ジャガーよりランドローバーのほうが電動化は難しい
ジャガーランドローバーが2月に発表した経営戦略「リイマジン(REIMAGINE)」で、2025年以降に“100%電気自動車ブランドに移行する”と宣言したことが話題です。
まず、「ジャガー」ブランドはすでに「I-PACE(アイペイス)」というBEV(電気自動車)も市販しているので、100%電気自動車のラグジュアリーブランドに移行するといっても不思議はありません。
一方、「ランドローバー」ブランドでは、クロスカントリー4WDに求められる航続距離を電気自動車で満たせるのかという疑問もあるでしょう。それでも2024年にランドローバーとして初の100%電気自動車を、さらに2026年までに合計6モデルの電気自動車をリリースすると発表しています。
冷静に考えると、2030年時点でも4割がエンジン搭載車
ただ、冷静に考えるとランドローバーがすべて電気自動車に移行するのはまだまだ先の話かも。というのも、2030年に「ジャガーは100%ゼロエミッション化、ランドローバーは60%がゼロエミッションになる」ということは、2030年時点でもランドローバー車の4割はなんらかのカタチでエンジンが載っているわけです。おそらくプラグインハイブリッドなどを想定しているのでしょう。
とはいえ、「2039年にはジャガーランドローバー社としてゼロカーボンを実現する」という目標があるので、未来永劫ランドローバーにエンジン搭載車が残るとも思えません。ゼロカーボン、いわゆるカーボンニュートラルは「CO2排出権」の購入でも実現可能なので、エンジン車が残っていても達成できるでしょうが、製造や廃棄といった過程で排出されるCO2を考えると、商品レベルでのゼロカーボン化を実現することは必須といえます。
ですから、遅くとも2030年代の後半にはジャガーランドローバーのラインナップからエンジンを積んでいるモデルが消滅すると考えるのが妥当ではないでしょうか。むしろ部品の供給義務など、エンジン製造ラインを維持するための負荷もあるので、経営判断的には少しでも早くエンジン車をやめて、様々なコストを早めに削減したいはずです。
電気自動車に加えて水素燃料電池車も開発中
また、ジャガーランドローバーの全ラインナップが電気自動車になってしまうというわけではない、ということにも注意が必要です。今回の経営戦略では、ゼロエミッション化のバリエーションとして水素燃料電池の開発を進めていることにも触れられています。
EU圏が水素社会を目指していることは知られていますが、航続距離の長いモデルは燃料電池を用いることは既定路線。ジャガーランドローバーも燃料電池車をラインナップできるように必要な投資をしているというわけです。
世界のプレミアムブランドはゼロエミッションに向かっている
それにしても、プレミアムかつラグジュアリーブランドとしてのジャガーやランドローバーが完全電動化に踏み切ると、この段階で発表したことは非常に興味深いのではないでしょうか。
生産から廃棄まで考えたエネルギー活用やCO2排出量においてエンジンを活用したほうが効率的であるというロジカルな主張もありますが、ブランド価値という点では、そうした主張はマイナスであり、ゼロエミッションを進めるほうが有利だと判断したからに他ならないからです。
すなわち、ジャガーランドローバーが属するようなプレミアムブランドにおいては、世界のトレンドがゼロエミッションに向かっているといえるのです。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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