ラップタイム短縮が最大の目標寿命は短くてノイズは大きい
メーカーが純正採用しているような「一般的なタイヤ」とレースや競技に使われる「Sタイヤ」。大きく分類すれば、両者とも同じラジアルタイヤに属する。だが、モータースポーツという観点から見ると両者は完全に区別できる。まず、「Sタイヤ」という呼び方について。諸説はあるが、セミレーシングの頭の文字をとって「S」が使われているそうだ。
タイヤ規定が厳格に守られてレースが激化【TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race 2017】
レーシングタイヤとは、すなわちスリックタイヤが代表的。トレッド表面に一切ミゾがない、ドライ路面用のレース専用タイヤだ。見た目はもとからツルツルのため、一般公道では使用できない。スリックタイヤは表面が柔らかくできていて、走行中の発熱によって溶けたゴムが路面と吸着して強力なグリップを発生。そのゴム表面を構成しているのがコンパウンドと呼ぶ。このスリックタイヤは、レース中の路面コンディションや作戦に合わせて使い分けができるように、ハード、ミディアム、ソフト、さらには予選用(スーパーソフト)のように数種類のコンパウンドが用意されている。
一般公道でも使用することが可能なSタイヤ
「Sタイヤ」はまさにこのレーシングタイヤの流れを汲むもの。これを一般道でも使える規格に落とし込んでおり、レーシングに対するセミレーシング(セミスリック)という位置づけになる。また、一般道でも走れる規格のタイヤでありながら、乗り心地、静寂性、耐久性よりも、レースや競技で勝つこと、モータースポーツでの使用を目的としたタイヤなのである。モータースポーツ界では、この「Sタイヤ」と一般的なタイヤとを区別するために、Sタイヤ以外のタイヤをラジアルタイヤと呼んでいる。なぜなら、分かりやすい例が最近、人気の86&BRZのワンメイクレース。実は、このレースの規則でスリックタイヤやSタイヤの使用が禁じられている。これはワンメイクレースという性格上、車両やタイヤによる性能差をなくし、タイヤによるコスト増を抑え、エントラントが参加しやすいように配慮がなされているためだ。86&BRZレースを例に挙げると、車両規則により使用できるタイヤは4メーカー(クラブマンは5メーカー)の指定銘柄のハイグリップラジアルタイヤに限定され、「Sタイヤ」の使用は禁止という以外に厳しい規定がある。ちなみにハイグリップラジアルは「Sタイヤ」ではないので、同一銘柄で複数のコンパウンドを持たない。予選も決勝も、ドライでもウェットでも、寒い日も暑い日も一種類のタイヤがそれを担うわけだ。ハイグリップタイヤのコンパウンドそのものは、いまや「Sタイヤ」と同じ領域になってきている。大きく違うのは、タイヤの表面パターンとケース剛性。ハイグリップラジアルタイヤには、さまざまな路面状況に対して効果のあるトレッドパターン(タイヤ表面のミゾ)が複雑に刻まれるが、「Sタイヤ」はグリップが優先されるので、ミゾは極力少なくしてトレッドパターンは大きなブロックの集まりになるようにデザインされている。
また、その大きなブロックを支えるために、「Sタイヤ」のケース剛性は硬くなる方向、一方のハイグリップラジアルの剛性は柔らかくなるというよりも、タイヤの構造そのものでグリップ力を高めようと、最先端技術が導入されているのだ。
タイヤ表面のミゾによる接地面積の違い
ラジアルとSタイヤ、両者の違いを簡単に言うと、タイヤのミゾが多いか少ないかの接地面積の違い。そして「Sタイヤ」はタイヤ表面のゴム質、すなわちコンパウンドでグリップ力をコントロールするのに対して、ハイグリップラジアルタイヤは接地面積が限られてくるのため、タイヤの構造そのものでグリップ力を高めていると言える。また、グリップ力は勝るものの、ラジアルタイヤに比べて寿命が短く、経年劣化が早く、ノイズも高い傾向だ。
ちなみに、86&BRZレースが登場して以降、国内大手のタイヤメーカー間のグリップ戦争が激化しているそうだ。レースに勝つために、短い周期で続々とハイグリップラジアルタイヤがアップデートされ、レースファンにとっては注目すべき技術争いやタイヤテクノロジーの進歩をリアルタイムで見られる。その一方で、レースに出場する選手やチームにとっては新しいタイヤが出るたびに、それに合わせたセッティング変更や事前テストが必要になるため、結果的にコスト増になっているのでは?……と費用負担を心配する見解も少なくない。空気入りゴムタイヤが100年ちょっと前に発明されて以降、レースがタイヤを大きく進化させてきたが、現代でもその状況が続いている。レース(モータースポーツ)はやっぱりオモシロイし、タイヤは奥が深すぎる。クルマが地面に接地しているのは4つのタイヤのみ。しかも面積にしてごくわずか。そんな話をし出すとキリがないのでまた別の機会に。
(レポート:岡田幸一)
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