この記事をまとめると
■トヨタの水素燃料を使ったレースへの挑戦は今年で3年目を迎える
夢の「ミライ」が実現できるのは偉大な「カコ」があるから! じつは数十年前から誕生していた「水素」なクルマ4選
■今年は液体水素を使った燃料で挑戦したが一部パーツへの課題も露呈した
■出力はガソリン車並みとなり、レーシングスピードで走行して完走することができた
水素燃料カローラ、3年目の挑戦
今年で3シーズン目を迎えるトヨタの水素燃料カローラによる富士24時間レースへのチャレンジが、今年も5月27~28日に行われた。
今回は、車名を「ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept」と新たにしての登場だ。WEB CARTOPでは、水素燃料という新たな視点から過去2戦の状況をお伝えしてきたが、今年はさらに大きな進化があったことをお届けしたい。対応していただいたのは、「GAZOO Racing Company GR車両開発部 先行開発室 主査/水素エンジンプロジェクト統括主査」の伊東直昭氏である。
まず、今年は燃料が「気体水素」から「液体水素」に変更されたことが大きなトピックとなる。トヨタの水素カローラは、当初から液体水素のほうが燃料としての体積エネルギー密度が高いことを認識した上で、いずれかの段階で気体水素燃料から液体水素燃料に切り替えたいという意思を表明していた。それが今回、正式に「液体水素」を使った参戦体制に切り替わったという流れである。
液体水素の供給元は岩谷産業だ。総合エネルギーと産業ガスを基幹事業とする企業で、ホームページのトップには「脱炭素の未来を拓く」とキャッチフレーズで謳い、「水素が変える、未来を変える」と訴求している。トヨタは、この岩谷産業と手を結び、水素燃料車の開発を推し進めている。
液体水素の特徴は、気体に対して約1.7倍のエネルギー密度となる点にある。もちろん、気体とはいっても大気圧下での水素ガスではなく実際に使われている圧縮水素と比較した場合のことで、トヨタの燃料電池車であるMIRAIで使われている70MPa圧縮の水素(昨年までの水素燃料カローラも同様)と較べた場合である。このことがなにを意味するのかと言えば、搭載水素容量が同じである場合、液体水素は気体水素に対して1.7倍の航続距離になるとことを示している。
まだまだ課題も多いがレーシングスピードで走り無事に完走
もっとも、水素は液体として搭載するものの、エンジン内には気体として送り込まれることになる。トヨタによれば、液体から気体に気化させるタイミングが難しく、この問題の解決が燃料としての液体水素の実用化に際して1つの大きなポイントになったという。実際には、液体水素のタンクから完全断熱した燃料系で送られ、シリンダー内に送り込まれる直前の段階で加温。液体水素はマイナス253度であるため、エンジン冷却液温を利用して加温、気体にするという手順が踏まれている。
超低温の液体水素の利点は、内燃機関の水素燃料としてだけではなく、超電導に関してもかなり有利に働くという。端的に言えば、モーター効率を著しく向上させることができるという。従来と同等の性能(出力)をほぼ半分程度の重量で引き出すことができるという。リニアモーターカーなどで注目される技術だが、電気モーターを使うEVでの応用技術としてもきわめて有効である、ということだ。
さて、液体水素の利点は、タンク内の水素のほとんどを燃料として燃焼できる点にもあるそうだ。液体であるためポンプで汲み上げる形になるが、この方式だとタンク内での汲み残しがほとんどないという。気体である圧縮水素の場合、残量が減って圧力が下がってくるとも燃料としてシリンダー内に送り込むことができなくなるという。
なお、今回の富士24時間では、デビュー当初は課題だったエンジン出力の問題はほぼ解決。ガソリン車並の出力を得るレベルに到達したというが、液体水素ならではの問題もあるようだ。1つは、燃料を汲み上げるポンプの信頼性と耐久性だ。マイナス253度の極低温にさらされるポンプのストレスは計り知れない。このため、レース中に水素燃料ポンプの交換を計画的に実施。交換に要する作業時間は、レース前の見積もりでは3時間半だったというが、2度行われた交換作業では、1度目は4時間、2度目は3時間で作業を終えることができたという。
結果は、ST-Qクラス6台出走中の6位だったが、予選で2分2秒台をマークしたこと、レース中も近似したスピードで走り続けられたことなど、液体水素燃料車として24時間レースの完走を果たした成果は非常に大きなものになっている。ちなみに、時を前後して、今年のル・マン24時間では、ACO(フランス西部自動車クラブ)のピエール・フィオン会長がカンファレンスの席上で、将来的に燃料電池車(水素)に加え、水素燃料車の参戦も認める発言を行った。
また、これにあわせてトヨタは、水素燃料によるレーシングカーの構想があることを豊田章男会長自らが表明。新時代のモーターレーシング、モータリゼーションに向け、水素が担う役割は、より一段と重要度が増してきたことがうかがえる。
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みんなのコメント
気体の水素タンクであれば貯蔵所扱いで、液体水素を気体にして使用する場合液体から気体にするので製造所扱いとなり規制が厳しくなると思いますがどうなんでしょうか?
これは少し物理や化学をかじった人間なら容易に理解できる理屈です。
再生燃料であるe-Fuelが工業的に製造され、その製造コストが化石燃料由来に近づくほど、水素燃料エンジンに将来は無いように思えるのは僕だけではないはず。