古き良きメルセデスの代表作。R129と呼ばれるこのモデルこそ上品な雰囲気をまとう最後のSL
なかなか状態の良い候補車がなくて困っていたところ、またまた長年探してきたモデルを見つけました。
松本 購入しやすい価格になると良好な物件はすぐ売れちゃうからね。で、どんなモデルだい?
——R129のSLです。色もいい感じの1台です。
松本 連載開始当初は王道というか、鉄板すぎて候補に挙げにくかったモデルだね。よく見つかったじゃない?
——R129より古いモデルは名車中の名車ですけど、R129はまだ微妙な立ち位置だからこの企画にはピッタリかなと。あ、こちらの車両が今回の撮影車です。
松本 いいじゃない。この色が。
——こんな色の設定があったんですね。そもそもなんでRなんです? 慣例からいくとW129でもいいような……。
松本 W129って言う人もいるみたいだけどね。でも、本当は「W」の型式が入るSLは2代目までなんだ。それ以降3代目からSLはR107やR129っていうんだよ。
——なるほど。それは知りませんでした。 松本 ボクはR129、すごく好きなんだ。その理由はSL の中で上品な雰囲気をもつ最後のモデルだから。R129以降のSLも運転すればとてもメルセデスらしくていいんだけど、個人的に威圧感がありすぎるというか、なんかどうしても「オレさま感」を感じてしまうんだよね。R129の先代がR107というモデルなんだけど「アメリカン・ジゴロ」っていう1980年公開の映画に出ててね。主人公のリチャード・ギアがビバリーヒルズやマリブあたりの西海岸を走るんだけど、まぁどこ行ってもスマートな雰囲気なんだ。アルマーニのソフトスーツが似合っていたね。ボクの記憶ではこのあたりからアルマーニの快進撃が始まったんじゃないかな。
——確かにSL、というかメルセデス・ベンツのオープンカーってあの映画の印象が強いですよね。
松本 でしょ? そしてこのR129のSLもその雰囲気が強く残っているんだ。デザインは泣く子も黙るブルーノ・サッコだね。
——190E(W201)とかを作ったデザイナーですね。
松本 そう、メルセデスのデザイン史において非常に重要な役割を担った名デザイナーだね。 ——しかしワインレッドのSLって……。カッコイイですね。
松本 ホントだね。SLのイメージに合う色だよ。バンパーからリアにかけて色が違うと思うんだけど、サッコプレートと呼ばれる処理がされてるからだね。嫌みがなくて野暮ったくなくスマートに見える、今見ても素晴らしいデザインだよね。幌を畳んだスタイリングもいいけどハードトップの形もいいんだ。
——この時代らしいですよね。
松本 ダイアナ妃も乗っていたんだよ。ワインレッドのハードトップ仕様を。
——あー写真で見たことあるかも……。
松本 ちなみに96年式だとSL500っていうけど93年までは500SLという表記なんだ。93年までは昔ながらのイメージ方針だったわけだね。
——性能とか作りはどうなんですか?
松本 プラットフォームはW124のショートホイールベース仕様をさらに短くして強靭なシャシーに作り替えてあるんだ。記憶だと、このSLから電子制御のサスペンションを取り入れていたはずだよ。これは96年式だから、機械式からデジタル式のオドメーターになったモデルだね。この当時のメルセデスのメーターって、航空機のようなヘルべチカの文字とオレンジ色の針がパイロットウオッチのようでね。とてもいいデザインなんだよ。
——走りもめちゃくちゃいいですよね。
松本 そうなんだ。初期のモデルは4速ATだったけど96年式だと5速ATになってるしね。個人的にはSL320直列6気筒モデルが好みなんだけど、人気があるのは大排気量モデルなんだろうね。SL500はV型8気筒を、SL600 はV 型12気筒エンジンを搭載していたんだ。どっちもとても良いエンジンで、さらに上にはAMGのSL73があって7.3Lで525馬力もあったんだ。
——現代では考えられないすさまじいバリエーションと言えますね。じゃあサスペンションも同時代のW124に倣っているわけですか?
松本 そうだよ。メルセデスのお家芸ともいえる5リンクのマルチリンクサスペンションを採用していて、その先駆者だったんじゃないかな。
——なるほど。そりゃ走りがいいわけです。
松本 その後の他社を見れば一目瞭然だよね。マルチリンクは可能性を秘めていたからこそ、メルセデスは積極的に採用したんだよ。
——確かこの車ですよね? 横転してロールケージが飛び出すの。
松本 そうだよ。安全性を確保しながらこのデザインを作り上げている。素晴らしいよね。当時、どこに入ってるんだろうと、一生懸命あちこちに頭を突っ込んで探してみたこともあったよ(笑)。
——あ、ぼくもそれやったことありますよ(笑)。
松本 その時にすごいと思ったのがシートだったんだ。シートとシートベルトのピボット部分が一体になっていてね。今じゃ珍しくないけど当時は最新だったね。マグネシウム合金のシートフレームって聞いて、裏に手を入れて確かめたりして。若かりし日の好奇心だったね。次世代を見据えた最新の技術が投入された車だったからね。
——今後は値段、上がりそうですね。
古き良きメルセデスとたとえられる時代の代表作だからね。その可能性はとても高いと思うよ。
メルセデス・ベンツ SL500
1989年に4代目として登場した、ラグジュアリーオープンモデル。ロングノーズ&ショートデッキという往年のFRスポーツらしいスタイルを備える。モデル初の電動ソフトトップを採用、ハードトップも用意されていた。 ※カーセンサーEDGE 2021年4月号(2021年2月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています文/松本英雄、写真/岡村昌宏
【取材協力】HumbleカーセンサーEDGE.netはこちら
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みんなのコメント
そろそろ買わないと本当に乗れなくなりそう。