ミニバン大国と評されることもある多様なミニバンが売られている日本の自動車マーケットだが、ミニバンがもっとも売れているクルマというわけではない。
むしろ、販売ランキングなどの数字からすると、ハイブリッドでなければ売れない「ハイブリッド王国」であるというべきだろう。また、最近では「ぶつからない」ことを期待させるプリクラッシュセーフティシステムを搭載していることも売れるクルマの条件となりつつある。
さて、2017年9月のマイナーチェンジで商品力を大幅にアップさせたホンダ・ステップワゴンに試乗することができた。同モデルが属するM(ミドル)クラス・ミニバンではトヨタのヴォクシー/ノア/エスクァイア、日産セレナといった強力なライバルの後塵を拝する状況にあるステップワゴン。
その進化は、まさしく徹底したマーケットインという意思を感じさせる。まず、このクラスでは主流であり、これまでのステップワゴンにおいても過半数を占めているカスタム仕様「スパーダ」を大きく変身させた。
従来のスパーダは標準車に対してグリルやバンパーによってカスタム色を出していたが、新型ではLEDヘッドライトを採用、ボンネットを高くし、グリルも大きくした。まさにMクラス・ミニバンのトレンドといえる押し出しの強いフロントマスクに変身したのだ。
新しいフロントマスクの奥に置かれるパワーユニットも新しい。これまでのステップワゴンは1.5リッターVTECターボだけの設定となっていたが、新しいスパーダには2.0リッターアトキンソンサイクルi-VTECエンジンに2モーターを組み合わせた「スポーツハイブリッドi-MMD」を搭載。ついにミニバン+ハイブリッドという市場の求める最強タッグを実現した。
さらにホンダの進めるプリクラッシュセーフティ+運転支援システムである「ホンダセンシング」を標準装備。ハイブリッドに関してはパーキングブレーキを電子式にしたこともあり、渋滞に対応する全車速でのACC(追従クルーズコントロール)を実現した。
もちろん、脇見運転などドライバーのミスをカバーする衝突被害軽減ブレーキや車線維持ステアリングアシスト、歩行者を避ける事故低減ステアリングといった機能も有している。
押し出しの強いマスク、燃費性能に優れたハイブリッドシステム、そして先進安全。まさに日本のミニバンの王道といえるモデルに変身した。
ある意味、マイナーチェンジ前のステップワゴン・スパーダがプロダクトアウト的なクルマだったとすると、マイナーチェンジ後はマーケットイン的にユーザーニーズをきめ細かくリサーチして生まれたといえる。
ハイブリッドという点で、トヨタのMクラス・ミニバン三兄弟に並んだ。渋滞対応のACCとLKAS(車線維持支援システム)の組み合わせは、日産セレナの『プロパイロット』と伍する機能だ。
しかも、ACCとLKASは高速道路の制限速度アップの動きに合わせて表示上は135km/hまで設定できる最新版となっている。
しかし、ホンダらしいと感じるのは、その圧巻のパフォーマンスだ。JC08モード燃費で25.0km/L(新基準であるWLTCモードでは20.0km/L)という数値はトヨタ三兄弟の1.8リッターハイブリッドが実現する23.8km/Lの燃費性能を超えるもの。しかも、燃費重視のパワートレインではない。
トヨタの1.8リッターハイブリッドのシステム最高出力が100kW(136PS)なのに対して、ホンダの2.0リッターハイブリッドは158kW(215PS)となっている。これはV6級の出力といえる。
しかも、2モーターハイブリッドは基本的にスタートから100km/h手前まではモーターだけで走る(エンジンは発電に使われている)ので、変速ショックがなく、加速が滑らかというアドバンテージがある。
すでにアコードやオデッセイといったホンダ車で味わっている「スポーツハイブリッドi-MMD」のスムースさは、大排気量でトルクバンドの広い多気筒エンジンのような余裕を感じさせる。新しい押し出しの強まったフロントマスクとマッチしたキャラクターのパワーユニットだ。
さらに嬉しいのは、ハイブリッド用バッテリーをフロントの床下に搭載したことにより、低重心というステップワゴンの特徴が強まり、またフロアの剛性感が増していること。
高速道路インターチェンジに見られる大きく曲がりながら坂を登っていくようなシーンで、こうしたパワーとシャシーの恩恵を受けることができる。モーター駆動ならではのリニアリティと相まって、走らせることの楽しさも増していることが実感できた。
大胆なフェイスリフトと、燃費とパフォーマンスに優れたハイブリッドシステムを手に入れた新生ステップワゴン・スパーダ。2017年度上半期では、トヨタ・エスクァイア単体での販売台数にも届かない1万8994台とMクラス・ミニバンの最下位だったが、このマイナーチェンジにより、どこまで巻き返すことができるのだろうか。かなりの商品力アップだけに勢力図を変えていきそうだ。
【参考】
2017年度上半期(4月~9月)
Mクラス・ミニバン販売台数 ※自販連調べ
トヨタ・ヴォクシー 39,988台
日産・セレナ 37,503台
(文/写真:山本晋也)
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