コンピューターグラフィックスを用いたアニメ、『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』など多くのヒット作品を制作しているピクサー・アニメーション・スタジオ。
そのピクサーが手掛け、多くのファンに愛されているクルマが主役の作品が『カーズ』だ。今回は出てくるのはクルマだけというクルマ愛にあふれた作品を紹介しよう!
GRスープラが「レゴ」で爆誕!! トヨタとの初コラボはそっく…り…??
文/渡辺麻紀、写真/ディズニープラス、Toyota、Ford
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■自動車が主人公!! 人間がひとりも登場しない異色のアニメ
マックイーンのデザインのベースとなったフォードGT40。改良型のマークIIは1966年のデイトナ24時間で優勝するなど活躍した
これまでも車が主役的な役割を果たし、大きな存在感を発揮している映画を紹介してきたが、今回の作品はまさに車が主人公。人間はひとりも登場しない、車だけで作られた異色のアニメーション、『カーズ』だ。
製作はお馴染みのピクサースタジオ。監督と共同脚本は同社の設立メンバーのひとり、ジョン・ラセター。彼の車好きが嵩じて作られた入魂の1作だ。
登場キャラクターは全員車。車だけの世界を舞台に、がむしゃらに優勝を目指す若きレースカー、ライトニング・マックィーンの成長が描かれる。
そのキャラクターはフロントガラスが目元、ボンネットが鼻、バンパーが口というデザインで、子どもっぽくはある。だから公開当時、子ども、とりわけ少年たちが大喜びし、グッズが飛ぶように売れたというのも当然だろう。
が、それでも、本作の本当の良さを判るのは大人なんだと思う。なぜなら、かわいい車のキャラクターたちが、「ちょっと走るのを止めて、ひと休みしませんか?」と語りかけてくるから。
野心しかない若いマックィーンが、ルート66沿いの架空の町ラジエーター・スプリングスに迷い込み、隣人と仲良く、自然体で生きる車たちに出会って、その人生観を180度変えてしまう気持ちが、疲れた大人だからこそ、よーく判ってしまうからだ。
そして本作のもうひとつの楽しみ方が判るのは、やはり車好きだろう。車ラバーのラセターがとことんこだわって作ったため、いたるところにお楽しみが詰まっているからだ。レース以外のシーンでは、キャラクターの動きや個性を活かしたアニメならではの面白さ。
レースシーンは、まるで実写のようなスピードと迫力とリアリティ。レースシーンのホンキっぷりがハンパないのが嬉しくなる。そのホンキっぷりを反映して、キャラクターデザインやヴォイスアクターにこだわりが詰まっているのだ。
■マニアのツボを心得た作画とキャストに思わずニンマリ
作品中のレースはいわゆるオーバルレース。北米で人気の高いNASCARを彷彿とさせるものだ。トヨタは2000年よりNASCARに参戦し、カムリやスープラなどを走らせている
まず車キャラクターのデザイン。主人公のマックィーンはフォードGT40やローラ・カーズのレーシングマシン等を組みあせたハイブリットなデザイン。
そして彼がラジエーター・スプリングスで出会う伝説のレースカー、ドック・ハドソン(声はポール・ニューマン)は、51年のハドソン・ホーネットのストックカーレース仕様車、ファビュラス・ハドソン・ホーネット。
※かつて北米に存在したハドソン・モーター・カー・カンパニーが発売していたホーネットはNASCARで活躍。その後1954年に合弁してアメリカン・モーターズ・コーポレーションとなった。
マックィーンと惹かれ合う同町のサリーは、2002年ポルシェ911カレラ。また、レースに参加する大ベテランのストリップ・ウェザースこと“ザ・キング”は70年プリマス・スーパーバード。彼の奥さんは74年クライスラー・タウン&カントリーのステーションワゴン。
そのほかにも59年シボレー・インパラや、60年フォルクスワーゲン・バス、さらに軍用車として知られる42年ウィリスMB等々をベースにしたキャラクターがズラリ!
これらの名車たちのアニメキャラへの楽しい変身っぷりに加えて、キングの声を担当しているのは、NASCARレースで7回チャンピオンになり、自身も“キング”とあだ名されているリチャード・ペティ。
ゼッケンの43番もペイントスキームも、70年のNASCARシーズンと同じというこだわり方だ。彼を気遣う奥さんの声はペティの奥さんリンダが担当し、そのステーションワゴンは、70年代にペティ一家がレース会場に行くために使っていた車種と同じというから驚かされる。
また、ミハエル・シューマッハがフェラーリF430の声を担当しているのも当時話題になっていた。
ゼッケン11の67年フォード・フェアレーンのモデルは、F1、インディ500、デイトナ500すべてのチャンピオンになった経験のある唯一の名ドライバー、マリオ・アンドレッティで、彼自身がカメオで声も担当している。
そのほかにも、NASCARドライバーのデイル・アーンハートJr.やスポーツアナリスト、ストックカードライバーとして知られるダレル・ウォルトリップらもカメオで声の出演……と、挙げだしたらきりがないくらい。
エンドクレジットにも彼らの名前がズラリと並んでいるので、気になる人は是非ともチェックしてほしい。さすが車好きのラセターらしい遊び心がいっぱいだ。
『カーズ』
(C) 2021 Disney/Pixar
ディズニープラスで配信中
■クルマ好きが作りクルマ好きにおくる愛すべき作品
ジョン・ラセター監督の愛車は、1948年から1954年まで生産されていた名車ジャガーXK120。流麗なボディ形状が特徴だ
ちなみに、そのラセター自身の車事情を尋ねたら、公開当時はこんな答えが返って来た。
「私の好きな車は2台。まずひとつは、私自身所有している52年型ジャガーのXK-120。これは世界でもっともゴージャスな車だと思っている。もう一台は残念なことに持っていないのだが、57年型シボレーコルベット。私が生まれた年に誕生した車だよ。
普段使っているのはメルセデスのSL 55 AMGのスポーツカー。ミニバンももっていて、ビデオがついているから家族と出かけるときに使っている。あとはピックアップトラックとモーターホームだね。妻が愛用しているのはトヨタ・レクサスのコンバーチブルだ」
そして、車好きらしく、こんなことも。
「理想の車を尋ねられたら、メルセデスとミニバンを合わせて2で割ったような車と答えるね。500馬力あって、スポーツカーみたいにスピードが出て、取り外しができるハードトップのミニバン。これがあれば最高だ(笑)」。
みなさんは、どう思いますか?
* * *
●解説
新人カーレーサーのライトニング・マックィーンの夢はピストン・カップで優勝すること。トップを走っていたものの、ピットメンバーの助言を聞かず、最終ラップでタイヤがバーストしてしまい3台同着となる。
決勝レースは1週間後、カリフォルニアで開かれることになり、一番乗りを目指すが、その途中、居眠り運転をしてしまい地図に忘れられたような小さな町に迷い込んでしまう。
世界中で4億6000万ドルを稼ぎ出した大ヒット作。11年にはヨーロッパのワールド・グランプリを舞台にした『カーズ2』、17年には、中年に差し掛かったマックィーンの人生の決断を描くシリーズ第3弾『カーズ/クロスロード』が作られた。これら長編のほかにも数本の短編が作られている。
ラジエーター・スプリングスが位置するルート66は、劇中にも流れるあのチャック・ベリーの名曲でも知られる、サンタモニカとシカゴをつなぐ旧国道のこと。当初のタイトルは『ルート66』だったというくらいなので、その旧道の魅力も描写されている。
主人公のマックィーンの名前の由来は、多くの人がスティーブ・マックィーンだと思ってしまうが、実はピクサーで『モンスターズ・インク』(01)を担当したピクサーのアニメーター、グレン・マックィーンから。
彼も車が大好きで本作を担当するのを楽しみにしていたのだが、その前に病で他界してしまったため、ラセターが彼を偲んでこの名前をつけたのだ。
また、ポール・ニューマンの出演作としては本作がもっともヒットしたものとなり、当人も『評決』(82)以来の会心の演技が出来たと大満足していたと言う。ニューマンは本作公開の2年後に亡くなり、『カーズ2』のハドソンも同じように亡くなった設定になっている。
なおディズニーの公式動画配信サービス、ディズニープラスで『カーズ』を楽しむことができる。
『カーズ』
『カーズ』
(C) 2021 Disney/Pixar
ディズニープラスで配信中
[amazonjs asin="B000TENOTG" locale="JP" tmpl="Small" title="カーズ(Blu-ray)"]
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