積算1万6346km ドイツ・フランクフルトへ
美しい音楽へ心を強く震わせる人は、山間部にこだまする、コスワース・エンジンの響きにも魅了されるのだろうか。世界的指揮者で、楽壇の帝王とも称されたヘルベルト・フォン・カラヤン氏は、ポルシェ911と911ターボ RSを所有していたという。
【画像】心を鷲掴みにする優美な容姿 MC20 最新の電動マセラティ 2004年のMC12も 全137枚
運転時の深い共感は、エンジンやサウンドだけが導くものではない。包まれ感のあるボディに身体を支えるシート、フロントガラスからの眺め、シャシーの動き、ステアリングホイールの感触や反応、ドアミラーに映るフォルムなど、すべてが相乗している。
それらが、作曲家、エンニオ・モリコーネ氏のサウンドトラックのように、ありふれた景色を印象的な情景に変える。想像力が駆り立てられ、いつもの高速道路が素晴らしいドライブルートに変わる。
なんて、ちょっとキザに始めたが、筆者はアウディ e-トロンの発表イベントへ参加するため、先日ドイツ・フランクフルトを目指した。長期テストのマセラティMC20で。
賢明なビジネスマンなら、グレートブリテン島からは飛行機で移動するはず。しかし、せっかくこのクルマに乗っているのだから、長距離ドライブを体験したいと考えて当然。荷室は意外に広く、サスペンションは柔らかめで、車内は居心地が良い。
優秀なグランドツアラーといえるだろうか。ドアポケットに入れた小物は、ドアを開く度に道路へ散らばるが、ワクワクしながらV6エンジンを始動させた。
濡れたル・マン24時間レースのシーンが重なる
いつも通りユーロトンネルをくぐり、欧州大陸へ上陸。子どもたちは、恥じることなくイエローのボディへ見惚れる。大人からも、多くの視線が向けられる。流石に、この美しさを無視することはできないのだろう。誰でも、多少なりとも興味は抱くはず。
フランスからベルギーへ。天気は生憎の雨。ブリヂストン・ポテンザは、ウェット時の操縦性に若干の不満があるものの、ストレートでの不安はない。ハイドロプレーニング現象を心配したが、まったく問題なかった。
そもそも、MC20は落ち着いている。傷んだアスファルトや、ワダチの凹凸へ気を使う必要性も低い。
降りは激しさを増す一方で、スピードを必要以上に高めることは危険だった。それでも、順調に距離を消化できた。夜間の雨は歓迎できないが、シフトアップする度に、最高だなとしみじみしてしまった。
フロントタイヤからは、フェンダーアーチを超えて、噴水のような水しぶきがあがる。激しい水滴の渦が、モニター式のバックミラーを埋める。筋肉質なリアのフェンダーラインが、ドアミラーに映る。
レーシングカーさながらの、センターワイパーは激しく左右へ踊る。ガラスで覆われたキャビンは、薄暗く静か。トレーラーの赤いテールライトが、次々に後ろへ流れていく。
実際の環境はまったく異なるが、ル・マン24時間レースで、濡れたミュルザンヌ・ストレートを疾走しているような、そんなシーンが重なる。特別なMC20だからだろう。
アストン マーティンに並ぶグランドツアラー
途中、サービスエリアへ。湯気をうっすら漂わせながら、大型トラックの横でガソリンを補充する。タンクは60Lと小さいから、あっという間に満タン。110km/hを維持すれば、燃費は11.3km/L。640km程度は走れる。
しかし、それには辛抱強い心が必要。実際は、500kmが良いところ。フェイスリフトの時に、80Lへ拡大して欲しい。
7時間ほど運転を続けて、前泊。翌朝にもう少し走らせて、フランクフルトへ到着した。
印象的だったのが、身体がどこも痛くならなかったこと。上級サルーンでも長時間運転すれば、大抵はどこかがこるものだ。酷い時は短時間でも。これには驚いた。一方で、車内のノイズは小さくない。うるさい程ではないけれど。
グレートブリテン島へ戻る途中は、アウトバーンで300km/h以上を目指してみた。290km/hを超えても、まだ加速には勢いがあった。ところが、多くのドイツ車が249km/hでリミッターが掛かるように、305km/hで頭打ちになった。
マセラティは、最高速度328km/hを主張している。明らかに、305km/h以上へ届いただろう。ちょっと納得できなかった。
3日間に走った距離は、約1300km。乗り心地は感動的に快適で、長時間でも運転しやすく、悪天候でも頼もしいスーパーカーだと知れたことは、大きな収穫といえる。疲れは最小限といえ、残響が頭に残るほど賑やかなわけでもなかった。
走り込んで汚れたボディも美しい。MC20は、アストン マーティンに肩を並べるグランドツアラーだ。
積算1万6995km MC20の全幅はほぼ2m
MC20を自宅前の車寄せへ停めた直後、近所の人が明日はゴミの日だと教えてくれた。この全幅は、ドアミラー抜きで1965mm。いつもやってくるゴミ収集トラック、デニス・イーグルの幅は2.5m位ある。
車道自体の幅は4mちょっとと狭いのだが、充分な幅の路肩がある。翌朝確認したが、MC20のボディはもちろん無傷だった。
積算1万7252km 先端がシャープなサイドシル
MC20のサイドシルは、ワイドでカッコいい。しかし、ドアを開くとシャープな先端が露出し、足首に当たって痛い思いをすることがある。これまで2回、そんな事があった。
斜め上方へ開くシザーズドアも、路肩へ寄せすぎていると縁石に当たりそうになる。ボディを飾るカーボンファイバー製トリムはオプションで、3万6240ポンド(約706万7000円)もするから、常に気は抜けない。
テストデータ
気に入っているトコロ
ノーズリフト機能:起伏が大きく、石畳が広がるフランスの道では、ノーズリフト機能は不可欠。驚くほど心配が小さくなる。
気に入らないトコロ
オーブン状態の荷室:マフラーの直上にある荷室の中は、恐らく走行中は50度を超えているはず。フランスからお土産のチーズを運ぶのに、適した場所ではない。
英国価格
モデル名:マセラティMC20(英国仕様)
新車価格:22万2025ポンド(約4329万円)
テスト車の価格:31万735ポンド(約6059万円)
テストの記録
燃費:7.4km/L
故障:なし
出費:なし
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みんなのコメント
ちなみにマセラティに乗る時の正装は春雨スーツ