恐らく世界で最も成功しているツーリングカー・レースといえば、我が国のスーパーGTだろう。2005年以降、それまでの全日本GT選手権(JGTC)を引き継いだ形で行なわれるこのシリーズ、4万人前後の観客動員数を誇る。このスーパーGT発展の立役者が2007年に運営を引き継いだGTアソシエイション(GTA)代表の坂東正明だ。この坂東氏のもと、GTAは次々と斬新な手法を繰り出してスーパーGTを世界一のツーリングカーレースに育て上げた。
今回、新型コロナウイルスが蔓延する中、GTAは徹底したコロナ対策を施してレースの開催に踏み切った。その施策と現状を坂東氏に語ってもらった。
■スーパーGT、来季FCY導入はまだ不透明? GTA坂東代表「ラグや精度の問題もある」
ーーコロナ対策はこれ以上ない万全の対策を講じてレース開催に漕ぎ着けました。
「コロナが襲ってきたとき、GTAとして独自のロードマップとガイドラインを作り、実行に移した。まず、開催するサーキットは感染リスクを低減するとの観点から移動に公共交通機関は使わないことにし、飛行機などでの移動が必要な岡山、菅生、オートポリスを止めて富士と鈴鹿ともてぎに絞った。この3サーキットでのレースで最適の環境を作ることで後に繋げていこうと考え、そこからスタートすることを自動車メーカーやチーム、その他の関係者に伝えた。みんな理解してくれた上で、最低8戦はやってくれという要望がチームから出た」
ーー実質的にレース開催期間は通常の半分、5ヵ月ほどになりますが、そこで8戦というのは厳しいスケジュールですね。
「うん、でもGTA同様チームにもレース数をこなす理由があってそれは理解出来たので、8戦やることを前提に考え、まず富士スピードウェイで試行することを決め、6月の末に公式テストを実施した。それ以前にも3月末に富士で公式テストを行う予定だったけど、東京都が外出自粛要請を出し、静岡県も東京都などの特定地域からの移動の極力の回避を要請する旨の判断を下したので、急遽3月の公式テストは開催前日に中止した。もうサーキットに入っていたチームもあったが、残念だけど中止だから帰ってくれと。それで一度仕切り直しをして6月の末のテストに漕ぎ着けたわけだ。そのテストも最低限の人数で密にならないようにとチームにはお願いし、チーム間では行き来をしないなど、極力人間同士が接触しないような策をとった」
ーー実際のレースとなるとテストとは感触が違いますね。
「手順は同じ。テストでの実施内容に加えてオフィシャルに加わってもらうが、オフィシャルの管理はオーガナイザーに任せ、レース前2週間の症状確認や事前の問診に加え、サーキット入り口での検温を行ない、7月に富士スピードウェイで無観客で開幕戦を開催した。8月にも2戦目をまた富士でやった。テストを含めて3回富士でやったわけで、3回やればある程度問題をクリア出来る。そこで問題がないことを確認し、第3戦に鈴鹿に行った。富士でやったことを鈴鹿の人達にも理解してもらい、次がもてぎ。さらに、もてぎでの大会開催前にみんなにPCR検査の実施を伝え、もてぎ大会決勝日の翌日から3日間かけて昭和大学病院で検査を実施した。この検査で1300人ほど受けた他、独自で受けた人が200ほどいたが、その1500人全員が陰性だった。ひとりやふたりは陽性がでるんじゃないかと思っていたが、ひとりもでなかった。それは、みんなが状況を自覚して自己管理を徹底していたからだと思う」
ーーコロナ禍の中のレース開催だけでなく、医療従事者への寄附など、社会的な活動も行ないました。
「コロナ禍の中でやれることをやろう、と。それでスーパーGTシリーズのパートナースポンサーのBHオークションと協力してチャリティーオークションをやって集まった2664万円を日本財団に寄附した。集まったお金はコロナ禍で一番大変な仕事をしている医療従事者に行き渡るようにと、寄付先を日本財団にした。やれることはやりたいから。それが日本のモータースポーツのためになると信じてね」
ーー先が見えない中での活動はリスクもありますね。
「先が見えないためにその場その場の対応が必要になり、そんな中でのレース開催はものすごく疲れる。週末3日間のイベントは面白いとか興奮するとかよりもとにかく疲れる。ストレスが溜まる。しかし、そのストレスと上手く付き合っていかないと、ことは前進しない。私の場合はストレス解消に釣りに行くんだけど、そんな時に限って釣れないからまたストレスが溜まる(笑)」
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