ボンドカー 市場に変調
最近007シリーズ最新作のタイトル、「ノー・タイム・トゥ・ダイ」が発表されたことで、思わず2006年のことを思い出すかも知れない。
ダニエル・クレイグが初のボンド役を務めるととともに、当時最新のボンドカー、アストン マーティンDBSがスクリーンデビューしたのがこの年だった。
映画の影響により、DB9をベースに生み出されたこの新型クーペは大ヒットを記録している(あるディーラーではわずか8台の割り当てに対して、30台ものオーダーが殺到したという)。
2年後の2008年には、リーマン・ブラザーズの破綻に端を発する世界的な金融危機が発生したものの、このクルマに対する需要は衰えず、これまでユーズドモデルも高値を保ってきた。
だが、DBSの市場在庫数が初めて増加し、ユーズドモデルの価格にも押し下げ圧力が掛かっているようだ。
その理由?
市場が自信を失いつつあることに加え、DBSより新しいものの、あまり人気のないアストン製モデルにおける大幅値引きの影響といったものが考えられる。
さらに、より新しくより手ごろなプライスタグを掲げたヴァンテージに比べ、DBSは時代遅れなモデルに見える。
フィッシャー・パフォーマンス・カーズでセールスマネージャーを務めるステファン・ジョーダンは、2018年2月のことを思い返している。
当時彼は、顧客が所有する2011年モデル、走行距離1万8000kmのカーボンブラック・タッチトロニックIIを11万8000ポンドで売りに出していたのだ。
「いまは買い手市場」
当初彼は11万ポンドという販売価格を提案したものの、この顧客は11万5000ポンド以下の値段では納得しなかった。
だが、結局ジョーダンがこの車両の売却に成功したのは先週のことであり、アストンとその市場動向に詳しいあるコレクターが8万5000ポンド(1211万円)でこのクルマを手に入れている。
「現在は買い手市場です」と、ジョーダンは話す。
「ある大手中古車サイトでは約40台のDBSが売りに出されています。1年前の2倍以上の数です。その結果、価格には下押し圧力が掛かっており、この状態に気付いていなかった売り手は皆ショックを受けています」
「それでも、これ以上値下がりが進むとも思えません。だからこそ、件のコレクターの方はわたしの顧客の車両を直ぐに購入なさったのです」
だが、経済の話はこれで十分だろう。
DBSの発表は2007年に行われているが、最初の車両が実際の路上にデビューしたのは2008年のことだ。
DBSはDB9をベースにしていたものの、より軽量なモデルに仕上がっていた。
セラミックブレーキとアダプティブダンパー、そして20インチホイールを備えたこのクルマの5.9L V12エンジンは、当時のDB9を41ps凌ぐ517psを発揮している。
初期のDBSはマニュアルギアボックスを備え、ふたつのシートにパーセルシェルフを組み合わせたクーペモデルであり、2+2バージョンは1万1000ポンドものプライスタグを掲げた、ほとんど誰も選択することのないオプションだった。
選ぶべきは本当に欲しい1台
だが、2011年を最後にマニュアルギアボックスは廃止されている。
2008年には6速タッチトロニックIIオートマティックギアボックスが登場するとともに、2+2のシートレイアウトが標準となった。
当時はこちらの方がより多くの顧客を集めることに成功しているが、いまでは希少なマニュアルモデルの方がより高価なプライスタグを掲げている。
2009年にはコンバーチブルのヴォランテが登場したが、エンスージァストたちの好みはクーペモデルに集中している。
さまざまな特別仕様が発売されており、2010年にはカーボンブラック・タッチトロニック(特別なペイントとホイールに加え、カーボン製ダッシュボードとサイドシルカバーを備えていた)が、そして2012年にはDBSの最後を飾る特別なモデルとしてアルティメット・エディションが登場している。
2017年、あるディーラーではわずか59台のみが生産されたこの特別なモデルに17万5000ポンドもの値段を付けていた。
だが、本当に満足したいなら、数あるユーズドモデルのなかから好みの1台を探し出すべきだろう。
2009年登録でB&Oのオーディオシステムを備えたクアンタムシルバーのマニュアルモデルを、約8万5000ポンド(1211万円)で発見している。
高ければ良いと言うものではないのだ。
UB-2010
当時アストンのトップを務めていたウルリッヒ・ベッツのCEO就任10周年を記念して、40台限定のスペシャルエディションが登場している。
アストン マーティンDBSの中古車 購入時の注意点
エンジン
初期のモデルではインテークマニホールドの振動に注意が必要だ。エンジンサウンドが不安定になるがエンジン回転そのものには影響がない。後期の車両ではマニフォールドが強化されている。
それほど多くはないが、オイルパンのガスケットから漏れが発生している車両も存在する。
トランスミッション
初期のマニュアルモデルではエンジン低回転時にクラッチから異音が発生することがあるが、クラッチパッドの材質が原因だ。
タッチトロニック・オートマティックギアボックスを搭載した車両の場合、セレクトボタンが問題なく機能することを確認しよう。
初期のモデルでは変速ミスが発生することがあり、警告灯が点灯してシステムが一時的に状態をリセットしてくれる。
ディーラーではこの問題を抱えた車両に対して、システムのリフレッシュ作業を行っている。
ブレーキ
ディスクを固定する12本のボルトの状態を確認しよう。異常発熱によってボルトが影響を受けることがあり、ディスクに歪みが発生する原因となる。
新品のボルトはブレンボ取扱いショップで購入することが出来る。
さもなければ、1万2000ポンド(171万円)もする新品のフロントディスクとパッドへの交換が必要となる。
サーキット走行を経験していない車両であれば、ディスクとパッドは最低でも11万3000kmまでは交換不要なはずだ。
サスペンション
ビルシュタイン製ショックアブソーバーではオイル漏れが発生することがあり、原因はトップシールからの異物混入だ。
後期の車両ではダブルシールが採用されている。
ボディ
水分の浸入によってドアハンドル周りの塗装に膨れが発生していないかチェックしよう。対策を行わない場合、この膨れは拡がっていく一方だ。
ヴォランテでは水分の影響で電動式のフードラッチ(非常に高価だ)が故障することがあり、正常に作動するか確認したほうが良いだろう。
フューエルフィラーキャップの裏側に水分が進入していないか確認が必要だ。トランクや燃料タンク内への水分混入の原因となる。
専門家の意見を聞いてみる
マイク・ベイトン(フィッシャー・パフォーマンス、マネージングディレクター)
「われわれは全員がアストンでトレーニングを受けたメカニックか大型ディーラーのセールス担当を経験しています。ですから、アストンのモデルについてはすべてを知り尽くしています」
「DBSには予防的なメンテナンスが欠かせません。だからこそ、大型ディーラーか十分な実績のある専門ガレージでの完ぺきなメンテナンス履歴を備えた車両であることが重要なのです」
「例えば、ディフェレンシャルに関しては4年毎のオイル交換が必須です。アストンに詳しくないガレージではこうした知識を持っていないところもあり、なかにはオイル交換を行わないように推奨するところまであります」
「8年間オイル交換を行っていないDBSを何台も見たことがあります。古いオイルは抜き出してみれば一目瞭然です。ディフェレンシャルやその他のパーツの値段は驚くほど高価です。消耗品の交換でトラブルを防ぐことが出来るのですから、決してパーツ交換などしたいとは思わないでしょう」
知っておくべきこと
アストン マーティンのTIMELESS認定中古車であれば、10年以内のユーズドモデルに対して12カ月間の保証が付与される。
原稿執筆時点で、もっとも安価なDBSの認定中古車は2010年登録、走行距離15万3000kmのオートマティックギアボックスを搭載したクーペモデルであり、その価格は5万8500ポンド(834万円)となっている。
いくら払うべき?
5万5000~7万4999ポンド(784万~1068万円)
デビューから2010年までに登録されたオートマティックモデルで、走行距離6万4000k程度の車両が候補となる。その多くがクーペだ。
7万5000~7万9999ポンド(1069万~1140万円)
走行距離4万8000km程度の2011年登録のクーペがほとんどだ。
この価格帯には希少なマニュアルギアボックス搭載車両も含まれており、2008年登録で走行距離9万7000kmのクーペを7万9995ポンド(1139万円)で発見している。
8万~8万9999ポンド(1141万~1282万円)
プレミアムなスペックを備え、人気のボディカラーの車両を選択することが出来る。
オートマティックが大多数だがマニュアルギアボックスを備えたモデルも存在する。
多くが2011年と2011年登録のクーペだ。
9万~9万9995ポンド(1283万~1425万円)
より新しいコンバーチブルと希少な2+2のマニュアルギアボックスを搭載したクーペモデルが候補となる。
2009年登録で走行距離6万4000kmの車両が9万9995ポンド(1425万円)で売りに出されている。
掘り出し物を発見
DBSタッチトロニック・クーペ、2010年前期登録、走行距離6万1000km、6万9995ポンド(997万円)
完ぺきなディーラーでのメンテナンス履歴を備えたクアンタムシルバーの車両だ。
さらに、1000Wの出力を誇るB&Oオーディオシステムと、20インチの10スポークアルミホイールを装備している。
4本とも新品のピレリPゼロを履いて、3000ポンド(43万円)ほど掛かるコイルとプラグの交換も行われている。
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