マツダが2014年から毎年開催しているメディア向け雪上取材会が、厳寒期真っ只中にある北海道・剣淵試験場で開催された。この取材会では毎回必ず、一つの技術的テーマが設けられているが、4回目となる今回は「躍度(やくど)」。人が乗り物に乗った時、そして運転・操縦した時、その乗り物が快適に思うのか、不快に感じるのか。それを大きく左右する、“動きの感じ方”の指標について学習・体験した。
そもそも「躍度」とは何か。「G」を単位として数値化される「加速度」が速度の変化率を表す指標であるのに対し、「加加速度」とも「Jerk(ジャーク)」とも呼ばれる「躍度」は、加速度の変化率。単位は「G/s」で表現される。つまり、1秒間でどれだけ勢いよく駆動力・制動力・旋回力が増減したかを表す数値と言えるだろう。
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マツダ走行・環境性能開発部の井上政雄氏は、躍度の高低に関する具体例として、比較的身近な公共交通機関であるバス、鉄道(山手線、地下鉄、新幹線)、旅客機を例示。つり革・手すりにしっかりつかまっていなければ加減速や旋回の度に倒れそうになるバスや山手線を「躍度が高い」、絶対的な速度や加速度は高いものの走行中に客室内を立って歩くことができる新幹線や旅客機(離着陸時を除く)を「躍度が低い」ものとして、分かりやすく説明してくれた。
これを、乗用車の運転に置き換えるとどうか。端的に言えば、アクセル・ブレーキ・ステアリングの操作が雑で、加減速・旋回Gの立ち上がりが急激で、同乗者を車酔いさせてしまいそうな運転が「躍度が高い」運転、その逆が「躍度が低い」運転となる。
だがこれには、どれだけクルマがドライバーの「意のまま」に動いてくれるか、具体的にはアクセル・ブレーキの踏み応え、ステアリングの手応えといった操作感と、それによって発生する加速度・躍度をどれだけ一致させられるか、というクルマ側の資質も大きく影響する。そのため「人馬一体」を全車共通の走りのコンセプトに掲げるマツダでは、「躍度」を「意のまま」の走りを実現するうえで重要な指標の一つと捉え、各車の走りを作り込んでいる。
雪国や雪道では、ドライバーは厚着・手袋・雪靴を身に着けた状態で運転することが多く、舗装路に対しクルマの挙動を感じ取りにくくなる。その一方、路面や景色は真っ白で遠近感が掴みにくく、しかも吹雪やアイスバーン、見通しが悪い交差点、除雪され狭くなった車道など、走行環境が目まぐるしく変化するため、ドライバーは常に全神経を運転に集中させなければならない。だからこそ、「躍度」の重要性を最も体感しやすいステージとして、雪吹きすさぶ冬の北海道が選ばれた、というわけだ。
各メディアに用意された走行メニューは「一般道走行」「オートテスト」「躍度テスト」の3つ。操作速度と躍度の関係、車両特性と躍度の関係を、走る・曲がる・止まる・の各項目に分けて体感する「躍度テスト」については、現在販売中のモーターファン・イラストレーテッド(MFi)136号で、同編集部の野崎博史さんが詳しくレポートしてくれているので、ここでは「一般道走行」と「オートテスト」のインプレッションをお届けする。
最初のメニューとなった「一般道走行」は、郊外のワインディングを中心にJR士別駅周辺の市街地を含む片道約35kmのコースを、折り返し地点でCX-8あるいはCX-3へ乗り換えながら走るというもの。同時に走る4媒体に割り振られた試乗車はCX-8が2台ともディーゼルの4WDで、CX-3はエンジンこそ2台ともガソリンではあるものの、駆動方式は1台が4WD、もう1台がFFというラインアップだった。
それを聞き、出発前から試練の予感がプンプン漂うのを感じていたら、案の定CX-3のFF車が最初に割り振られるというクジ運の悪さ。失意のうち外に出れば猛吹雪の大歓迎を受け、苦難の旅路となること間違いなし、と及び腰になった筆者は「先に写真、撮れるだけ撮りますから」と早々に後席へと逃げ、CX-3のステアリングを野崎さんに託した(ゴメンナサイ!)。
しかしながら、いざ走り出してみると、猛吹雪のおかげで歩道との境目が判別できないほど視界は悪いものの、新雪が降り積もった路面のコンディションは良く、スタッドレスタイヤを装着しただけのFF車ながら、上り坂でもしっかりとグリップしスムーズに加速していく。
士別駅付近で運転を交代し市街地でステアリングを握ると、交差点の手前や橋の上などアイスバーンと化している場所では路面の変化に敏感なCX-3の特性が顔を出すものの、その動きに唐突さはなく、スリップしそうな状況になっても余裕を持って対処できる。
しかも、アクセルペダルの操作に対してクルマがリニアに加速してくれるため、不必要にトラクションをかけすぎてホイールスピンを起こすことがない。雪道に不慣れな筆者ですらこうなのだから、雪国に住む人ならばより一層余裕と自信を持って運転できることだろう。
やがて折り返し地点にたどり着き、試乗車をCX-8のディーゼル・4WD車へスイッチ。ドライバーもMFi編集部の野崎さんへ再度交代し後席に座ると、後ろの席ほどフロアとヒップポイントが高いスタジアムシートのおかげで視界が広いこともあり、加速・減速・旋回とも安定感がCX-3よりもさらに数段高く感じられる。
また、ワインディングで攻めた走りを試しても、前輪スリップ予兆検知システムを持つCX-8の「i-ACTIV AWD」が前後の駆動力を巧みに制御するため、四輪で曲がる感覚を乗員に伝えながらもクルマの挙動は破綻せず、オンザレールでコーナーをクリアしていく。
その安心感は上り坂での加速においても変わらない。CX-3ガソリン車の192Nm/2800rpmに対し450Nm/2000rpmと、2.5倍もの最大トルクを発生するCX-8は、たとえ4WD車でも神経を使うだろう……と思いきや、3000rpmまで回してもホイールスピンせず、怒濤の勢いで加速していった。
そして、CX-3と最も大きく異なったのは、アイスバーン混じりの市街地。轍やスプリットミュー路ではやや神経質な面が見られたCX-3に対し、CX-8はものともせず矢のように突き進む。二回り以上大きなボディサイズが有利に働いているのは言うまでもないが、デビューからすでに3年が経過しているCX-3に対し、今まさに発売されたばかりの最新モデルであるCX-8には、「躍度」を重視したクルマ作りがより色濃く反映されているように思えた。
その後、イギリス発祥のエントリーモータースポーツで、近年は日本のJAFも開催している「オートテスト」に、規定の躍度を超えると2秒のペナルティが課せられるなどの特別ルールを追加したマツダ版「オートテスト」にチャレンジ。
複合コーナーにスラローム、270度ターンに車庫入れまで含まれた雪上コースを、FF車のデミオ15MB、FR車のロードスターRS、4WD車のアクセラスポーツ15S Lパッケージの3台(いずれもMT車)でタイムアタックしつつ、挙動特性とコントロール性の違いを体感した。
FF車のデミオは、発進加速とタイトターンにおけるトラクションの不利を、いかに繊細なアクセルワークで滑らせず加速できるかが最大の肝。またスラロームでは、ヨーとロールを進入時にしっかり起こしてタックインを発生させ、舵角を最小限に抑えられるかが、タイムアップのカギとなる。筆者は2回のタイムアタック中に、特に発進加速の限界を見極めきれず、ベストタイムは1分9秒0と振るわなかった。
FR車のロードスターは、アクセルオンで向きを変えやすいことが美点であると同時に欠点でもあり、いたずらに滑らせすぎれば瞬く間にタイムロスする。ベストタイムは1分6秒0。だがそのタイム以上に、コントロール性の高さがもたらす抜群の走りの楽しさが光った。
今回の主役となる4WDのアクセラは、唯一躍度オーバーによるペナルティの対象となる一方、最速タイムを出したドライバーにはプレゼントが与えられるとあって、参加者の誰もが真剣そのもの。
加速時のトラクションでは最も有利なものの、その勢いが余りあると、その後のコーナー侵入で突っ込み過ぎるリスクを背負う。しかし、FF車ベースのスタンバイ4WDながらフィードフォワード制御が入る効果もあってか、ロードスターほどではないもののアクセルオンで向きを変えることができた。と同時に、直進時・旋回時を問わず最も安定性が高く、安心してコースを走ることが可能だった。
ベストタイムは3台中最も速い1分3秒87。この日に参加した8媒体の中では3位という結果となった(1位は1分1秒28の一条孝さん)。
いかに躍度の高い走りをせず、スムーズに走らせることができるか。それは、あらゆるクルマとドライバーにとって永遠の課題である。マツダのクルマ、それもCX-8を筆頭とした最新モデルはすでに、躍度の発生を最小限に抑えて走れる素質を高い次元で備えている。
無論これからも、マツダのクルマは進化を続けるだろうが、さらに言えばドライバー、それもクルマ好きだけではなくごく普通のドライバーの、スキルアップを促す仕組みも構築してほしい……と願うのは欲張りすぎるだろうか?
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