クリス・バングル氏による個性的なカタチ
約30年前に登場したフィアット・クーペ(クーペフィアット)は、鮮烈だった。今でも忘れられない、という人がいるかも知れない。そういえば、と思い出す読者もいらっしゃるだろう。
【画像】クーペフィアット 往年の130 クーペ、X1/9と比較 最新の純EV 500eも 全59枚
だが、まだ過去の記憶にするのはもったいない。大胆なデザインのイタリアン・クーペは、比較的手頃な価格で流通している。台数は、かなり限られているけれど。
クーペフィアットのスタイリングは、今も昔も個性的。好き嫌いは分かれるかもしれないが、目を引くことは間違いない。イタリアの豊かな芸術文化が、フィアット最高といえる小柄なクーペにも落とし込まれている。
まるで、走る現代彫刻作品のよう。そんなイタリアン・エキゾチックを我がものとするには、大きな経済力が求められるのが通例だが、フィアットだからそんな心配はいらない。
このボディをデザインしたのは、アメリカ人デザイナーのクリス・バングル氏。フィアットのデザイン部門、チェントロ・スティーレに在籍していた時代の作品だった。
どこか不釣り合いにも見えるが、紛れもなく美しく、心が奪われてしまう。ホイールアーチを斜めに走る鋭いラインが、そんな印象を強めている。
フィアットは当初、20世紀前半に活躍した芸術家のルーチョ・フォンタナ氏の作品から影響を受けたと説明していが、バングル自身はそれを否定している。その人物すら、知らなかったそうだ。
インテリアはピニンファリーナ社
全体的なプロポーションや、勢いよく切り落とされたテール周りの処理などには、ザガート社のスタイリングに通じる雰囲気もある。好き嫌いが分かれそうな、ひと癖ある仕上がりも。
柔らかく膨らんだヘッドライト・カバーに、クラムシェルのボンネット、丸いテールライトなど、ディティールも面白い。ドアハンドルはピラーに隠され、燃料キャップは古いスポーツカーから持ってきた部品にも見えるというコダワリぶりだった。
ピニンファリーナ社が手掛けたインテリアも同様。ボディと同色に塗られた金属パネルが、ダッシュボードやドアパネルにあしらわれていた。クルマ好きを喜ばせるデザインが、あちこちに散りばめられていた。
さらに、車内には子供が座れる+2のリアシートを完備する。実用性も低くはない。
一方で、見た目から抱く期待を少し裏切ったのが、平凡なメカニズム。当時のコンパクト・ハッチバック、フィアット・ティーポのコンポーネントが流用されていた。とはいえ、パワーは充分だったけれど。
クーペフィアットの登場は1993年。当初は2.0L 16バルブ4気筒エンジンで、英国には最高出力139psの自然吸気と、189psのターボが導入された。トランスミッションは5速マニュアル。前輪駆動は共通で、ターボにはリミテッドスリップ・デフが組まれていた。
1番人気はパワフルな20バルブ・ターボ
3年後の1996年になると、パワフルな20バルブ5気筒エンジンが登場。自然吸気で147ps、ターボで220psを発揮した。自然吸気の方は、その後に可変吸気システムを獲得。152psへ増強されている。
赤いブレンボ社製のブレーキキャリパーに6速MT、専用のボディキット、ストラットタワーバー、レカロシートを備えたVT LEなど、いくつかの限定仕様もリリースされた。1999年からターボには6速MTが標準となったが、2000年に生産は終了している。
ちなみに1番人気といえるのは、0-100km/h加速を6.3秒でこなした、見た目にそぐわない走りの後期型20バルブ・ターボ。日本へは、モデルライフを通じてターボしか正規輸入されていない。
新車時代のAUTOCARの評価は
ワイルドで爽快、素晴らしくもあり、馬鹿げてもいる。だが、それ以上のモデルだ。議論を呼ぶデザインは、写真以上に人目を引く。加えてドライビング体験も素晴らしい。筆者を信じて欲しい。
洗練され、安定していて、乗り心地も良好。近年のアルファ・ロメオやフィアット、ランチアのモデルとは、まったく異なる。ピニンファリーナ社が製造できる年間2万台という台数を、フィアットは問題なく売りさばくことだろう。(1993年11月24日)
購入時に気をつけたいポイント
エンジン
比較的堅牢で、故障は少ない。エンジンオイルの管理が不十分だったり、補機ベルトが破断すると、タイミングベルト側にも支障をきたす。
20バルブ・ターボエンジンのエグゾースト・マニフォールドはひび割れすることがあるが、溶接で修理できる。ターボエンジンの場合、クーラントホースが長く伸びており、破損するとすべてのクーラントが流れ出てしまう。通称、死のクーラントホースだ。
タイミングベルトの交換は、6年毎か11万5000km毎が英国では指定されていた。多くのオーナーは、4年毎か5~6万km毎に交換しているようだ。技術があれば、エンジンを降ろさず300ポンド(約5万円)程度で作業できる。
多くの部品はまだ入手が可能。20バルブ・ターボエンジンの方が流通量は多い。リアのABSセンサーと、16バルブ・エンジン用サーモスタットは、入手困難だという。
サスペンションとブレーキ
メンテナンス不良で、リアブレーキが不調になる例が少なくない。リアのサブルームとトレーリングアームにはブレーキパイプが固定されており、錆びがち。
リアサブフレームの腐食で、バンプストップが落ちることがある。リアブレーキのディスクガードも錆びやすい。
ボディ
サイドシル、フェンダーアーチ、アンダートレイの固定部分、インナーフェンダー、ピニンファリーナ・エンブレムの後ろ側、ラジエター前方のインナーボディ・パネル、ボンネットやサンルーフのヘリ部分は錆びやすい。
オーナーの意見を聞いてみる
デイブ・ギボンズ氏:UKフィアット・クーペ・クラブ
「1997年に、最初のクーペフィアットの20バルブ・ターボを購入。当時、そのスタイリングやパフォーマンスは他に例がないものでした。10年ほど、普段使いのクルマとして楽しみました」
「以降は大きなターボを載せたり、冷却系を強化し、ブレーキとサスペンションを交換するなど、チューニングもしましたね。その頃はチューニングメニューがいくつか用意されていて、400馬力以上も可能でした」
「でも、現在はノーマルの方が遥かに需要は高いです。年式的にサビが最大の問題。ボディは色あせやクリア層の剥離などが考えられ、再塗装が必要なことも多いですね」
知っておくべきこと
個性的なヘッドライトカバーは、見た目重視。新車時から、暗いヘッドライトに不満があがっていた。生産から30年が経過するクルマが故に、透明の樹脂は劣化し、さらに明るさが失われている。比較的安価にHIDへ交換することは可能だ。
ドアミラーは小ぶりでスタイリッシュだが、見にくい。ウインカーは、手で戻さないと消えないことが多い。ステレオユニットはクラリオン社製が標準だったが、使いにくく、別のユニットに交換されている場合も珍しくない。
エアコンやハンドブレーキ・レバー周辺の樹脂パネルは、劣化して表面がネバネバしてくる。センターコンソールに並ぶ3つのスイッチは、固定部分が壊れて、コンソール内に落ちてしまうことがある。
英国ではいくら払うべき?
2000ポンド(約33万円)~5999ポンド(約99円)
走り込まれた初期のクーペフィアットを、英国では見つけられる。多くは改造されているか状態が悪く、手を出さない方が良いものの、掘り出し物も含まれる。長い走行距離が前提ではある。
6000ポンド(約100万円)~9999ポンド(約166万円)
走行距離が若干短く、状態の悪くないクーペフィアットを英国では探せる価格帯。それでも、中には16万kmを超える例も含まれる。
多くがしっかり整備を受けており、妥当なチューニングやレストアが施されている例もある。できれば、純正状態がベターだろう。
1万ポンド(約167万円)以上
走行距離が短めで、オリジナル状態のクーペフィアットが英国では出てくる。
英国で掘り出し物を発見
フィアット・クーペ(クーペフィアット) 20Vターボ(英国仕様) 登録:1999年 走行距離:20万9200km 価格:6500ポンド(約108万円)
長めの走行距離だが、4オーナー車で状態は良い。フィアットに詳しいショップで整備を受けてきており、近年もブレーキディスクとパッド、タイヤ、タイミングベルト、テンショナーが交換されている。
2007年以降は、1人のオーナーが大切にしてきた。スペアキーのほかに、車両情報が記されたコードカードも付いている。
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エクステリアはフロントは良かったが、リアがカッコ悪いと思ってた
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