オリンピックの聖火を伝えゆくクルマ
開幕が近づいてきた東京オリンピック。聖火がギリシャから届くのは3月20日。場所は東日本震災から10年が経過し、復興を遂げつつある東北宮城県の松島市。近隣の地点を経て26日に福島県楢葉町より聖火リレーがスタートし国内全域を巡っていきます。そこで、昭和に行われた東京オリンピック、そして今年開催のオリンピックの聖火リレーの搬送車・伴走車について注目してみましょう。
トヨタが東京オリンピック・パラリンピックに投入するモビリティ変革のロボットたち
東京でのオリンピックは2回目で、第1回目は1964年。令和に代わった現在からは三代前の元号となる昭和39年のことでした。高度成長時代の昭和30年代後半~40年代前半には、歴史的な名車も数多く誕生しています。そうした時代背景のなか、64年の東京オリンピックでは国産車がスポットライトを浴びることになりました。それはオリンピックのシンボルでもあった聖火リレーでランナーの伴走車として登場したシーンなのです。
64年の東京オリンピックでは、大会組織委員会から国内の自動車メーカー各社に車両提供の依頼があり、それに応える格好でトヨタと日産、そして日産に吸収合併される前のプリンス自動車工業と、後に独立して三菱自動車工業となる三菱重工業の自動車部門から、それぞれクラウン・エイト(トヨタ)、セドリック・スペシャル6(日産)、グロリア・スーパー6(プリンス)、デボネア(三菱)などが提供されています。
クラウン・エイトは当時としては珍しいV8エンジンを搭載、セドリックとグロリアはベーシックモデルの直4エンジンを、新開発した2直6エンジンに換装したトップモデル。そして64年に販売が開始されたデボネアも直6エンジンを搭載するフラッグシップモデルでした。大会組織委員会に提供された公用車はこれ以外にもありましたが、いずれも当時の国内メーカーの高級セダンが中心となっていました。
舗装率が低い1960年代に聖火を運ぶための工夫
そんな国産最高級モデルでしたから、当時一般的にはショーファードリブンで、白い手袋をはめたお抱えドライバーが運転し、オーナー(ご主人様)はリアシートで踏ん反り返っているのが想像できる図ですが、オリンピックの聖火搬送車となると状況は変わってきたようです。
聖火のトーチを掲げて走る聖火ランナーの後方から“予備”の聖火トーチを運ぶのが搬送車の役目でしたが当時の日本はまだ、道路の舗装率が数パーセントという状況で、単純にリアシートに乗せれば済むというような状況ではありませんでした。そこでリアシートには踏ん反り返ったご主人が座る代わりに、かつてお蕎麦屋さんのバイクに備え付けていたような、岡持ちをぶら下げる出前機を装着していました。そんなモノづくり大国ニッポンのエピソードも誕生していました。
先ごろ、パシフィコ横浜で開催されたNostalgic 2daysにはプリンス・グロリアの聖火搬送車が展示されていました。また2018年の4月に幕張メッセで開催されたAUTOMOBILE COUNCIL 2018ではトヨタが自社ブースに、日産セドリックの聖火搬送車を展示していました。
日産では座間にあるヘリテイジコレクションでセドリックの聖火搬送車を保存していますが、トヨタが日産からこの記念車を借り出して展示した、というのが実情ですが、トヨタの懐の深さが話題になったことを覚えています。メーカーの意地とかいうレベルを超越した、日本の記念すべき工業製品がスポットライトを浴びたことは、それほどまでに“自動車人”として、そしてそれ以前に日本人として、とても誇らしい出来事だったに違いありません。
2020年はトヨタのコンセプトモデルが聖火伴走
2年前、AUTOMOBILE COUNCIL 2018に、セドリックの聖火搬送車と並んで展示されていたのはトヨタMIRAIでした。これでも十分に未来志向ではあるのですが、今回の東京オリンピックで聖火リレーの伴走車としては、さらに未来志向の強いLQが予定されています。LQとは、昨年の10月の東京モーターショー2019のMEGA WEB会場で開催された「FUTURE EXPO」に、新しい時代の愛車を具現化するコンセプトモデルとしてトヨタが発表したモデルです。
今年の6月からは『トヨタYUIプロジェクトTOURS 2020』と銘打った試乗会が開催されることになっています。聖火リレーで見るだけでなく実際にドライブして未来を味わってみるのもお薦めです。
2回目となる今度の東京オリンピックでトヨタは、オフィシャルサプライヤーとして車両提供を一手に引き受けることになっています。
半世紀経った時に日本のクルマも凄かったんだ、と思い返す時がまた来るのでしょうか。果たして国産車の置かれた立場は? そして国内のクルマ事情は、いったいどうなっているのでしょうか? クルマだけでないあらゆるモビリティのテクノロジーはどうなのか、期待と心配が相半ばするところです。
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