ドゥカティジャパンが運営する丁寧なライディング講習「ドゥカティ ライディング エクスペリエンス(DRE)」とは? 参加した田中誠司がリポートする。
万一の修理費の負担もナシ!
軽いって素晴らしい! 新型マツダ・ロードスター990S試乗記
筆者はいわゆるリターン・ライダーで、8年ほど前、あるバイクとの出会いをきっかけにモーターサイクル・ライフに戻ってきた。中型と大型、2回通った教習所で通り一遍のことは教わってきたはずであるが、もう何十年も前の話で、学んだことはすっかり記憶から抜け落ちていた。そして気づいたのは、いざ教習所の外でライディングの基本練習をしたいと思うと、意外と難しいという点だ。
まず場所がない。たとえばUターンの反復練習をしたいと思っても、誰も邪魔しない安全な舗装路面を確保するのはけっこう難しいし、パイロンスラロームができる広場などさらに見つけにくい。クルマと違って、上手な人に一緒に乗ってもらって、というわけにもいかない。
自分のバイクがピカピカであると、とくに“転んだら大変”という思いが先行して、結局必要なときしか乗らない……そんなひとも少なくないだろう。
筆者の場合、すでにボロかったバイクがなおさら傷だらけになっても、構わず乗り回すことで勘を取り戻した。
しかし、いまどきは、もっとスマートな方法もある。
それが、ドゥカティジャパンが運営するドゥカティ ライディング エクスペリエンス(DRE)ロード アカデミーである。丸1日の丁寧な講習にバイクも貸してくれて、それもあのドゥカティの新車を走らせられて、万一の修理費の負担もなく、受講料は3万円(税別)という魅力的なプログラムだ。
さらに、ドゥカティをすでに所有するオーナーに向けて、自分のマシンをサーキットで走らせるプログラム「DRE レーストラック アカデミー」も始まった。こちらは、袖ヶ浦フォレスト・レースウェイのフルコースを使ったセッション20分×4本の走行を含め、受講料7万円(同)である。
いずれも、ドゥカティ本社の認定を受けたプロのレーシング・ライダーたちがインストラクターを務め、ドゥカティ本社が2003年から運営している歴史のあるプログラムを実施する。
日本のレーストラック アカデミーのチーフインストラクターは、ロードレース世界選手権通算17勝、1993年GP250クラス・チャンピオンの原田哲也さんが務めるという、本格派ぶりだ。
最新のDREに関する情報はドゥカティジャパンの公式ウェブサイトもしくはEメール・ニュースレターから入手可能だ。
新型モンスターで体験!
このDREの「ロード アカデミー」と「レーストラック アカデミー」に参加する機会を得た。
今回、ロード アカデミーの舞台となったのは、2019年夏にオープンし、おしゃれなモーターサイクリストの交流の場となっている「バイカーズパラダイス南箱根」だ。広い駐車場に専用コースが設置された。
参加者に貸与されるドゥカティは、取り回しのよさを優先して「ストリートファイター」「モンスター」「スクランブラー」といったカウルを持たないモデルが選ばれている。筆者には昨夏にデビューしたばかりの新型モンスターが割り当てられた。
この日のインストラクターは友野龍二さんと豊田浩史さん。ともにレース経験豊富なヴェテラン・ライダーだ。ライディング・ポジションにはじまりブレーキング、パイロンスラローム、定常円旋回、コーナリングといった基礎的技術を、いくつかのチームに分かれて学ぶ。レッスンの流れとともに、そこで教わったドゥカティ流のセオリーに従ったライディングの基本を紹介していこう。
乗車姿勢は、ハンドルに手を添えながらバイクにまっすぐ立って、そのまま腰を下ろしたところが正しいヒップポイント。つまり結構シートの後方に座る。骨盤を起こして、膝だけでなくくるぶしも太ももも、しっかり引き締めてつま先が開かないようにする。グリップは、小指のほうからハンドルを包み込むように。薬指の根本でしっかり握る。
ブレーキングではフロント、リアそれぞれでの全制動を試した。この日のコンディションはセミウェットだったが、リアブレーキはかなり深く踏み込まないと止まらないし、ロックにも至らない。フロントは、濡れた路面でも予想以上に減速Gが働く。ABSが効くのは緊急ブレーキのように強く握った状況だけだ。ABSが効いて急制動に成功しても、止まった瞬間にハンドルを切っていると、その方向に身体を持って行かれるので要注意である。こうした危険なシーンはなかなか日常の運転で体験できないので、非常にいい経験になる。
次は小さな円周と大きな円周を、同じ半径を保ったまま安定してまわり続ける訓練だ。スロットルは一定のまま、ときに半クラッチを使い、リアブレーキで速度を調整する。視線の送り方によって安定性が変わってくるし、リアブレーキを使い慣れているのも大切だ。小まわりするときは、顔だけでなく胸も内側に向けるほうがバイクは自然に傾いてくれる。上手な人がやっていると本当に簡単なことのように見えて、やってみるとなかなか難しい。
ふたつの円周を使った8の字は、その円周回の延長であるが、バイクは左右で操作系統が違うこともあって、右まわりと左まわりでおなじことをするのが実は難しい。
筆者の場合、減速したあと素直にクラッチに手が伸びないのを自覚し、胸の閉じ方が左右でアンバランスであることをインストラクターに指摘された。
続いて、パイロンの振り分けを3種類用意したスラロームに挑む。ドゥカティの流儀では、スロットル開度は一定のまま、上半身と下半身の連動だけで操作する。目線をできるだけ遠くに置いて、上体から力を抜いて下半身をしっかりホールドしておくのが大事だ。直線的にパイロンを置いたスラロームは、安定して前を見ていればスキーでウェーデルンをしているような気持ちいいリズムになる。パイロンを左右に振ったケースでは、曲がるたびに次の目標を的確に捉えられれば美しい軌道を描ける。
最後は、ヘアピンカーブを模したJターン。クリッピングポイントをコーナー出口の直前に取り、そこに至るまでできるだけ大まわりしつつ、速いペースを保つのが大事。理屈ではわかっていても実践するのは難しく、挑戦しがいのある課題だ。
コース上で数々のテーマに取り組んだあとは、箱根のワインディングロードに隊列を組んで躍り出て、ちょっとしたツーリング気分を楽しんで無事終了した。
プログラムの恩恵
レーストラック アカデミーは、基本的にはオーナー自身のドゥカティを持ち込んで、レーシングスーツも自前で調達しなければならないが、筆者の場合は報道対応として特別にドゥカティジャパンからレンタルさせてもらった。前半は「ハイパーモタード」、後半は「モンスター」を走らせた。
サーキット走行の経験値に従い、4つのチームが編成された。筆者が応募したのは初心者向けのコースで、マン島TTレースや鈴鹿8耐に参戦経験があり、モーターサイクル専門誌にレビューを寄稿する伊丹孝裕さんがインストラクターを務めた。
ロード アカデミーと同様、最初はライディングポジションの教習から。走り出してしまえば路面に足を着かないサーキットでは、リアのトラクションを感じるためにヒップポイントはさらに後方に置く。骨盤を立てて安定させ、猫背の姿勢になるのは前回習ったとおりだ。
もうひとつのポイントは、両足のステップを土踏まずではなく拇指球で踏むこと。こうすることでより細やかな動きが可能になった。
正しいポジションを採り、曲がりたい方向に身体を向ける。そうすると自然に内側のひざが開き、外側の膝がしっかりニーグリップする。外側のステップをしっかりと拇指球で踏みしめ、くるぶしでフレームをつかまえる。特に意識をしなくても、バイクが自分で曲がりたい方向に向かい、要所をしっかり押さえているのでとても安定した姿勢で、安心してコーナリングを楽しめるのだ。
こうした基礎練習に、ドゥカティはとても向いていると伊丹インストラクターは話す
「低速トルクが豊かなので、ギアやエンジン回転数にとらわれず、ライン取りと正しい乗車姿勢に集中することができます」
筆者としては、試した2台ともクイックシフターを装備していて、クラッチ操作に気を取られず走らせられることがこういうシーンではありがたかった。
この日の初級クラスではブレーキをあえてほとんど使わず、ライン取りと乗車姿勢をしっかりマスターすることに集中した。それでも、逆バンクのまま丘を乗り越える5・6・7コーナーは相当スリリングだし、ヘアピンではバイクというのはなかなか思ったように曲がらないものだと思い知らされた。
ランチタイムには、我々の世代のバイク好きにとって、世界的なスーパースターである原田哲也チーフインストラクターと会話を交わすこともできた。
「(自宅のある)モナコで僕はドゥカティ・スクランブラーに乗っています。ツーリングにもよく行くので、現在のドゥカティのラインナップで僕じしん、いちばん好みなのはモンスターですね。エンジンも扱いやすいし取り回しも楽。いまは『勝つ』ことから離れて、バイクとそのほかのレジャーを同時に楽しむ、ということの普及に熱意を注いでいます。だからDREを通じて、バイクを楽しく乗ってほしい、そのために安全に乗っていただけるようサポートしていきたいです」
DREのふたつのプログラムを通じて、現代のモーターサイクルの性能に即した、正しい走らせ方をとても要領よく学べた。
東京へ戻って自分のバイクと向き合っていても、以前よりずっと落ち着いて、安心していられることに気づく。バイク人口がふたたび上向き始めた現在、より多くの人がこうしたプログラムの恩恵を受けられることを願いたい。
文・田中誠司
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