をファンなひとときに変えられないだろうか‥‥。こんなシチュエーションで真っ先に候補に挙がるクルマは決まっている! まずは、スイフトスポーツの1択である。REPORT●森本太郎(MORIMOTO Taro) PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)/神村 聖(KAMIMURA Tadashi)
ご存知のとおりスイフトスポーツは、歴代モデルも走りの楽しさに定評があり、多くのファンに愛されてきた。だが、昨年秋に登場した現行モデルでは、その速さと奥深さ、完成度は別次元に到達したと言っていい。現行スイフトスポーツは、先代モデルと比べて何がそんなに凄いのか、さっそくおさらいしてみよう。
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まず、速さが違う。1.6L NAから1.4ターボに変更され、136ps、16.3kgmから140ps、23.4kgmへ。とくにトルクが44%増しと文字通りの別次元に突入した。車両重量は70kg減の970kgで、トルク・ウエイト・レシオは50%以上向上! そんなデータを知らなくても、ラテンの小型車のようにレスポンス良く鋭い加速を示すことに驚く。ボディがしっかりしており安心感もある。その速さは、まさに痛快!というコトバがぴったりだ。高価格で何百馬力、という贅沢なスポーツカーの速さもいいが、速さの実感、操っているリアリティが楽しめのはむしろこちらのほうだ。だから、通勤特急ナンバーには、やはりスイフトスポーツを推したい。できればMTで乗りたいところだが、先代のCVTから6ATに代わったこと、ターボエンジン化で2ペダルとのマッチングが良くなったことから、AT車も十分に検楽しめる。試乗したうえで、好みで選べばよいだろう。
スイフトスポーツは、その辺のピュアスポーツと同等以上の痛快な走りが楽しめてかつ、低価格で実用的だ。6速MT車で183万6000円。この価格でこのパフォーマンスを得られるクルマは、ちょっとほかにないだろう。通勤車でもある以上、際限なく高いクルマも選びにくいし、スタイルが派手過ぎないところも、通勤車として使いやすい。たとえばシビックタイプRのようなアピアランスだったら、色んな意味で気を遣う。イメージカラーのイエローよりむしろ、プレミアムシルバーメタリック(=ガンメタ)などを選べば、大人っぽくてシックで地味。それでも走れば滅法速いのが素敵だ。
2選と言うからには、もう1台の、ホンキのスポーツを紹介しておきたい。ズバリ、S660だ。こちらは軽自動車だが、200万円から購入できる点が、スイフトスポーツと重なる。ただし、オススメする理由はスイスポとはまったく異なる。速く、安くて実用性もバツグンのスイフトスポーツに対してS660は、速くて楽しいけれど、その速さは軽の限界もあり、なおかつ実用性はほぼない。その代わり、小さいけれどスポーツカーの雰囲気は満点だ。軽自動車のレベルを超えた高いボディ剛性や専用パーツの作り込み、こだわりの質感はさすが、ホンダが久々に放った本格派の軽ミッドシップスポーツというレベルにある。
200万円を投じて、速さと実用性という面でもコストバリューの高いスイスポを選ぶのが常套手段だろう。ただ、通勤特急という使い方では、実際の速さ以上にスポーツカーらしいストーリーが欲しい人もいるだろう。低いヒップポジション、タイトなコックピット、ミッドシップエンジン、パワーに対して十分過ぎるほど余力をもったシャシー、オープンエアドライブ、文句無しにスポーツカーらしいスタイリング。これらはすべて、スイスポにはないS660だけの特権だ。ふたりで乗るとカバンを置くスペースもない、というのもある意味スポーツカーらしいストーリーのひとつだろう。スイフトスポーツの刺激的な速さにドキドキするか、S660のストーリーやスポーツカーらしさに高揚するかは、あたなの判断に委ねられている。
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