シーズン途中でアップデート版を投入
往年のレーシングマシンが鈴鹿サーキットに集結する「RICHARD MILLE SUZUKA Sound of ENGINE」で改めて魅力を感じさせられたクルマが『プジョー905』だ。より正確に言うならば、905 evo1 bis。”bis”はフランス語で2番目の意味があり、いわばevo1の改良モデルである。
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evo2というモデルもあるから、evo1改、あるいはevo1.5とでもいうべき立ち位置のマシンで、昨年に姿を見せた個体はシャシーナンバーがEV14という、2018年のル・マン・クラシックにも参戦した現役ランナーだ。
プジョー905がデビューしたのは1990年シーズンも終盤を迎えた第8戦・モントリオール。この時は燃料ポンプのトラブルでリタイアに終わり、続く最終戦・メキシコでは13位完走を果たし、本格参戦となる91年シーズンを迎えることになる。
しかし、この91年シーズン開幕戦において最大のライバルと目されていたジャガーが、それまでの常識を覆す、革新的なコンセプトのマシンを投入。これを見たプジョー・チーム率いるジャン・トッドは、改良型マシンの開発を決断。シーズン前半を、ボディの軽量化とエンジンのパワーアップなどでアップデートした905 evo1で戦いながら発展モデルの905 evo1 bisを開発することになった。
実際のところ、開幕戦の鈴鹿ではマウロ・バルディ/フィリップ・アリオー組が優勝を飾ったものの、第2戦・モンツァ、第3戦・シルバーストンではジャガーが優勝。メルセデス(ザウバー)にくわえ、プライベートチームのスパイス・フォードにも先行されるありさまで、結果的にトッドの判断は的を射ていたことになる。
その905 evo1 Bisはル・マン後に完成し、第5戦のドイツ・ニュルブルクリンクでデビューしている。エンジンの両サイドに抱え込んだラジエターへのクーリングエアをフロントのノーズ下から取り入れてボディの中を通す独特の手法を改め、ノーズの上からコクピット両サイドに流してサイドラジエターに導くように変更。この時期のスポーツカーとしてはコンサバな手法を取り入れるなど、カウルワークが一新された。
さらに切り詰められたノーズの前方に1枚モノのフロントウイングが追加されるとともに、リアウィングも大型の2段式のものに取り換えられていた。
デビュー戦となったニュルブルクリンクで905 evo1 Bisは、半年先行してデビュー、熟成されていたジャガーの予選1-2を許したものの、僅差の予選3~4番手につけ、決勝ではエンジントラブルとアクシデントで2台ともリタイアしたが、速さの一端を見せ、まずまずの滑り出しを見せた。
ちなみに、このニュルブルクリンクでデビューし予選4位、決勝ではエンジントラブルでリタイアしていたのがEV14、つまり今回のSSOEに登場した個体だ。
続く第6戦、地元フランスのマニ-クールで予選1-2を独占し、決勝でも1-2フィニッシュを達成。ポテンシャルの高さを証明した905 evo1 Bisは、続く第7戦のメキシコ・シティでも1-2フィニッシュで連勝。
最終戦の日本のオートポリスではメルセデス(ザウバー)と2台のジャガーに先を越されて表彰台を逃し、シリーズタイトルを手に入れることはできなかったが、その速さと強さは、自他ともに認めるところとなり、翌年に期待を繋いでいる。
こうして迎えた92年シーズン、905 evo1 Bisはそのパフォーマンスをいかんなく発揮した。開幕戦のモンツァこそトヨタに敗れはしたものの、第2戦のシルバーストンで勝って以降、第3戦のル・マン24時間、第4戦のドニントン、第5戦の鈴鹿、最終戦のマニークールと5連勝。念願だったスポーツカーによる世界選手権でチームとドライバーのダブルタイトルを獲得することになった。
この92年シーズンでスポーツカーによる世界選手権は終焉を迎えたが、翌93年、905 evo1 Bisはスポーツカーレースのひのき舞台として知られるル・マン24時間レースに参戦。表彰台を独占して現役から引退するとともに、グループCレースに終止符を打っている。
公称出力は670馬力
オリジナルの905/905 evo1に比べると、随分とモダンなレーシングカーらしい、コンサバなルックスとなった905 evo1 bis。それでも、ドイツやイギリスのライバルに比べると、紛うことなきフランスの薫りが漂う。
905 evo1 bisをチャンピオンへと導く、文字通りの原動力となったSA35-A2エンジン。905/905 evo1が搭載していたA1は、このプロジェクトのために新規開発されたユニットで3.5リッターの80度V10は、当然将来のF1進出をも見越していたはず。A2エンジンはA1エンジンをブラッシュアップさせたもので、公称出力は670馬力だった。それにしても新世代グループCは、幅広のモノコック(バスタブ)を別にすれば、まるでフォーミュラ・マシンのように映る。
2座席とは言うものの、コクピット両サイドに設けられた空気の“通り道”が広く設定されているから、意外に狭くなっている。窓枠に囲まれたサイドウィンドウのみが開閉するタイプゆえ、コクピットへの乗り降りは大変そうだ。それにしてもロールケージのフロントバーに取り付けられているバックミラーが微笑ましい。
ノーズの先端に追加された1枚モノのフロントウイング。905/905 evo1で不足気味だったフロントのダウンフォースを稼ぎだすための策だったが、同時にドラッグ(空気抵抗)も増えることになり、正に痛し痒し。結局、他のサーキットで行われるスプリントではそのままで、ル・マンではこれを外したドラッグレス仕様で戦った。
コクピット両サイドに設けられた空気の“通り道”。グループCのパッケージを論理的に組み立てて行くと当然の帰結だ。グループCの後継となる現在のLMPでも、ボディサイド部分の考え方は基本的に同じ。ただしフロントの処理はまったく異なっている。空力を追求していった結果だが『現在のマシンは風洞(空力)がデザインする』はけだし名言だ。
90年のWSPC第8戦・モントリオールにデビューを果たした、シリーズの“長兄”となる905。グループCのレーシングカーと言うよりも、まるでコンセプトモデル。ル・マン・サーキット博物館で2012年に撮影。
これはプジョー博物館で出逢った905 evo1 bis。展示プレートには『Peugeot Type 905 Evolution 1.7』とあり、これが正式名称とも思われるが、世間一般では『evo1 bis』の方が通りがいい。あくまで個人的な印象だが…。
プジョーが93年シーズンに向けて開発していた905 evo2。一般的には“Supercopter”の愛称でよく知られている。まるでフォーミュラカーのようなノーズと、全く別体でそれぞれのフロントホイールをカバーする左右フェンダー。近年のLMP1にも通じる空力理論でまとめられたデザインだ。ただし美しいとは言い難いのも事実!
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