先日、ドライバー本誌で取材をしていたときである。
箱根ターンパイクでロケをしていた。一方、別の取材班も同じ場所でロケ中。手分けをして取材していた2つの取材班との距離は数キロ。簡易な無線機でも通話できそうなほど近くでお互いが仕事に専念していたのである。
そんなとき、僕の取材を担当する編集者Kの携帯がけたたましく鳴った。送信者の主は、数キロ離れた取材班からだった。
「そっちに覆面をしたクルマが行きましたよ」
「どんなカタチですか?」
「ハッチバックなので、ホンダの新型かもしれません」
じつは数カ月前から、ネットを賑わしていた情報がある。ホンダだと思われるハッチバックのようなテスト車が、たびたび目撃されていたのだ。唐獅子模様のような、幾何学的な模様で正体を隠した開発車両がさまざまな場所に出現し、スマホカメラの餌食になっていたのである。
「そろそろそっちに着きますよ」
ほどなくして我々の前を通過。スクープ情報かと編集者Kは色めきたち、本来の取材は僕の試乗であるにもかかわらず、オレ様をほったらかして覆面を追っかけ始めたのだ。
そして覆面モデルは、不可解な行動をした。僕らは明らかに取材班の体だった。プロの機材を抱えたカメラマンもいる。だというのに、盗撮から逃れようとするばかりか、むしろ堂々と開発車両を晒すように走行した。カメラを構える編集者Kの目の前で、撮影しやすいように速度を落としたように感じた。
あれ?
そのとき僕は、もしかしたらこれは体のいいティザー広告の一種ではないかと疑ったのだ。
新型車両のデビュー数カ月から、「出るぞ、出るぞ」と期待を煽る広告手法は珍しくはない。たいがいその場合は、暗がりのシルエットだったり、コンビネーションランプの一部だったり、太ももチラ見せで挑発するような画が一般的だ。だが今回は、白昼堂々と、ボディを晒したのである。
怪しいのは、その日はよく晴れた箱根ターンバイクであり、桜最盛期なのだ。箱根には多くのクルマ好きが訪れており、パーキングエリアにはたくさんのカーマニアが集結していた。フォトジェニックや撮影ポイントでは、愛車と桜を絡めた自撮りカットの撮影待ちの列ができているような日だったのだ。そんな日にわざわざ、ひと目のをはばかる極秘開発テストをするだろうか。極めて怪しいのである。
由緒あるドライバーがそのスクープ写真を掲載してしまっている。まんまと利用されたとするのが筋だろう(笑)
〈文=木下隆之 写真=岡 拓/山内潤也〉
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北米や中国でもSUVだし、スクープの反応みるテストドライブかな。