メルセデス・ベンツは、東京モーターショー2019のため、未来のラグジュアリー・セダンを持ってきた。その名は「Vision EQS」。手がけたデザイナーが来日したのを機に、ショーでの公開前に取材が実現した。
Vision EQSは、さきに日本でも販売開始されているピュアEVのクロスオーバー「EQC」に連なる名前から連想できるように、ピュアEVである。既存のメルセデス・ベンツのモデルでいえば、Sクラスに位置するコンセプト・モデルだ。
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Vision EQSのボディサイズは不明。現行「Sクラス」並みかそれ以上のようだ。Vision EQSとともに来日したのは、Holger Hutzen Laub氏。1994年からメルセデス・ベンツ車のデザインを手がけ、現在はメルセデス・ベンツのアドバンス・スタジオのヘッドを務めるひとである。
「今回、東京に持ってきたVision EQSはコンセプト・モデルですが、80パーセントから90パーセントの確率で市販化されるのではないでしょうか?」と、撮影時に述べた。
Holger Hutzen Laub氏は、現在、メルセデス・ベンツのアドバンス・スタジオのヘッドを務める。ダイムラー・ベンツ(当時)への入社は1994年。「W211」と呼ばれた3代目「Eクラス」(2002年)や、「R230」の5代目「SL」(2003年)のエクステリアを手がけたあと、「W221」の5代目「Sクラス」(2005年)のプロダクト・マネジャーを務める。2009年にアドバンス・デザインに移り、横浜(当時)にあったデザイン・スタジオに2009年から2012年まで勤務(ジェネラル・マネージャー)。2012年末、スタジオが横浜から中国・北京へ移ったとき、多くのスタッフは北京へ異動したが、Laub氏は独・シュトゥットガルトにある本社のデザイン・スタジオに戻り、現在にいたる。東京の街中にVision EQSが!取材時、Vision EQSは東京・港区の天王洲アイルにある撮影スタジオのなかにあった。
とはいえ、せっかくの取材機会である。我々は欲を出し、「スタジオの中で撮影しても、東京でわざわざ撮影する意味が感じられない、外に出してほしい」と、リクエストした。
Vision EQSの駆動システムは4WD。すると、「30分だけ、外に出しましょう!」と、嬉しい返事があった。私が往々にしてメルセデス・ベンツで感心するのは、こういった場合、ジャーナリストやメディアに対し、真摯に向かい合ってくれる点だ。我々のリクエストを聞き入れてくれた結果、Vision EQSは東京の空の下に、運び出された。
Vision EQSは、現行「Sクラス」のロング・ホイールベース版に近いボディサイズ。ワンモーションの弓型のシルエットや灯火類をはじめとして凝りに凝ったディテール、24インチの大径ホイールなど、あらゆる点が斬新だ。たちどころに通行人が「なんだこのクルマは!?」と、スマートフォンを片手に集まってきたのも頷ける。
歩行者の多くが立ち止まり、まじまじとVision EQSを見ていた。「うわ、走るんだ!」と、見物者たちから驚きの声があがる。
Vision EQSはピュアEVであり、コンセプト・モデルながら2基の電動モーターを搭載する(発表では、静止状態から100km/hまでに要する時間はわずか4.5秒)。ピュアEVだから、音もなく、建物の車寄せを移動していく。
Vision EQSは走行可能なコンセプト・モデル。航続距離はWLTPモードで700km。ピレリ社製のタイヤは24インチ!東京モーターショー2019に出品するにあたって、インテリアが作り込まれたという。Vision EQSとして、はじめてインテリアがお披露目されるのだ。
なかでも、青色LED内蔵の白いレザー・シートは特徴的だ。
インテリアはシンプル。本来、インフォテインメント用のセンターディスプレイが備わるというが、取材時はなかった。ユニークな形状のステアリング・ホイール。シート表皮は人工皮革「レザーDINAMICA」。いきすぎない斬新さ「Vision EQSは、ボディ周囲を360°取り巻くライト、940個のLEDを使ったブラックパネルグリル(EQシリーズのフロントグリル)、229個のLEDを使ったリア・ランプ、デジタルヘッドライトなどの新技術を搭載しています。とりわけ重要なのは、これら灯火類を、通行人などとのコミュニケーション手段として使う点です」
Laub氏は、精密に作りこまれたランプ類をいちいち指さしながら、解説する。各灯火類はシーンに応じ、変色していく。
灯火類が全灯状態のVision EQS。特殊なヘッドライトは、点灯部分のデザインが変わる。229個のLEDを使ったリア・ランプ。「Vision EQSのテーマは、将来のクルマ、それもラグジュアリー・セダンの可能性を広げることです。たとえばスタイリングは、現行Sクラスのように、独立したトランクを備えた、いわゆるオーソドックスな“3ボックス”のボディも当初は考えました。しかしEVの場合、バッテリーの搭載などによって車高が高くなりがちなので、3ボックスにすると、シルクハットに車輪がついているようなデザインになってしまうため、採用を見送りしました。スタイリッシュではないからです(笑)」
最高速度は約200km/h。リアシートは独立タイプ。ルーフは一部ガラス製だった。ただし、「斬新さには、限界を設けました」と、Laub氏は続ける。
「“ワンボディ”と呼ぶスタイリングや、2トーンの塗り分けは斬新なデザイン手法かもしれませんが、革新的とはいえません。ただし我々は、あえて革新的なデザインは採り入れませんでした。スタイリングが斬新すぎては、従来の顧客が離れてしまう可能性が高いからです。したがって、全体のプロポーションは、現行のラグジュアリーモデル(SクラスやCLS)を意識しました」
最高出力は約350kW、最大トルクは約760Nm。現行Sクラスは、2020年にフルモデルチェンジが予定されている。とうぜん代替燃料車も計画に入っているだろう。そのとき、ひょっとしたら、今回のVision EQSが投入されるのかもしれない。
と、思いLaub氏に訊くと、「それはまだ早すぎるでしょう」と、述べた。
「とはいえ、いわゆる“デジタル・ラグジュアリー”は、これからの高級車にとって必須になるでしょう。Vision EQSが有するいくつかの要素は、次期型Sクラスにも採用されるのではないでしょうか」と、ヒントをくれた。
Vision EQSは、“技術革新”“責任”そして“強烈な魅力”を重要視するメルセデス・ベンツらしいコンセプト・モデルだった。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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